院試hub

阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理科学II 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説3項目)

解説3項目の分野は熱・統計力学1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 統計力学:1次元高分子鎖のエントロピー弾性

[1] 右向き・左向きの分子の数

両端の距離は、各分子の向きを符号付きの長さ ±a\pm a に直して足した値である。未知数 nR,nLn_{\mathrm R},n_{\mathrm L} に対して式が2本あるので、答えは一通りに決まる。nL<nRn_{\mathrm L}<n_{\mathrm R} の指定は X>0X>0 を意味し、許される範囲は 0≤X≤na0\le X\le na である。X=naX=na のとき nL=0n_{\mathrm L}=0 で、すべての分子が右向きになる。nRn_{\mathrm R} は整数なので、X/aX/a は nn と偶奇が等しい値だけをとり、XX は 2a2a おきの飛び飛びの値になる。n≫1n\gg1 ではこの間隔が nana に比べて十分小さいので、XX を連続量として微分してよい。[5]で ∂S/∂X\partial S/\partial X をとるときの前提である。

確かめとして n=10n=10、X=4aX=4a を入れると nR=7n_{\mathrm R}=7、nL=3n_{\mathrm L}=3 で、合計は 1010、差は 44 で X/aX/a に一致する。どちらも個数なので無次元で、X/aX/a も無次元である。誤りの例は、X=nRaX=n_{\mathrm R}a とおいて nR=X/an_{\mathrm R}=X/a とすることである。左向きの分子が XX を縮める分を数えていないので、n=10, X=4an=10,\ X=4a では nR=4, nL=6n_{\mathrm R}=4,\ n_{\mathrm L}=6 となり、nL<nRn_{\mathrm L}<n_{\mathrm R} の指定に反する。

[2] 微視的状態の数 Ω(X)\Omega(X)

使う知識は組合せの数である。区別できる nn 個から kk 個を選ぶ場合の数は (nk)=n!/[k! (n−k)!]\binom nk=n!/[k!\,(n-k)!] で、k=nRk=n_{\mathrm R} を当てはめた。問題文の「隣接した分子の向きに関わらず、右向きと左向きの2つの状態を自由に取る」が、各分子が独立に2通りをとる、つまり向きの並びが全部で 2n2^n 通りあるという合図になる。その 2n2^n 通りを XX ごとに分類したものが Ω(X)\Omega(X) なので、二項定理から ∑XΩ(X)=(1+1)n=2n\sum_X\Omega(X)=(1+1)^n=2^n が成り立つ。n=4n=4 で書き出すと、X=4a, 2a, 0, −2a, −4aX=4a,\ 2a,\ 0,\ -2a,\ -4a に対して Ω=1, 4, 6, 4, 1\Omega=1,\ 4,\ 6,\ 4,\ 1 で、合計が 16=2416=2^4 である。X<0X<0 は左右を入れ替えた鏡像なので Ω(−X)=Ω(X)\Omega(-X)=\Omega(X) であり、問題は nL<nRn_{\mathrm L}<n_{\mathrm R} としてその片側だけを扱う。

n=10, X=4an=10,\ X=4a なら Ω=(107)=120\Omega=\binom{10}{7}=120 である。誤りの例は、X/a=4X/a=4 をそのまま選ぶ個数と読んで (104)=210\binom{10}{4}=210 とすることである。(104)=(106)\binom{10}{4}=\binom{10}{6} は nR=6n_{\mathrm R}=6、すなわち X=2aX=2a の値であり、X=4aX=4a の値ではない。

[3] エントロピー SS の XX 依存性

エントロピーは微視的状態の数で決まるというボルツマンの原理 S=kBln⁡ΩS=k_{\mathrm B}\ln\Omega(自然対数)が出発点である。ln⁡x!\ln x! が xln⁡x−xx\ln x-x で近似できるのは x≫1x\gg1 のときで、nR,nLn_{\mathrm R},n_{\mathrm L} がどちらも大きい範囲で成り立つ。X→naX\to na で nL→0n_{\mathrm L}\to0 になる端では前提が崩れるが、式の中の (1−ξ)ln⁡(1−ξ)(1-\xi)\ln(1-\xi) は ξ→1\xi\to1 で 00 に近づくので、S→0S\to0(Ω=1\Omega=1)という正しい極限が出る。X=0X=0 では S=nkBln⁡2=kBln⁡2nS=nk_{\mathrm B}\ln2=k_{\mathrm B}\ln2^n となる。厳密な ln⁡(nn/2)\ln\binom n{n/2} との差は 12ln⁡(πn/2)\tfrac12\ln(\pi n/2)(n=100n=100 で 2.532.53)で、公式が落とした項である。

XX とともに SS がどう減るかを数値で見る。

ξ=X/(na)\xi=X/(na)

00

0.30.3

0.60.6

0.90.9

11

S/(nkB)S/(nk_{\mathrm B})

0.69310.6931

0.64740.6474

0.50040.5004

0.19850.1985

00

ξ\xi が小さいうちは S/(nkB)≈ln⁡2−ξ2/2S/(nk_{\mathrm B})\approx\ln2-\xi^2/2 で、2次で下がる。スターリングの公式の誤差も確かめておく。n=100, nR=65n=100,\ n_{\mathrm R}=65 では、ln⁡Ω\ln\Omega の厳密値が 62.2662.26、公式の値が 64.7464.74 で約 4%4\% ずれる。一方、X=0X=0 からの差 ΔS/kB\Delta S/k_{\mathrm B} は厳密に −4.523-4.523、公式で −4.570-4.570 となり、差で見ると 1%1\% ほどの誤差に収まる。次の [4][5] で使うのは XX に関する微分だけなので、XX に依らない定数のずれは結果に出ない。

誤りの例は、XX を代入せず X=0X=0 の値 S=nkBln⁡2S=nk_{\mathrm B}\ln2 をそのまま使うことである。SS が XX に依らなくなるので、[4] の式から f=0f=0 となり、鎖が引っ張りに抵抗しないという結論になる。

[4] f=−T (∂S/∂X)Tf=-T\,(\partial S/\partial X)_T の導出

この設問は、熱力学の基本関係 dU=T dS+f dX\mathrm dU=T\,\mathrm dS+f\,\mathrm dX のうち、外から長さを dX\mathrm dX 変えるときの仕事が f dXf\,\mathrm dX であることと、「各分子が自由に向きをとる」という条件を結びつける。この条件がエネルギーの XX 依存性をなくす合図である。ヘルムホルツの自由エネルギー F=U−TSF=U-TS を使っても同じ結論になる。dF=−S dT+f dX\mathrm dF=-S\,\mathrm dT+f\,\mathrm dX より f=(∂F/∂X)T=(∂U/∂X)T−T(∂S/∂X)Tf=(\partial F/\partial X)_T=(\partial U/\partial X)_T-T(\partial S/\partial X)_T で、右辺の第1項が 00 である。理想気体の圧力 P=T(∂S/∂V)TP=T(\partial S/\partial V)_T((∂U/∂V)T=0(\partial U/\partial V)_T=0 から出る)と同じ形で、気体の −P dV-P\,\mathrm dV が鎖の f dXf\,\mathrm dX に対応する。

符号は [3] の結果で確かめる。X>0X>0 ではエントロピーが XX とともに減る(∂S/∂X<0\partial S/\partial X<0)ので、f>0f>0 となる。f dXf\,\mathrm dX は外からされる仕事なので、f>0f>0 は伸ばすために外から引く力が要ることを表す。誤りの例は、符号を落として f=+T(∂S/∂X)Tf=+T(\partial S/\partial X)_T とすることである。後の [5] の式で、n=100, a=0.25 nmn=100,\ a=0.25\ \mathrm{nm}(値は問題に与えられていない、仮定)、T=300 KT=300\ \mathrm K、ξ=0.1\xi=0.1 では f=+1.66 pNf=+1.66\ \mathrm{pN} のところが −1.66 pN-1.66\ \mathrm{pN} になり、伸ばした鎖がさらに伸びる向きに力を出すという結論になる。

[5] 張力 ff の X,TX,T 依存性

SS は XX だけの関数で、TT は [4] の係数としてだけ現れる。これが f∝Tf\propto T の理由である。ff は XX の奇関数で f(0)=0f(0)=0 であり、X→naX\to na で ln⁡\ln の中身が発散するので f→∞f\to\infty となる。X→naX\to na では nL→0n_{\mathrm L}\to0 で ln⁡(nR/nL)\ln(n_{\mathrm R}/n_{\mathrm L}) が発散する。完全に伸びきった状態(Ω=1\Omega=1)から分子を1個だけ左向きにすると、状態数が約 nn 倍に増えるので、エントロピーの勾配が大きくなるからである。kBT/ak_{\mathrm B} T/a の次元は J/m == N で、力の次元に合う。a=0.25 nma=0.25\ \mathrm{nm}(仮定)、T=300 KT=300\ \mathrm K では kBT/a=16.6 pNk_{\mathrm B} T/a=16.6\ \mathrm{pN} である。

温度依存性には、マクスウェルの関係 (∂f/∂T)X=−(∂S/∂X)T=f/T>0(\partial f/\partial T)_X=-(\partial S/\partial X)_T=f/T>0 も合う。T=300 KT=300\ \mathrm K から 330 K330\ \mathrm K に上げると、ξ=0.1\xi=0.1 の張力は 1.66 pN1.66\ \mathrm{pN} から 1.83 pN1.83\ \mathrm{pN} に増える。同じ長さを保つのに、温度が高いほど強い力が要る。一定の荷重をかけた輪ゴムを温めると縮む現象(ゴーフ・ジュール効果)は、この性質の現れである。誤りの例は、熱運動が激しくなって鎖が緩むという直感から張力が下がると答えることである。熱運動が TT に比例して縮もうとする力を強めるので、実際には 1.66 pN1.66\ \mathrm{pN} から増えて 1.83 pN1.83\ \mathrm{pN} になる。

張力fと伸び率ξ=X/(na)の関係。実線が[5]の厳密な式、点線が[6]の1次近似で、ξ→1(X=na)で張力が発散する。

自作解説図:張力 ff と伸び率 ξ\xi。実線が [5] の式、点線が [6] の1次近似で、ξ→1\xi\to1 で ff が発散する

[6] X≪naX\ll na での張力と比例係数

展開の成立条件は ∣ξ∣<1|\xi|<1 で、∣ξ∣≪1|\xi|\ll1 なら最初の項だけで足りる。ff が XX の奇関数なので、偶数次の項は現れず、1次の次は3次の項 f=kBTna2X(1+ξ2/3+⋯ )f=\dfrac{k_{\mathrm B} T}{na^2}X\bigl(1+\xi^2/3+\cdots\bigr) である。ξ=0.3\xi=0.3 で1次近似との比は artanh⁡(0.3)/0.3=1.032\operatorname{artanh}(0.3)/0.3=1.032 で、1次近似は約 3%3\% 小さい。

比例係数は、ばね定数 k=kBT/(na2)k=k_{\mathrm B} T/(na^2) のフックの法則を表す。普通のばねの kk は温度に依らないが、この鎖の kk は TT に比例し、分子数 nn に反比例する。長い鎖ほど軟らかい。意味は平衡時の揺らぎから読める。向きが独立にランダムな nn 個の和なので ⟨X2⟩=na2\langle X^2\rangle=na^2 で、12k⟨X2⟩=12kBT\tfrac12k\langle X^2\rangle=\tfrac12k_{\mathrm B} T となり、等分配則と一致する。n=100n=100、a=0.25 nma=0.25\ \mathrm{nm}(仮定)、T=300 KT=300\ \mathrm K では k=6.6×10−4 N/mk=6.6\times10^{-4}\ \mathrm{N/m} で、X=2.5 nmX=2.5\ \mathrm{nm}(ξ=0.1\xi=0.1)の張力は 1.66 pN1.66\ \mathrm{pN}、厳密な式でも 1.66 pN1.66\ \mathrm{pN} である。単位は J/K⋅K/m2=N/m\mathrm{J/K\cdot K/m^2}=\mathrm{N/m} で合う。

誤りの例は、ln⁡(1−ξ)\ln(1-\xi) の展開を忘れて ln⁡(1+ξ)≈ξ\ln(1+\xi)\approx\xi だけを使うことである。係数が半分の kBT/(2na2)k_{\mathrm B} T/(2na^2) になる。

[7] 断熱的に引き伸ばしたときの温度変化

使う知識は3つある。第1は、F=U−TSF=U-TS から dF=−S dT+f dX\mathrm dF=-S\,\mathrm dT+f\,\mathrm dX が出て、FF の2階微分の順序を入れ替えられることから、マクスウェルの関係式 (∂f/∂T)X=−(∂S/∂X)T(\partial f/\partial T)_X=-(\partial S/\partial X)_T が成り立つこと。第2は、S,T,XS,T,X のうち2つを独立変数に選んだときの3つの偏微分の積が −1-1 になること。第3は、熱容量 CXC_X が正であること(XX 一定で熱を加えると温度が上がる、という安定性の条件)である。f∝Tf\propto T だから (∂f/∂T)X=f/T(\partial f/\partial T)_X=f/T となり、ff の式から直接 SS の XX 依存を微分せずに済む。

物理的な理由は次のとおりである。この鎖では UU が XX に依らないので、SS は XX だけに依る配置のエントロピー([3])と、温度だけに依る熱運動のエントロピーの和になる。引き伸ばすと配置のエントロピーが減る。全体の SS を一定に保つには熱運動のエントロピーが増えなければならず、そのためには温度が上がる必要がある。引き伸ばす仕事が、熱運動に回ることに当たる。XX が小さいとき、CXC_X を一定とすれば ΔT/T≃kBX2/(2na2CX)\Delta T/T\simeq k_{\mathrm B} X^2/(2na^2C_X) である。CX=nkBC_X=nk_{\mathrm B}(1分子あたり kBk_{\mathrm B}、仮定)なら ΔT/T=ξ2/2\Delta T/T=\xi^2/2 で、厳密な積分は ln⁡(T/T0)=ξartanh⁡ξ+12ln⁡(1−ξ2)\ln(T/T_0)=\xi\operatorname{artanh}\xi+\tfrac12\ln(1-\xi^2) となる。T0=300 KT_0=300\ \mathrm K、ξ=0.3\xi=0.3 では T=314.0 KT=314.0\ \mathrm K、すなわち +14.0 K+14.0\ \mathrm K である。輪ゴムをすばやく伸ばすと熱を持つのは、この効果である。

誤りの例は、規則の右辺を +1+1 としてしまうことである。(∂T/∂X)S=−f/CX(\partial T/\partial X)_S=-f/C_X となり、同じ条件で T=286.6 KT=286.6\ \mathrm K(−13.4 K-13.4\ \mathrm K)という温度低下の結論になる。

[8] 張力の起源

自由エネルギー F=U−TSF=U-TS で整理する。TT 一定の系は FF が小さくなる向きに進む。UU が XX に依らないので F=U(T)−TS(X)F=U(T)-TS(X) で、XX の関数としては −TS(X)-TS(X) だけが効く。SS は XX とともに減るので、FF は XX とともに増え、X=0X=0 で最小になる。小さい ξ\xi では S=S0−kBX2/(2na2)S=S_0-k_{\mathrm B} X^2/(2na^2) なので、FF は kBTX2/(2na2)k_{\mathrm B} TX^2/(2na^2) だけ増え、その微分が [6] のフックの法則である。

状態数で具体的に見る。n=100n=100 で、完全に伸びた X=naX=na は Ω=1\Omega=1 通りだけ、X=0X=0 は Ω=(10050)=1.0×1029\Omega=\binom{100}{50}=1.0\times10^{29} 通りある。ξ=0.3\xi=0.3(X=30aX=30a)の状態は X=0X=0 の約 1.1%1.1\%(Ω\Omega の比 1.09×10−21.09\times10^{-2}、ΔS=−4.52 kB\Delta S=-4.52\,k_{\mathrm B})で、実現しにくい。この ξ=0.3\xi=0.3 まで等温で伸ばす仕事は W=−TΔS≈4.5 kBTW=-T\Delta S\approx4.5\,k_{\mathrm B} T である([5] の ff を 00 から積分した 4.57 kBT4.57\,k_{\mathrm B} T とほぼ一致する)。この仕事のぶんが熱として外に出て、エネルギーとして鎖に蓄えられるわけではない。

誤りの例は、張力を分子間の引力や結合の伸びのエネルギーから説明することである。f=(∂U/∂X)Tf=(\partial U/\partial X)_T とおくと、この鎖では 00 になって張力が説明できない。実際には、T→0T\to0 で f→0f\to0 になり、温度が高いほど強く縮む点が、エネルギー弾性との違いである。

解答

[1] 右向き・左向きの分子の数

右向きの分子は両端の距離 XX に +a+a、左向きの分子は −a-a だけ寄与する。分子の総数と XX について nR+nL=n,(nR−nL) a=X n_{\mathrm R}+n_{\mathrm L}=n,\qquad (n_{\mathrm R}-n_{\mathrm L})\,a=X が成り立つ。2式の和と差から 2nR=n+X/a2n_{\mathrm R}=n+X/a、2nL=n−X/a2n_{\mathrm L}=n-X/a となり、 nR=na+X2a,nL=na−X2a. n_{\mathrm R}=\frac{na+X}{2a},\qquad n_{\mathrm L}=\frac{na-X}{2a}.

[2] 微視的状態の数 Ω(X)\Omega(X)

巨視的状態 XX が指定するのは、右向きが nRn_{\mathrm R} 個、左向きが nLn_{\mathrm L} 個という個数だけである。どの分子が右向きかは指定されないので、鎖の中の位置で区別できる nn 個の分子から、右向きにする nRn_{\mathrm R} 個を選ぶ場合の数だけ微視的状態がある。 Ω(X)=(nnR)=n!nR! nL!=n![na+X2a]! [na−X2a]!. \Omega(X)=\binom{n}{n_{\mathrm R}}=\frac{n!}{n_{\mathrm R}!\,n_{\mathrm L}!} =\frac{n!}{\left[\dfrac{na+X}{2a}\right]!\,\left[\dfrac{na-X}{2a}\right]!}.

[3] エントロピー SS の XX 依存性

ボルツマンの関係 S=kBln⁡ΩS=k_{\mathrm B}\ln\Omega にスターリングの公式 ln⁡x!≈xln⁡x−x\ln x!\approx x\ln x-x を使う。 SkB=ln⁡n!−ln⁡nR!−ln⁡nL!≈nln⁡n−nRln⁡nR−nLln⁡nL. \frac S{k_{\mathrm B}}=\ln n!-\ln n_{\mathrm R}!-\ln n_{\mathrm L}! \approx n\ln n-n_{\mathrm R}\ln n_{\mathrm R}-n_{\mathrm L}\ln n_{\mathrm L}. −x-x の項は −n+nR+nL=0-n+n_{\mathrm R}+n_{\mathrm L}=0 で消える。[1]から nR,L=n2(1±ξ)n_{\mathrm R,\mathrm L}=\frac n2(1\pm\xi) なので、 nln⁡n−n2(1+ξ)[ln⁡n2+ln⁡(1+ξ)]−n2(1−ξ)[ln⁡n2+ln⁡(1−ξ)]=nln⁡2−n2[(1+ξ)ln⁡(1+ξ)+(1−ξ)ln⁡(1−ξ)]. \begin{aligned} &n\ln n-\frac n2(1+\xi)\Bigl[\ln\frac n2+\ln(1+\xi)\Bigr]-\frac n2(1-\xi)\Bigl[\ln\frac n2+\ln(1-\xi)\Bigr]\\ &\qquad=n\ln2-\frac n2\Bigl[(1+\xi)\ln(1+\xi)+(1-\xi)\ln(1-\xi)\Bigr]. \end{aligned}

[4] f=−T (∂S/∂X)Tf=-T\,(\partial S/\partial X)_T の導出

内部エネルギーを T,XT,X の関数 U(T,X)U(T,X) と考える。各分子は、隣の分子の向きに関わらず右向きでも左向きでも同じエネルギーをとる。したがって、右向きと左向きの個数の割合が変わっても、つまり XX が変わっても、UU は変わらない。 (∂U∂X)T=0. \Bigl(\frac{\partial U}{\partial X}\Bigr)_T=0. 一方、dU=T dS+f dX\mathrm dU=T\,\mathrm dS+f\,\mathrm dX で TT 一定(dT=0\mathrm dT=0)とし、dX\mathrm dX で割ると (∂U∂X)T=T(∂S∂X)T+f. \Bigl(\frac{\partial U}{\partial X}\Bigr)_T=T\Bigl(\frac{\partial S}{\partial X}\Bigr)_T+f . 左辺が 00 なので f=−T(∂S∂X)T. f=-T\Bigl(\frac{\partial S}{\partial X}\Bigr)_T.

[5] 張力 ff の X,TX,T 依存性

[3] を S=kB[ nln⁡n−nRln⁡nR−nLln⁡nL ]S=k_{\mathrm B}[\,n\ln n-n_{\mathrm R}\ln n_{\mathrm R}-n_{\mathrm L}\ln n_{\mathrm L}\,] のまま XX で微分する。[1] から ∂nR/∂X=1/(2a)\partial n_{\mathrm R}/\partial X=1/(2a)、∂nL/∂X=−1/(2a)\partial n_{\mathrm L}/\partial X=-1/(2a) なので (∂S∂X)T=−kB[ln⁡nR+12a−ln⁡nL+12a]=−kB2aln⁡nRnL. \Bigl(\frac{\partial S}{\partial X}\Bigr)_T=-k_{\mathrm B}\left[\frac{\ln n_{\mathrm R}+1}{2a}-\frac{\ln n_{\mathrm L}+1}{2a}\right]=-\frac{k_{\mathrm B}}{2a}\ln\frac{n_{\mathrm R}}{n_{\mathrm L}}. これを [4] の式に入れると f=kBT2aln⁡nRnL=kBT2aln⁡na+Xna−X=kBTa artanh⁡Xna. f=\frac{k_{\mathrm B} T}{2a}\ln\frac{n_{\mathrm R}}{n_{\mathrm L}}=\frac{k_{\mathrm B} T}{2a}\ln\frac{na+X}{na-X}=\frac{k_{\mathrm B} T}{a}\,\operatorname{artanh}\frac{X}{na}. XX を一定にして TT を上げると、ff は TT に比例して大きくなる。

[6] X≪naX\ll na での張力と比例係数

ξ=X/(na)≪1\xi=X/(na)\ll1 とし、ヒントの展開 ln⁡(1+x)=x−12x2+13x3−⋯\ln(1+x)=x-\frac12x^2+\frac13x^3-\cdots を x=±ξx=\pm\xi に使う。 ln⁡1+ξ1−ξ=ln⁡(1+ξ)−ln⁡(1−ξ)=(ξ−ξ22+ξ33)−(−ξ−ξ22−ξ33)+⋯=2ξ+23ξ3+⋯ \ln\frac{1+\xi}{1-\xi}=\ln(1+\xi)-\ln(1-\xi)=\Bigl(\xi-\frac{\xi^2}2+\frac{\xi^3}3\Bigr)-\Bigl(-\xi-\frac{\xi^2}2-\frac{\xi^3}3\Bigr)+\cdots=2\xi+\frac23\xi^3+\cdots ξ2\xi^2 の項は打ち消し合う。[5] に入れて ξ\xi の1次までとると f≃kBT2a⋅2ξ=kBTa⋅Xna=kBTna2 X. f\simeq\frac{k_{\mathrm B} T}{2a}\cdot2\xi=\frac{k_{\mathrm B} T}{a}\cdot\frac X{na}=\frac{k_{\mathrm B} T}{na^2}\,X.

[7] 断熱的に引き伸ばしたときの温度変化

断熱可逆の過程ではエントロピーが一定なので、SS 一定のもとで TT が XX とともにどう変わるか、(∂T/∂X)S(\partial T/\partial X)_S の符号を調べる。マクスウェルの規則に (∂X/∂S)T=1/(∂S/∂X)T(\partial X/\partial S)_T=1/(\partial S/\partial X)_T を使うと (∂T∂X)S=−(∂S/∂X)T(∂S/∂T)X. \Bigl(\frac{\partial T}{\partial X}\Bigr)_S=-\frac{(\partial S/\partial X)_T}{(\partial S/\partial T)_X}. 分子は、マクスウェルの関係式と [5] の f∝Tf\propto T から (∂S∂X)T=−(∂f∂T)X=−fT. \Bigl(\frac{\partial S}{\partial X}\Bigr)_T=-\Bigl(\frac{\partial f}{\partial T}\Bigr)_X=-\frac fT . 分母は、XX 一定で熱 dQ=T dS\mathrm dQ=T\,\mathrm dS を加えたときの温度上昇を表す熱容量 CX=T(∂S/∂T)XC_X=T(\partial S/\partial T)_X で書け、(∂S/∂T)X=CX/T(\partial S/\partial T)_X=C_X/T である。したがって (∂T∂X)S=−−f/TCX/T=fCX. \Bigl(\frac{\partial T}{\partial X}\Bigr)_S=-\frac{-f/T}{C_X/T}=\frac f{C_X}. X>0X>0 では f>0f>0、CX>0C_X>0 なので (∂T/∂X)S>0(\partial T/\partial X)_S>0 となり、断熱的に伸ばすと温度は上がる。

[8] 張力の起源

孤立系は、自然に進むときエントロピーが増える向きに変化する。この鎖の Ω(X)\Omega(X) は X=0X=0 で最大で、XX が大きいほど小さくなる([2][3])。引き伸ばされた鎖の各分子は、エネルギーを変えずに向きを入れ替えられるので、熱運動で向きの組合せが入れ替わり続け、微視的状態数の多い X=0X=0 付近へ移る。これが鎖が縮もうとする傾向であり、XX を保つには端を引く力 ff が要る。[4] で示したように UU は XX に依らないので、ff はエネルギーの変化ではなく、エントロピーの減少 −(∂S/∂X)T-(\partial S/\partial X)_T に比例する力である。f∝Tf\propto T なのも、f=−T(∂S/∂X)Tf=-T(\partial S/\partial X)_T の TT が熱運動の強さを表すからである。

最終答

[1] 右向き・左向きの分子の数

nR=na+X2a=n2(1+Xna),nL=na−X2a=n2(1−Xna)\displaystyle n_{\mathrm R}=\frac{na+X}{2a}=\frac n2\Bigl(1+\frac{X}{na}\Bigr),\quad n_{\mathrm L}=\frac{na-X}{2a}=\frac n2\Bigl(1-\frac{X}{na}\Bigr)

[2] 微視的状態の数 Ω(X)\Omega(X)

Ω(X)=n!nR! nL!=n![(na+X)/(2a)]! [(na−X)/(2a)]!\displaystyle\Omega(X)=\frac{n!}{n_{\mathrm R}!\,n_{\mathrm L}!}=\frac{n!}{\bigl[(na+X)/(2a)\bigr]!\,\bigl[(na-X)/(2a)\bigr]!}

[3] エントロピー SS の XX 依存性

S=kBn[ln⁡2−12{(1+Xna)ln⁡(1+Xna)+(1−Xna)ln⁡(1−Xna)}]\displaystyle S=k_{\mathrm B} n\left[\ln2-\frac12\Bigl\{\Bigl(1+\frac X{na}\Bigr)\ln\Bigl(1+\frac X{na}\Bigr)+\Bigl(1-\frac X{na}\Bigr)\ln\Bigl(1-\frac X{na}\Bigr)\Bigr\}\right]

[4] f=−T (∂S/∂X)Tf=-T\,(\partial S/\partial X)_T の導出

(∂U/∂X)T=0(\partial U/\partial X)_T=0 と dU=T dS+f dX\mathrm dU=T\,\mathrm dS+f\,\mathrm dX から f=−T(∂S∂X)T\displaystyle f=-T\Bigl(\frac{\partial S}{\partial X}\Bigr)_T(証明)

[5] 張力 ff の X,TX,T 依存性

f=kBT2aln⁡na+Xna−X\displaystyle f=\frac{k_{\mathrm B} T}{2a}\ln\frac{na+X}{na-X}。XX 一定で TT が上がると ff は TT に比例して増加する。

[6] X≪naX\ll na での張力と比例係数

f≃kBTna2 X\displaystyle f\simeq\frac{k_{\mathrm B} T}{na^{2}}\,X、比例係数は kBT/(na2)k_{\mathrm B} T/(na^{2})

[7] 断熱的に引き伸ばしたときの温度変化

(∂T∂X)S=fCX>0\displaystyle\Bigl(\frac{\partial T}{\partial X}\Bigr)_S=\frac f{C_X}>0。断熱的に引き伸ばすと温度は上昇する。

[8] 張力の起源

引き伸ばしで微視的状態数(エントロピー)が減るので、鎖はエントロピーが増える X=0X=0 の方向へ縮もうとする。張力はこのエントロピー増大の傾向による力(エントロピー弾性)で、エネルギーに由来せず、TT に比例する。

第2問 — 光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子

光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化

固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化の途中式・最終答をPDFで見る

物性物理科学IIの解答・解説PDF

2022〜2026年度(5年度) · ¥2,880

解答PDFの商品ページへ

年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(解説3項目)

    統計力学:サイトへの分子吸着とラングミュアの吸着等温式 / 物性:パウリ常磁性とキュリー常磁性 / 半導体:キャリア密度・電気伝導率とショットキー接合

  • 2025年度(解説3項目)

    統計力学:古典1次元振動子系の分配関数と熱膨張 / 固体物理:蜂の巣格子の逆格子・X線回折・自由電子フェルミ面 / 電磁気学:境界での反射・屈折と矩形導波管

  • 2024年度(このページ・解説3項目)

    統計力学:1次元高分子鎖のエントロピー弾性 / 光学:電磁波の横波性とJones計算による偏光素子 / 固体物理:自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化

  • 2023年度(解説3項目)

    統計力学:グランドカノニカル分布と粒子数の揺らぎ / 磁性:S=1 イオンのゼロ磁場分裂とゼーマン効果 / 固体物理:1次元自由電子の状態密度と真性半導体のキャリア

  • 2022年度(解説3項目)

    量子力学:角運動量の交換関係、保存則、ランデの g 因子 / 電磁気学・固体物理:金属の光学応答(ドルーデ模型)と反射率 / 半導体物理:ショットキー接合、空乏層、容量–電圧測定

2024年度の出題内容

解説3項目

この3問の分野は熱・統計力学1問・量子力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問熱・統計力学1次元高分子鎖のエントロピー弾性—あり
第2問電磁波の横波性とJones計算による偏光素子—あり
第3問量子力学自由電子の状態密度と金属超薄膜の量子化—あり

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 3問 → 2024年度 3問
2023年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF