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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理科学II 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説3項目)

解説3項目の分野は電磁気学・回路1項目、熱・統計力学1項目、物性物理1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 統計力学:古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張

[1](a) 分配関数の係数 AA とその意味

古典の分配関数は、量子の Z=∑ie−βEiZ=\sum_i\mathrm e^{-\beta E_i} で状態の和を位相空間の積分に置き換えたものである。1自由度あたり面積 hh で1状態と数える根拠は、調和振動子の軌道の面積で確かめられる。エネルギー EE の軌道は楕円 p2/2m+mω2x2/2=Ep^2/2m+m\omega^2x^2/2=E で、面積は π2mE2E/(mω2)=2πE/ω\pi\sqrt{2mE}\sqrt{2E/(m\omega^2)}=2\pi E/\omega である。hh で割ると E/(ℏω)E/(\hbar\omega) になり、量子のエネルギー準位 ℏω(n+1/2)\hbar\omega(n+1/2) が EE 以下に約 E/(ℏω)E/(\hbar\omega) 個あることと一致する。位置と運動量を同時に hh より細かく指定できないという不確定性関係が、この最小のセルの大きさを与える。

問題が「物理的な意味」を問うているので、状態数の数え方であることと、AA が TT に依存しないことの2点を答案に書く。AA は ln⁡Z\ln Z に定数 −Nln⁡h-N\ln h を加えるだけなので、Eˉ\bar E、揺らぎ、比熱は変わらず、エントロピーの加法定数にだけ現れる。[dx dp]=J s[\mathrm dx\,\mathrm dp]=\mathrm{J\,s} なので、AA の単位 (J s)−N(\mathrm{J\,s})^{-N} が積分の単位を打ち消して ZZ を無次元にする。

N!N! が要らない理由は、気体との違いにある。同種の気体分子は入れ替えても同じ状態なので N!N! で割るが、ここの振動子は平衡点で区別される。N!N! を付けると、エントロピーに −kBln⁡N!-k_{\mathrm B}\ln N! が入り、NN に比例する示量的な形を失う。N=100N=100 なら1個あたり kBln⁡N!/N=3.64 kBk_{\mathrm B}\ln N!/N=3.64\,k_{\mathrm B} だけずれる。AA を 1/(N! hN)1/(N!\,h^N) とする、または AA を落として ZZ の単位が (J s)N(\mathrm{J\,s})^N のままになるのが、実際に起きる誤りである。

[1](b) 分配関数 ZZ

振動子が独立なら、全系の分配関数は1個の分配関数 zz の NN 乗 Z=zNZ=z^N になる。ここで z=kBT/(ℏω)z=k_{\mathrm B} T/(\hbar\omega) は、熱エネルギーが振動のエネルギー量子 ℏω\hbar\omega の何倍かを表す無次元量である。古典近似が成り立つのは z≫1z\gg1、すなわち kBT≫ℏωk_{\mathrm B} T\gg\hbar\omega のときである。

量子力学の結果は zq=1/[2sinh⁡(ℏω/2kBT)]z_{\mathrm q}=1/[2\sinh(\hbar\omega/2k_{\mathrm B} T)] で、x=ℏω/(kBT)x=\hbar\omega/(k_{\mathrm B} T) とおくと x=0.1x=0.1 では古典値 1/x1/x との差が 0.04%0.04\%、x=1x=1 では zq=0.960z_{\mathrm q}=0.960 に対して古典値が 11 で約 4%4\% ずれる。古典の式は温度が ℏω/kB\hbar\omega/k_{\mathrm B} 程度まで下がると使えなくなる。この限界は(g)で第三法則を調べるときに効く。

誤りの例を2つ挙げる。xx の積分で α=βmω2/2\alpha=\beta m\omega^2/2 の 1/21/2 を落として π/(βmω2)\sqrt{\pi/(\beta m\omega^2)} とすると、ZZ が (1/2)N(1/\sqrt2)^N 倍になる。また(a)の AA を忘れると Z=(2πkBT/ω)NZ=(2\pi k_{\mathrm B} T/\omega)^N となり、単位が (J s)N(\mathrm{J\,s})^N のまま対数の中に入る。

[1](c) エネルギーの平均値 Eˉ\bar E

結果はエネルギー等分配則そのものである。H\mathcal H の中で座標と運動量の2乗の形をした項は、振動子1個あたり p2/2mp^2/2m と mω2x2/2m\omega^2x^2/2 の2つあり、それぞれ平均が kBT/2k_{\mathrm B} T/2 になる。直接確かめると、公式(2)の第2式と第1式の比から ∫p2e−αp2dp/∫e−αp2dp=1/(2α)=m/β\int p^2\mathrm e^{-\alpha p^2}\mathrm dp\big/\int\mathrm e^{-\alpha p^2}\mathrm dp=1/(2\alpha)=m/\beta となり、⟨p2/2m⟩=1/(2β)=kBT/2\langle p^2/2m\rangle=1/(2\beta)=k_{\mathrm B} T/2 である。ポテンシャルの項も同じ形の積分で、kBT/2k_{\mathrm B} T/2 になる。

単位は J\mathrm J で合う。比熱は CV=∂Eˉ/∂T=NkBC_V=\partial\bar E/\partial T=Nk_{\mathrm B} と温度に依らず、1 mol なら R=8.31 J/(K mol)R=8.31\ \mathrm{J/(K\,mol)} で、エネルギーは 300 K300\ \mathrm K で RT=2.49 kJ/molRT=2.49\ \mathrm{kJ/mol} である。量子の結果 Eˉ=Nℏω[1/2+1/(ex−1)]\bar E=N\hbar\omega[1/2+1/(\mathrm e^{x}-1)] は、x=0.1x=0.1 で古典値の 1.00081.0008 倍、x=1x=1 で 1.0821.082 倍になり、x→0x\to0 で古典値に近づく。

間違いやすいのは、運動エネルギーだけを数えて NkBT/2Nk_{\mathrm B} T/2 とすることと、−∂ln⁡Z/∂β-\partial\ln Z/\partial\beta の符号を落として負のエネルギーを出すことである。また β\beta ではなく TT で微分して ∂ln⁡Z/∂T=N/T\partial\ln Z/\partial T=N/T を答えると、単位が K−1\mathrm K^{-1} になりエネルギーにならない。

[1](d) エネルギーの揺らぎ σE2\sigma_E^2 と無視できる条件

与えられた式の由来は次のとおりである。∂Eˉ/∂β=−(⟨H2⟩−Eˉ2)=−σE2\partial\bar E/\partial\beta=-(\langle\mathcal H^2\rangle-\bar E^2)=-\sigma_E^2 であり、∂/∂T=−kBβ2 ∂/∂β\partial/\partial T=-k_{\mathrm B}\beta^2\,\partial/\partial\beta を使うと σE2=kBT2 ∂Eˉ/∂T\sigma_E^2=k_{\mathrm B} T^2\,\partial\bar E/\partial T になる。同じ値は σE2=∂2ln⁡Z/∂β2=N/β2\sigma_E^2=\partial^2\ln Z/\partial\beta^2=N/\beta^2 からも出る。

σE2\sigma_E^2 が NN に比例する理由は、独立な NN 個の振動子のエネルギーの和では、分散も和になるからである。平均は NN 倍、標準偏差は N\sqrt N 倍なので、相対的な揺らぎは 1/N1/\sqrt N で小さくなる(中心極限定理)。数値では、N=100N=100 で 10%10\%、N=104N=10^{4} で 1%1\%、N=1023N=10^{23} で 3×10−123\times10^{-12} である。巨視的な系ではエネルギーが事実上一定の値をとり、ミクロカノニカル分布で扱っても結果が変わらない。ナノ構造のように N≲102N\lesssim10^{2} の系では揺らぎが観測にかかる。

次元は σE2[J2]\sigma_E^2[\mathrm J^2] で、N(kBT)2N(k_{\mathrm B} T)^2 に合う。kBk_{\mathrm B} を1つ落として NkBT2Nk_{\mathrm B} T^2 と書くと単位が J K\mathrm{J\,K} になって合わない。また σE2/Eˉ2=1/N\sigma_E^2/\bar E^2=1/N と σE/Eˉ=1/N\sigma_E/\bar E=1/\sqrt N を取り違えると、N=100N=100 の揺らぎを 1%1\% と見積もってしまい、実際の 10%10\% の1割にしかならない。

[1](e) kk 番目の振動子の位置の平均 ⟨xk⟩\langle x_k\rangle

分布 e−βU\mathrm e^{-\beta U} が xk→−xkx_k\to-x_k で変わらない偶関数なので、どの温度でも平均位置は平衡点から動かない。調和ポテンシャルは左右対称なので、温度を上げても原子の平均位置が変わらず、結晶は熱膨張しない。熱膨張を説明するには、左右非対称な非調和項が要る。これが[2]の出発点である。

問題が ⟨xk⟩\langle x_k\rangle を求めさせているのに対し、(f)は平均まわりの揺らぎである。両者を区別することが答案の要点になる。⟨xk2⟩=kBT/(mω2)\sqrt{\langle x_k^2\rangle}=\sqrt{k_{\mathrm B} T/(m\omega^2)} を ⟨xk⟩\langle x_k\rangle の答えにしてしまう誤りが起こりうる。これは平均位置ではなく、(f)の振動の振幅の目安である。

[1](f) 位置の揺らぎの二乗平均

ポテンシャルの項に等分配則を使うと、12mω2⟨xk2⟩=12kBT\frac12m\omega^2\langle x_k^2\rangle=\frac12k_{\mathrm B} T から同じ結果が得られる。分散が温度に比例するのは、熱エネルギーが大きいほど原子の振動の振幅の2乗が増えるからである。単位は J/(kg s−2)=m2\mathrm J/(\mathrm{kg\,s^{-2}})=\mathrm m^2 で、長さの2乗になる。

規模の見積もりとして、ℏω/kB=300 K\hbar\omega/k_{\mathrm B}=300\ \mathrm K(ω=3.9×1013 rad/s\omega=3.9\times10^{13}\ \mathrm{rad/s})、原子の質量 m=5.0×10−26 kgm=5.0\times10^{-26}\ \mathrm{kg} を仮定する(値は問題に与えられていない)。T=300 KT=300\ \mathrm K ではばね定数 mω2=77 N/mm\omega^2=77\ \mathrm{N/m}、⟨xk2⟩=0.073 A˚\sqrt{\langle x_k^2\rangle}=0.073\ \text{\AA} になる。原子間距離(2〜3 Å)の約 3%3\% にあたり、固体の熱振動として妥当な規模である。

古典の結果は T→0T\to0 で ⟨xk2⟩→0\langle x_k^2\rangle\to0 になるが、量子では零点振動 ℏ/(2mω)\hbar/(2m\omega) が残る。量子との比は (x/2)coth⁡(x/2)(x/2)\coth(x/2) で、x=1x=1 で 1.081.08、x=10x=10 で 5.05.0 である。公式(2)の第2式を分母で割らずに使うと、12π/α3\frac12\sqrt{\pi/\alpha^3} が出て、単位が m2\mathrm m^2 にならない。

[1](g) 熱力学第三法則との関係

熱力学第三法則(ネルンストの定理)は、T→0T\to0 でエントロピーが基底状態の縮退度 g0g_0 だけで決まる定数 kBln⁡g0k_{\mathrm B}\ln g_0 に近づく、というものである。非縮退なら 00 になる。古典の SS は絶対値をとれず、ℏ\hbar を含む A=h−NA=h^{-N} を入れても対数の発散は消えない。

古典の式が破れる位置は、Z<1Z<1 になる温度として分かる。kBT<ℏωk_{\mathrm B} T<\hbar\omega では Z=(kBT/ℏω)N<1Z=(k_{\mathrm B} T/\hbar\omega)^N<1 で、「状態数が 11 より少ない」という意味のない結果になる。1状態より小さい位相空間の領域は、不確定性関係に反する。量子の分配関数 Zq=[2sinh⁡(βℏω/2)]−NZ_{\mathrm q}=[2\sinh(\beta\hbar\omega/2)]^{-N} から出る S/(NkB)=x/(ex−1)−ln⁡(1−e−x)S/(Nk_{\mathrm B})=x/(\mathrm e^{x}-1)-\ln(1-\mathrm e^{-x})(x=ℏω/kBTx=\hbar\omega/k_{\mathrm B} T)は、x→∞x\to\infty で 00 に近づく。数値で比べる。

x=ℏω/(kBT)x=\hbar\omega/(k_{\mathrm B} T)

11

33

1010

古典 S/(NkB)S/(Nk_{\mathrm B})

1.0001.000

−0.099-0.099

−1.303-1.303

量子 S/(NkB)S/(Nk_{\mathrm B})

1.0411.041

0.2080.208

5.0×10−45.0\times10^{-4}

ℏω/kB=300 K\hbar\omega/k_{\mathrm B}=300\ \mathrm K(仮定)の固体を T=30 KT=30\ \mathrm K(x=10x=10)で見ると、古典の式は1 mol あたり S=−10.8 J/(K mol)S=-10.8\ \mathrm{J/(K\,mol)} という負のエントロピーを与える。x=1x=1 付近では古典と量子が約 4%4\% で一致し、高温側(x≪1x\ll1)では古典の式でよい。

1次元振動子N個のエントロピーS/(N kB)と温度kBT/ħωの関係。古典の式(実線)はkBT/ħω=1/eで0を横切り、T→0で負に発散する。量子の式(破線)は0に近づく。

自作解説図:1次元振動子 NN 個のエントロピー。古典の式は kBT/ℏω=1/ek_{\mathrm B} T/\hbar\omega=1/\mathrm e で 00 を横切り、T→0T\to0 で負に発散する

誤りの例として、S=kBln⁡ZS=k_{\mathrm B}\ln Z と書くと +NkB+Nk_{\mathrm B} が落ち(正しくは S=kB(ln⁡Z+βEˉ)S=k_{\mathrm B}(\ln Z+\beta\bar E))、x=1x=1 で S=0S=0 という不自然な値になる。また「T→0T\to0 で ln⁡(kBT/ℏω)→0\ln(k_{\mathrm B} T/\hbar\omega)\to0」と読み違えると第三法則が成り立つと結論してしまう。対数の中身は T→0T\to0 で 00 に近づくので、対数は −∞-\infty に発散する。

[2] 非調和項による平均位置のずれ

摂動の手順は、分子と分母を同じ次数まで展開することである。分母の bb の1次の項は奇関数のため 00 になり、分母は 00 次のままで足りる。同じ理由で、⟨x⟩\langle x\rangle には bb の2次の項も現れない(x7x^{7} の積分が奇関数)。次の補正は b3b^3 の項で、kBT=a=1k_{\mathrm B} T=a=1 の単位では ⟨x⟩=34b [1+458b2+⋯ ]\langle x\rangle=\frac34b\,[1+\frac{45}{8}b^2+\cdots] となる。b=0.02b=0.02 では補正が 0.23%0.23\% で、厳密な数値積分の 0.0150340.015034 と1次の値 0.0150000.015000 の差と一致する。

物理的には、−bx3-bx^3 は x>0x>0 側のポテンシャルをなだらかにする。温度が上がって振幅が大きくなると、平均位置はなだらかな側(x>0x>0)へずれる。ずれは TT に比例するので、線膨張係数は温度に依らない一定値になる(古典論での熱膨張)。(e)の調和ポテンシャルでは D=0D=0 で膨張しない。b→0b\to0 で D→0D\to0 になる点が、この関係の確かめになる。

DD の単位は kBb/a2=(J/K)(J/m3)/(J/m2)2=m/Kk_{\mathrm B} b/a^2=(\mathrm{J/K})(\mathrm{J/m^3})/(\mathrm{J/m^2})^2=\mathrm{m/K} で、長さを温度で割った量である。数値例として a=2 eV/A˚2a=2\ \mathrm{eV}/\text{\AA}^2、b=1 eV/A˚3b=1\ \mathrm{eV}/\text{\AA}^3、T=300 KT=300\ \mathrm K を仮定する(値は問題に与えられていない)。kBT=0.02585 eVk_{\mathrm B} T=0.02585\ \mathrm{eV} で、展開の小ささを表す bkBT/a3/2=0.057b\sqrt{k_{\mathrm B} T}/a^{3/2}=0.057 となり、条件を満たす。⟨x⟩=0.0048 A˚\langle x\rangle=0.0048\ \text{\AA}(調和近似での振動の大きさ 0.080 A˚0.080\ \text{\AA} の約 6%6\%)、D=1.6×10−15 m/KD=1.6\times10^{-15}\ \mathrm{m/K} である。

誤りの例は2つある。e−βU\mathrm e^{-\beta U} の展開で符号を取り違え 1−βbx31-\beta bx^3 とすると D<0D<0 となり、b>0b>0 のポテンシャルが熱収縮を起こすという矛盾した結果になる。また、x4x^4 の積分に公式(2)の第2式(x2x^2 の式)を使うと、⟨x⟩\langle x\rangle の単位が m\mathrm m にならない。

解答

[1](a) 分配関数の係数 AA とその意味

振動子1個につき位置 xjx_j と運動量 pjp_j の組が1つあり、位相空間は 2N2N 次元である。位相空間の面積 dx dp\mathrm dx\,\mathrm dp が hh のとき量子状態1つ分に当たると数えるので、 A=1hN=1(2πℏ)N. A=\frac{1}{h^{N}}=\frac{1}{(2\pi\hbar)^{N}}. NN 個の振動子は各自の平衡点(格子点)に束縛されていて互いに区別できるため、N!N! では割らない。

[1](b) 分配関数 ZZ

H\mathcal H は各振動子の項の和なので、e−βH\mathrm e^{-\beta\mathcal H} は jj ごとの積になり、2N2N 重積分は1振動子の積分の NN 乗に分かれる。公式(2)の第1式を、pp では α=β/(2m)\alpha=\beta/(2m)、xx では α=βmω2/2\alpha=\beta m\omega^2/2 として使うと ∫−∞∞e−βp2/(2m)dp=2πmkBT,∫−∞∞e−βmω2x2/2dx=2πkBTmω2. \int_{-\infty}^{\infty}\mathrm e^{-\beta p^2/(2m)}\mathrm dp=\sqrt{2\pi mk_{\mathrm B} T},\qquad \int_{-\infty}^{\infty}\mathrm e^{-\beta m\omega^2x^2/2}\mathrm dx=\sqrt{\frac{2\pi k_{\mathrm B} T}{m\omega^2}}. 積は 2πkBT/ω2\pi k_{\mathrm B} T/\omega で、mm が消える。したがって Z=1hN(2πkBTω)N=(kBTℏω)N. Z=\frac{1}{h^N}\left(\frac{2\pi k_{\mathrm B} T}{\omega}\right)^{N}=\left(\frac{k_{\mathrm B} T}{\hbar\omega}\right)^{N}.

[1](c) エネルギーの平均値 Eˉ\bar E

Z=∑e−βHZ=\sum\mathrm e^{-\beta\mathcal H} を β\beta で微分すると ∂Z/∂β=−∑H e−βH\partial Z/\partial\beta=-\sum\mathcal H\,\mathrm e^{-\beta\mathcal H} なので、Eˉ=⟨H⟩=−∂ln⁡Z/∂β\bar E=\langle\mathcal H\rangle=-\partial\ln Z/\partial\beta である。(b)から ln⁡Z=−Nln⁡(βℏω)\ln Z=-N\ln(\beta\hbar\omega) で、 Eˉ=−∂∂β[−Nln⁡(βℏω)]=Nβ=NkBT. \bar E=-\frac{\partial}{\partial\beta}\bigl[-N\ln(\beta\hbar\omega)\bigr]=\frac{N}{\beta}=Nk_{\mathrm B} T.

[1](d) エネルギーの揺らぎ σE2\sigma_E^2 と無視できる条件

(c)から ∂Eˉ/∂T=NkB\partial\bar E/\partial T=Nk_{\mathrm B} なので、与えられた式に代入して σE2=kBT2⋅NkB=N(kBT)2. \sigma_E^2=k_{\mathrm B} T^2\cdot Nk_{\mathrm B}=N(k_{\mathrm B} T)^2. 平均値との比は σEEˉ=N kBTNkBT=1N. \frac{\sigma_E}{\bar E}=\frac{\sqrt N\,k_{\mathrm B} T}{Nk_{\mathrm B} T}=\frac{1}{\sqrt N}. σE≪Eˉ\sigma_E\ll\bar E となるのは N≫1N\gg1 のときである。

[1](e) kk 番目の振動子の位置の平均 ⟨xk⟩\langle x_k\rangle

xkx_k 以外の変数の積分は分子と分母で同じ値になって約分される。残るのは ⟨xk⟩=∫−∞∞xk e−βmω2xk2/2 dxk∫−∞∞e−βmω2xk2/2 dxk=0. \langle x_k\rangle=\frac{\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}x_k\,\mathrm e^{-\beta m\omega^2x_k^2/2}\,\mathrm dx_k}{\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\mathrm e^{-\beta m\omega^2x_k^2/2}\,\mathrm dx_k}=0. 分母は正の有限値 2πkBT/(mω2)\sqrt{2\pi k_{\mathrm B} T/(m\omega^2)} で、分子は奇関数を原点対称の区間で積分したものだから 00 である。

[1](f) 位置の揺らぎの二乗平均

(e)から ⟨xk⟩=0\langle x_k\rangle=0 なので ⟨(xk−⟨xk⟩)2⟩=⟨xk2⟩\langle(x_k-\langle x_k\rangle)^2\rangle=\langle x_k^2\rangle である。公式(2)の第2式を第1式で割る。α=βmω2/2\alpha=\beta m\omega^2/2 として ⟨xk2⟩=12π/α3π/α=12α=kBTmω2. \langle x_k^2\rangle=\frac{\frac12\sqrt{\pi/\alpha^3}}{\sqrt{\pi/\alpha}}=\frac{1}{2\alpha}=\frac{k_{\mathrm B} T}{m\omega^2}.

[1](g) 熱力学第三法則との関係

自由エネルギーは F=−kBTln⁡Z=−NkBTln⁡(kBT/ℏω)F=-k_{\mathrm B} T\ln Z=-Nk_{\mathrm B} T\ln(k_{\mathrm B} T/\hbar\omega) で、エントロピーは S=−∂F/∂TS=-\partial F/\partial T より S=NkB[ln⁡kBTℏω+1]. S=Nk_{\mathrm B}\left[\ln\frac{k_{\mathrm B} T}{\hbar\omega}+1\right]. T→0T\to0 で対数が −∞-\infty に発散するので S→−∞S\to-\infty となり、S→0S\to0 にならない。したがって第三法則を満たさない。同じ結論は、比熱が CV=NkBC_V=Nk_{\mathrm B} で一定のため S=∫0TCV dT′/T′S=\int_0^T C_V\,\mathrm dT'/T' が T′→0T'\to0 で対数発散することからも出る。

理由は、古典統計力学がエネルギーを連続量として扱い、等分配則が T→0T\to0 まで成り立つとしているからである。実際の振動子のエネルギーは離散的な準位 ℏω(n+1/2)\hbar\omega(n+1/2) で、kBT≪ℏωk_{\mathrm B} T\ll\hbar\omega では励起がほとんど起きず、S→kBln⁡1=0S\to k_{\mathrm B}\ln1=0(基底状態が1つ)、CV→0C_V\to0 となる。古典近似は kBT≫ℏωk_{\mathrm B} T\gg\hbar\omega でしか成り立たない近似であり、T→0T\to0 で使えない。

[2] 非調和項による平均位置のずれ

kk 番目以外の振動子と pkp_k の積分は分子と分母で約分され、xkx_k の分布だけが残る。U=ax2−bx3U=ax^2-bx^3 の −bx3-bx^3 を摂動として扱い、e−βU=e−βax2eβbx3≃e−βax2(1+βbx3)\mathrm e^{-\beta U}=\mathrm e^{-\beta ax^2}\mathrm e^{\beta bx^3}\simeq\mathrm e^{-\beta ax^2}(1+\beta bx^3) と bb の1次まで展開する。条件 b≪a3/2/kBTb\ll a^{3/2}/\sqrt{k_{\mathrm B} T} は、x2∼kBT/ax^2\sim k_{\mathrm B} T/a のとき βbx3∼bkBT/a3/2≪1\beta bx^3\sim b\sqrt{k_{\mathrm B} T}/a^{3/2}\ll1 ということである。 ⟨x⟩=∫x e−βax2(1+βbx3) dx∫e−βax2(1+βbx3) dx. \langle x\rangle=\frac{\displaystyle\int x\,\mathrm e^{-\beta ax^2}(1+\beta bx^3)\,\mathrm dx}{\displaystyle\int\mathrm e^{-\beta ax^2}(1+\beta bx^3)\,\mathrm dx}. 分子の第1項は xx の奇関数の積分で 00、第2項は公式(2)の第3式(α=βa\alpha=\beta a)より βb⋅34π/(βa)5\beta b\cdot\frac34\sqrt{\pi/(\beta a)^5} である。分母の x3x^3 の項は奇関数で 00 なので、分母は π/(βa)\sqrt{\pi/(\beta a)} となる。比を取って ⟨x⟩=βb⋅34(βa)2=3b4a2 kBT. \langle x\rangle=\beta b\cdot\frac{3}{4(\beta a)^2}=\frac{3b}{4a^2}\,k_{\mathrm B} T. これは TT に比例する。

最終答

[1](a) 分配関数の係数 AA とその意味

A=h−N=(2πℏ)−NA=h^{-N}=(2\pi\hbar)^{-N}。位相空間の体積 hNh^{N} を量子状態1つ分と数える換算係数で、ZZ を無次元にする。

[1](b) 分配関数 ZZ

Z=(kBTℏω)N\displaystyle Z=\left(\frac{k_{\mathrm B} T}{\hbar\omega}\right)^{N}

[1](c) エネルギーの平均値 Eˉ\bar E

Eˉ=NkBT\bar E=Nk_{\mathrm B} T(ℏ, ω, m\hbar,\ \omega,\ m に依らない)

[1](d) エネルギーの揺らぎ σE2\sigma_E^2 と無視できる条件

σE2=N(kBT)2,σE/Eˉ=1/N\sigma_E^2=N(k_{\mathrm B} T)^2,\quad \sigma_E/\bar E=1/\sqrt N。NN が十分大きい(N≫1N\gg1)とき、揺らぎは平均に比べて無視できる。

[1](e) kk 番目の振動子の位置の平均 ⟨xk⟩\langle x_k\rangle

⟨xk⟩=0\langle x_k\rangle=0

[1](f) 位置の揺らぎの二乗平均

⟨(xk−⟨xk⟩)2⟩=kBTmω2\displaystyle\langle(x_k-\langle x_k\rangle)^2\rangle=\frac{k_{\mathrm B} T}{m\omega^2}(TT に比例する)

[1](g) 熱力学第三法則との関係

S=NkB[ln⁡(kBT/ℏω)+1]→−∞ (T→0)S=Nk_{\mathrm B}[\ln(k_{\mathrm B} T/\hbar\omega)+1]\to-\infty\ (T\to0) で、S→0S\to0 を満たさない。理由は、古典論でエネルギーが連続で等分配則が絶対零度まで成り立つとしたため(量子化・不確定性関係を無視)。

[2] 非調和項による平均位置のずれ

⟨xk⟩=DT,D=3bkB4a2 (>0)\langle x_k\rangle=DT,\quad D=\dfrac{3bk_{\mathrm B}}{4a^2}\ (>0)

第2問 — 固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面

固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管

電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管の途中式・最終答をPDFで見る

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2022〜2026年度(5年度) · ¥2,880

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年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(解説3項目)

    統計力学:サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式 / 物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性 / 半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合

  • 2025年度(このページ・解説3項目)

    統計力学:古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張 / 固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面 / 電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管

  • 2024年度(解説3項目)

    統計力学:1次元高分子鎖のエントロピー弾性 / 光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子 / 固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化

  • 2023年度(解説3項目)

    統計力学:グランドカノニカル分布と粒子数の揺らぎ / 磁性:S=1 イオンのゼロ磁場分裂とゼーマン効果 / 固体物理:1次元自由電子の状態密度と真性半導体のキャリア

  • 2022年度(解説3項目)

    量子力学:角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子 / 電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率 / 半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定

2025年度の出題内容

解説3項目

この3問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・物性物理1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問熱・統計力学古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張—あり
第2問物性物理蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面—あり
第3問電磁気学・回路境界での反射・屈折と矩形導波管—あり

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 3問 → 2025年度 3問
2024年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF