[1] 古典系の大分配関数 Ξ、熱力学ポテンシャル Ω、平均粒子数 ⟨N⟩
グランドカノニカル分布は、粒子数 N もエネルギーも揺らぐ系で、微視的状態 s の重みを e−β(Es−μNs) とおく。大分配関数 Ξ はその重みの総和で、Ω=−kBTlnΞ から熱力学量が出る。古典系の運動量和に付く 1/N! は、同種粒子を区別しないための因子である。問題文が運動量和を VN∫dp1⋯dpN/(h3NN!) と与えているので、この因子は式に入っている。「N についての総和を実行して」という指示は、∑NxN/N! の形が出ることを見越した合図で、ヒントのテイラー展開 eX=∑mXm/m! にそのまま当てはまる。
確かめは3つある。次元は、h2/(2πmkBT) が長さの2乗なので、Z1=V/λT3(λT=h/2πmkBT は熱的ド・ブロイ波長)は無次元になり、指数に入れられる。また Ω=−kBT⟨N⟩ は、均一な系で成り立つ Ω=−pV と合わせると pV=⟨N⟩kBT、すなわち理想気体の状態方程式である。数値例として、ヘリウム4を 300 K、1 気圧(1.013×105 Pa)の気体とする(仮定)。粒子数密度は ⟨N⟩/V=p/(kBT)=2.45×1025 m−3、λT=0.504 A˚ で、eμ/kBT=(⟨N⟩/V)λT3=3.13×10−6 となる。化学ポテンシャルは μ=−12.7kBT=−0.328 eV と負で、eμ/kBT≪1 が古典近似の成立条件である。
N! を落とすと、Ξ=∑NxN=1/(1−x) という幾何級数になり、x<1 でしか収束しない。x=0.5 なら ⟨N⟩=x/(1−x)=1 と、正しい 0.5 の2倍になる。上の気体を 1 μm3 の箱に入れると x=⟨N⟩=2.4×107 で、級数は発散して Ξ が定義できない。ガウス積分を1成分ぶんだけ使って Z1=V(2πmkBT/h2)1/2 とした場合は、Z1 が長さの 2 乗の次元をもち、指数関数の中に入れられない。
[2] ⟨(N−⟨N⟩)2⟩=−kBT∂2Ω/∂μ2 の証明
証明に使ったのは、Ξ が重み ws の総和であることと、μ が eβμNs の中の Ns にだけ掛かることの2点である。μ で1回微分すると βNs が重みに掛かり、2回微分すると (βNs)2 が掛かる。lnΞ は βμ の関数として粒子数分布の累積母関数に当たり、1階微分が平均、2階微分が分散を与える。3階微分が3次の累積量を与えるのも同じ理由である。微視的状態の数え方(古典の積分、フェルミ粒子の占有数の制約、ボース粒子の占有数の制約)に触れていないので、問題文のとおり古典系か量子系かによらず成り立つ。成立条件は、V と T を固定して μ だけを動かすことである。
単位は、Ω と μ がエネルギーなので ∂2Ω/∂μ2 は J−1 で、kBT を掛けて無次元になる。粒子数の2乗平均偏差が無次元であることと合う。式そのものも数値で確かめた。計算が追える小さな系として、kBT=1 の単位で、準位 0.3, 0.9, 1.4, 2.0, 2.7, 3.1 をもつフェルミ粒子 6 準位系(仮定、μ=1.1)、準位 0.5, 1.1, 1.8 のボース粒子 3 準位系(仮定、μ=0.1)、x=5 の古典系を用意した。各微視的状態を全部書き出して分散を直接求めた値と、Ω(μ) を数値的に 2 回微分した値は、どれも 10−18 より小さい差で一致した。分散はフェルミ系で 1.156(⟨N⟩=2.242)、ボース系で 7.361(⟨N⟩=2.839)、古典系で 5.000(⟨N⟩=5.000)であった。
kBT を掛け忘れて −∂2Ω/∂μ2 をそのまま分散とすると、古典系で ⟨N⟩=100、T=300 K なら ⟨N⟩/(kBT)=2.41×1022 J−1 となり、次元も値も合わない。符号を +kBT∂2Ω/∂μ2 と取り違えると、同じ古典系で −100 という負の分散が出る。∂2Ω/∂μ2=−∂⟨N⟩/∂μ は負なので、分散が正になるように −kBT が付く。
[3] 古典理想気体の粒子数揺らぎ
答えを T,μ,m,⟨N⟩ のうち必要なものだけで書く指示は、eμ/kBT と m,T を含む係数がすべて ⟨N⟩ にまとまることを見越している。⟨N⟩ の係数 V(2πmkBT/h2)3/2 は μ を含まないので、微分で変わらない。
この結果は、[1] の確率 PN=e−xxN/N! がポアソン分布であることから直接も出る。ポアソン分布は平均と分散がどちらも x に等しい。古典理想気体は粒子が互いに独立なので、領域の中にある粒子数がポアソン分布に従うという事実とも合う。数値で見ると、⟨N⟩=100 で相対的な揺らぎは 0.1 すなわち 10%、⟨N⟩=1023 で 3.2×10−12 である。[1] のヘリウムを 1 μm3 に区切った領域では、⟨N⟩=2.4×107 で相対的な揺らぎは 2.0×10−4 となる。巨視的な系では粒子数が事実上決まった値になり、グランドカノニカル分布と粒子数を固定した分布で、熱力学量が一致する理由がここにある。
⟨N⟩∝μ と見て ∂⟨N⟩/∂μ=⟨N⟩/μ とし、σN2=(kBT/μ)⟨N⟩ と答える誤りもある。古典理想気体では ⟨N⟩∝eμ/kBT で、μ のべきではない。上の気体では μ=−12.7kBT と負なので、⟨N⟩=100 に対して σN2=−7.89 となり、分散が負になって成り立たない。
[4] フェルミ粒子の揺らぎ:空欄(ア)(イ)、古典系との比較、T→0
使う知識は、占有数が 0,1 だけをとることと、f の微分 ∂f/∂μ=βf(1−f) である。1つの準位の占有数 n は、1 になる確率が f の二項分布に従い、平均 f、分散 f(1−f) をもつ。準位は互いに独立なので全体の分散は和になる。この読み方から σN2=∑f(1−f) は、[2] の式を使わなくても確かめられる。
空欄(ア)に入る式は、導出が決める。選択肢のうち kBT/μ を含む (a)〜(f) は、∂⟨N⟩/∂μ を ⟨N⟩/μ の程度とみた形で、係数 23 を除けば上の T→0 の式に似る。しかし (3) 式は全温度で成り立つ恒等式なので、⟨N⟩ に分布関数の和を足した形になり、(ア)は (g) に決まる。
数値で、3次元の自由なフェルミ粒子気体(スピンなし)について σN2/⟨N⟩ を μ/(kBT) ごとに数値積分で求めた。
μ/(kBT) | 100 | 20 | 5 | 0 | −5 |
σN2/⟨N⟩ | 0.0150 | 0.0747 | 0.280 | 0.791 | 0.998 |
μ/(kBT)=100 で 23kBT/μ=0.0150 と一致し、μ≪−kBT の希薄な極限では古典系の 1 に近づく。フェルミ粒子の揺らぎは、古典系の 1 から T→0 の 0 まで、温度とともに連続して変わる。
(イ)の符号を +f2 とすると、T=0 では f=1 の準位と f=0 の準位だけになり、σN2=⟨N⟩+∑f2=2⟨N⟩ となる。⟨N⟩=106 なら 2×106 で、「完全に詰まった準位や空の準位には占有数の揺らぎが無い」という事実に反する。
[5] ボース粒子の揺らぎ:空欄(ウ)、古典系との比較、ボース・アインシュタイン凝縮
ボース粒子の1準位の占有数は、n が大きいほど次の粒子が入りやすくなる(遷移の重みに 1+n が付く)性質をもち、粒子が同じ準位に集まる。占有数の分散 n(1+n)=n+n2 のうち、n が古典系(ポアソン分布)に当たる項で、n2 がボース粒子に固有の上乗せである。フェルミ粒子の −f2 とは符号が逆になる。同じ3次元の自由粒子の気体(スピンなし)で σN2/⟨N⟩=Li1/2(z)/Li3/2(z)(z=eμ/kBT)を数値で求めると次のようになる。
z=eμ/kBT | e−5 | 0.5 | 0.9 | 0.99 |
σN2/⟨N⟩ | 1.002 | 1.29 | 2.49 | 7.14 |
z≪1 の希薄な極限では古典系の 1 に近づき、z→1(凝縮が始まる点)に近づくほど増える。
絶対零度の凝縮状態では、1つの準位に ⟨N⟩ 個がそろい、占有数の分布は幾何分布 P(N)=(1−x)xN(x=⟨N⟩/(⟨N⟩+1))で、平均 ⟨N⟩、分散 ⟨N⟩+⟨N⟩2 をもつ。⟨N⟩=106 なら標準偏差は 1.0000005×106 で、相対的な揺らぎは 1.0(100%)である。古典系の標準偏差は 103(相対 0.1%)、フェルミ粒子では T→0 で 0 になる。3つの系を並べると、相対的な揺らぎは、古典系で 1/⟨N⟩、フェルミ粒子で T→0 のとき 0、ボース粒子の凝縮状態で 1 である。相対的な揺らぎが粒子数を増やしても小さくならない結果は、グランドカノニカル分布が粒子数を固定した実際の孤立系を表せていないことの表れでもある。粒子数を固定すれば、T=0 の凝縮体の粒子数は揺らがない。
フェルミ粒子の符号を持ち込んで σN2=⟨N⟩−⟨N⟩2 とすると、⟨N⟩=106 で −1.0×1012 となり、分散が負で成り立たない。
解答
[1] 古典系の大分配関数 Ξ、熱力学ポテンシャル Ω、平均粒子数 ⟨N⟩
N 個の粒子の運動量和を、問題文の運動量積分で書く。指数の中の運動エネルギーは粒子ごとの和なので、積分は粒子ごとの積に分かれる。
pi∑e−β∑iEpi=h3NN!VNi=1∏N∫dpie−βpi2/(2m)=N!1[h3V∫d3pe−βp2/(2m)]N.
運動量の成分ごとにガウス積分の公式を a=β/(2m) で使うと、∫dpxe−apx2=π/a=2πmkBT である。3成分の積から ∫d3pe−βp2/(2m)=(2πmkBT)3/2 となる。そこで
Z1≡V(h22πmkBT)3/2
とおくと、N 粒子の運動量和は Z1N/N! である。eβμN を掛けて N について足し、指数関数のテイラー展開を使う。
Ξ=N=0∑∞N!(eμ/kBTZ1)N=exp(eμ/kBTZ1).
Ω=−kBTlnΞ から
Ω=−kBTV(h22πmkBT)3/2eμ/kBT.
平均粒子数は、x≡eμ/kBTZ1 とおくと、粒子数 N の確率が PN=ΞxN/N!=e−xN!xN なので
⟨N⟩=N=0∑∞Ne−xN!xN=xe−xN=1∑∞(N−1)!xN−1=x=V(h22πmkBT)3/2eμ/kBT.
これは −∂Ω/∂μ に等しく、Ω=−kBT⟨N⟩ の関係も成り立つ。
[2] ⟨(N−⟨N⟩)2⟩=−kBT∂2Ω/∂μ2 の証明
(1) 式の和は、すべての粒子数 N と、各 N で許される微視的状態 s についての和である。状態 s の粒子数を Ns、エネルギーを Es、重みを ws=e−β(Es−μNs) と書くと、Ξ=∑sws である。Es は V,T だけで決まり μ に依らないので、μ で微分すると ∂ws/∂μ=βNsws となる。まず1階微分は
∂μ∂lnΞ=Ξ1s∑βNsws=β⟨N⟩⟹∂μ∂Ω=−kBT∂μ∂lnΞ=−⟨N⟩.
⟨N⟩=∑sNsws/Ξ をもう一度 μ で微分する。分子は βNs2ws の和、分母 Ξ の微分は β⟨N⟩Ξ を与えるので
∂μ∂⟨N⟩=β[Ξ∑sNs2ws−(Ξ∑sNsws)2]=β(⟨N2⟩−⟨N⟩2)=β⟨(N−⟨N⟩)2⟩.
∂⟨N⟩/∂μ=−∂2Ω/∂μ2 と β=1/(kBT) を使って整理する。
⟨(N−⟨N⟩)2⟩=kBT∂μ∂⟨N⟩=−kBT∂μ2∂2Ω.
[3] 古典理想気体の粒子数揺らぎ
[1] の結果から ⟨N⟩=−∂Ω/∂μ=V(2πmkBT/h2)3/2eμ/kBT で、μ への依存は eμ/kBT だけである。したがって
∂μ∂⟨N⟩=kBT⟨N⟩,∂μ2∂2Ω=−∂μ∂⟨N⟩=−kBT⟨N⟩.
(2) 式の右辺は
−kBT∂μ2∂2Ω=−kBT⋅(−kBT⟨N⟩)=⟨N⟩.
標準偏差は ⟨N⟩ なので、平均に対する相対的な揺らぎは σN2/⟨N⟩=1/⟨N⟩ である。
[4] フェルミ粒子の揺らぎ:空欄(ア)(イ)、古典系との比較、T→0
スピンを無視すると、波数 k の準位の占有数 nk は 0 か 1 である(パウリの排他原理)。準位が独立なので、大分配関数は準位ごとの積になる。
Ξ=k∏n=0,1∑e−β(εk−μ)n=k∏[1+e−β(εk−μ)],Ω=−kBTk∑ln[1+e−β(εk−μ)].
μ で微分して平均粒子数を得る。
⟨N⟩=−∂μ∂Ω=k∑1+e−β(εk−μ)e−β(εk−μ)=k∑f(εk),f(ε)=eβ(ε−μ)+11.
u=β(ε−μ) とおくと df/du=−eu/(eu+1)2=−f(1−f)、∂u/∂μ=−β なので ∂f/∂μ=βf(1−f) である。[2] の式から
σN2=kBT∂μ∂⟨N⟩=k∑f(εk)[1−f(εk)]=k∑f(εk)−k∑f(εk)2=⟨N⟩+k∑[−f(εk)2].
(3) 式と見比べて、(ア)は ⟨N⟩(選択肢 (g))、(イ)は −[f(εk)]2 である。
古典系の揺らぎは [3] より ⟨N⟩ である。フェルミ粒子では 0<f<1 なので ∑kf2>0 となり、同じ ⟨N⟩ でも σN2=⟨N⟩−∑f2<⟨N⟩、すなわち古典系より小さい。1つの準位に入れる粒子が高々1個なので、占有数が平均から大きくずれにくいからである。
T→0 では、εk<μ の準位で f=1、εk>μ の準位で f=0 となり、どの準位でも f2=f である。したがって ∑f2=⟨N⟩ で σN2→0 となる。有限温度で f(1−f) が 0 でないのは εk が μ の前後 kBT 程度の幅にある準位だけで、その数は D(μ)kBT に比例する。気体の準位を3次元の自由粒子 εk=ℏ2k2/(2m) とすると、T=0 の近くで ⟨N⟩=6π2V(ℏ22mμ)3/2∝μ3/2 なので、∂⟨N⟩/∂μ=2μ3⟨N⟩ となり
σN2≃23μkBT⟨N⟩ ⟶ 0(T→0).
二乗平均は T に比例して 0 へ減少する。
[5] ボース粒子の揺らぎ:空欄(ウ)、古典系との比較、ボース・アインシュタイン凝縮
ボース粒子では、波数 k の準位の占有数 nk=0,1,2,… に上限が無い。大分配関数は準位ごとの等比級数の積である。
Ξ=k∏n=0∑∞[e−β(εk−μ)]n=k∏1−e−β(εk−μ)1,Ω=kBTk∑ln[1−e−β(εk−μ)].
級数の収束には μ<εk(すべての k)が要り、最低準位 ε0=0 に対して μ<0 である。μ で微分して
⟨N⟩=−∂μ∂Ω=k∑n(εk),n(ε)=eβ(ε−μ)−11.
u=β(ε−μ) とおくと dn/du=−eu/(eu−1)2=−n(1+n) なので ∂n/∂μ=βn(1+n) である。[2] の式から
σN2=kBT∂μ∂⟨N⟩=k∑n(εk)[1+n(εk)]=⟨N⟩+k∑[n(εk)]2.
(ウ)は [n(εk)]2 である。n2>0 なので σN2>⟨N⟩、すなわち同じ ⟨N⟩ の古典系より大きい。
絶対零度で全粒子が k=0 の準位にあるとき、⟨N⟩=n(ε0) で、ほかの準位の n は 0 である。このとき μ は 0 の直下にあり(n(ε0)≃kBT/(−μ) から μ≃−kBT/⟨N⟩)、∑kn2=⟨N⟩2 となる。したがって
σN2=⟨N⟩+⟨N⟩2≃⟨N⟩2(⟨N⟩≫1).
最終答
[1] 古典系の大分配関数 Ξ、熱力学ポテンシャル Ω、平均粒子数 ⟨N⟩
Ξ=exp[V(h22πmkBT)3/2eμ/kBT]、Ω=−kBTV(h22πmkBT)3/2eμ/kBT、⟨N⟩=V(h22πmkBT)3/2eμ/kBT
[2] ⟨(N−⟨N⟩)2⟩=−kBT∂2Ω/∂μ2 の証明
⟨(N−⟨N⟩)2⟩=kBT∂μ∂⟨N⟩=−kBT∂μ2∂2Ω(証明)
[3] 古典理想気体の粒子数揺らぎ
⟨(N−⟨N⟩)2⟩=⟨N⟩(T,μ,m に依らない)。相対的な揺らぎは 1/⟨N⟩ で、粒子数が巨視的なら無視できるほど小さい。
[4] フェルミ粒子の揺らぎ:空欄(ア)(イ)、古典系との比較、T→0
(ア)(g) ⟨N⟩、(イ)−[f(εk)]2、すなわち σN2=⟨N⟩−∑kf(εk)2=∑kf(1−f)。古典系の ⟨N⟩ より小さい(パウリの排他原理)。T→0 で σN2→0 となり、3次元自由粒子では σN2≃23(kBT/μ)⟨N⟩、つまり T に比例して減る。
[5] ボース粒子の揺らぎ:空欄(ウ)、古典系との比較、ボース・アインシュタイン凝縮
(ウ)[n(εk)]2、すなわち σN2=⟨N⟩+∑kn(εk)2。古典系の ⟨N⟩ より大きい。凝縮して全粒子が k=0 にあるとき σN2=⟨N⟩+⟨N⟩2≃⟨N⟩2 で、標準偏差が平均と同じ大きさになる。