(1)a) エネルギーが E1 以下の状態の総数
数え上げの原理は、「状態1つ = 量子数の組1つ」である。量子数は整数なので、状態の数は、量子数空間の格子点の数になる。R≫1 のとき、格子点の数を体積で置き換える近似は、球の表面で起こる誤差(格子点の数のずれ)が体積に比べて小さいことによる。問題文の「L が十分に大きく、エネルギーが連続的で、系を古典的に扱うことが可能」という条件が、この置き換えを使う合図になる。因子 1/8 は、ni>0 だから出る。ni の符号が正負どちらでもよいなら全空間の球の体積になるが、量子数 −n と n は同じ波動関数を表すので、数えるのは正の部分だけである。
位相空間の考え方でも同じ式になる。運動量の大きさが p=2mE1 以下の運動量空間の球の体積 34πp3 に、粒子が動ける空間の体積 V を掛け、1状態の位相空間体積 (2πℏ)3=h3 で割ると、V⋅34πp3/(2πℏ)3=V(2mE1)3/2/(6π2ℏ3) で一致する。
数値で確かめた。ni が正の整数で nx2+ny2+nz2≤R2 となる格子点の数を直接数えると、R=30,60,120,240 のそれぞれで、πR3/6 に対する比が 0.927,0.962,0.981,0.991 で、1に近づく(誤差は表面項で R−1 のオーダー)。
1/8 を落として全空間の球の体積 34πR3 を使う誤りがある。このとき状態数が8倍になる。内部自由度がないので、スピンの因子2は付けない。
(1)b) エネルギー E1 のときの状態密度
状態密度は、単位エネルギーあたりの状態数で、次元は 1/エネルギー である。状態数 Ω1(E)∝E3/2 の微分なので、E に比例して増える。3次元の自由粒子の状態密度が E に比例するのは、量子数空間の球の体積が半径の3乗(E3/2)、微分すると表面積(半径の2乗)に比例し、半径 R∝E が dR∝dE/E だからである。
確かめは数値で行った。R=100 で、格子点の数の階段関数を、R2 について差分で微分すると dN/d(R2)=77.4 で、πR/4=78.5 と1.4\%以内で一致する(ここで E∝R2 なので、Ω1=πR3/6 を R2 で微分すると πR/4)。
微分する代わりに Ω1/E1 と書くと、これは D の 2/3 倍にあたる。E3/2 の微分で係数 3/2 が出ることを忘れない。
(2)a) エントロピー S の ΩN(E2) による近似
孤立系では、エネルギーが一定の状態がどれも等しい確率で現れる(等重率の原理)。このとき、エントロピーは、そのエネルギーに属する状態の数 W のボルツマンの関係式 S=kBlnW で定まる。W は本来エネルギーの幅 ΔE の殻の状態の数で、「E2 以下」の ΩN で近似できる理由は、粒子数が大きいと、3N 次元の球の体積のほとんどが表面付近に集まるからである。たとえば半径が 99\% 以下(エネルギーが約 98\% 以下)の部分は、N=1000 で全体の 0.993000=8.0×10−14 にすぎない。
lnW と lnΩN の差は ln(3NΔE/2E2) である。N=1000、ΔE/E2=0.01 では ln15=2.71 で、アルゴン気体を想定した条件(298.15\,K、1\,bar)で厳密に計算した lnΩN=1.86×104 の 1.5×10−4 にすぎない。N が大きいほど、この差の割合は小さくなる。問題文が「ΩN(E2) を用いて近似的に」と指定していることが、この置き換えを使う合図である。
対数を付け忘れて S=kBΩN とする答案がある。上の条件で N=1000 でも ΩN≈108084 という大きさになり、粒子数に比例する量(示量変数)にもならない。
(2)b) S を E2 の式で表す
使う知識は3つある。第1に、n 次元の球の体積 rnπn/2/Γ(n/2+1)(問題文に与えられている)で、n=3N、r=R を入れる。n=3 では r3π3/2/Γ(5/2)=34πr3 で、通常の球の体積になる。第2に、ni>0 の象限の割合は、各座標が正か負かで 1/2 ずつなので 2−3N である。(1)a)で N=1 のとき 2−3=1/8 だった。第3に、弁別できない粒子では、N! 通りの粒子の入れ替えが同じ状態を与えるので、状態の数を 1/N! にする。N=1 では ΩN の式が(1)a)の結果に一致する(記号計算で確認した)。
スターリングの公式 lnn!≃nlnn−n は n≫1 で使える。厳密な値との差を、アルゴン気体の条件(298.15\,K、1\,bar、E2=23NkBT)で調べると、lnΩN の厳密値とこの近似式の差は −ln(6πN) に一致し、N=103 で −8.9、N=106 で −15.9、N=109 で −22.8 である。lnΩN 自体が 104 から 1010 の大きさなので、割合は N とともに 5×10−4 から 10−9 に小さくなる。
この式から、気体の熱力学の量が出る。温度の定義 1/T=∂S/∂E2 から T1=2E23NkB、すなわち E2=23NkBT を得る。また、p/T=∂S/∂V=NkB/V から pV=NkBT を得る。E2=23NkBT を代入すると S=NkB{ln[NV(2πℏ2mkBT)3/2]+25} である。アルゴン(原子量 39.948)の T=298.15K、p=1bar の1\,mol では 154.8J/(mol⋅K) になる。対数の中身は約 1×107 で 1 より十分大きく、古典的に扱える条件(希薄で高温)を満たす。
係数の落としには、2通りの誤りがある。2−3N を落とすと、S/(NkB) が 3ln2=2.08 だけ大きくなる。1/N! を落とすと、S/(NkB) が lnN−1 だけ大きくなり(N=106 で 12.8)、N、V、E2 をすべて λ 倍にしたときに S が λ 倍にならず、差が λNkBlnλ だけ残る(エントロピーが示量変数でなくなる)。同じ気体を仕切りで分けた2つの箱を合わせたときに、混合のエントロピー 2NkBln2 が出るというギブスのパラドックスの原因も、この 1/N! にある。
解答
(1)a) エネルギーが E1 以下の状態の総数
量子数 (nx,ny,nz) の1組が1つの状態で、nx,ny,nz は正の整数なので、状態は量子数空間の正の側(第一象限、ni>0)の整数格子点に1つずつ対応する。V=L3 とおくと、エネルギーが E1 以下の条件は
2mL2π2ℏ2(nx2+ny2+nz2)≤E1⟺nx2+ny2+nz2≤R2,R=πℏL2mE1
である。L が十分大きく R≫1 のとき、この範囲の格子点の数は、半径 R の球の体積のうち nx,ny,nz>0 の部分(球の 1/8)の体積で近似できる(格子点1個が体積1を占める)。
Ω1(E1)=81⋅34πR3=6π(πℏL)3(2mE1)3/2=6π2ℏ3V(2mE1)3/2
(1)b) エネルギー E1 のときの状態密度
状態密度 D(E) は、エネルギーが E から E+dE の間にある状態の数を D(E)dE と書いたときの係数で、a) の状態数の微分である。
D(E1)=dE1dΩ1=6π2ℏ3V(2m)3/2⋅23E11/2=4π2ℏ3V(2m)3/2E1
である。D(E1)=2E13Ω1(E1) とも書ける。
(2)a) エントロピー S の ΩN(E2) による近似
エネルギー E2 の孤立系では、ミクロカノニカル分布の考え方により、エネルギーが E2 から E2+ΔE の間にあるすべての状態が等しい確率で現れる。その状態の数を W とすると、ボルツマンの関係式から S=kBlnW である。ΔE≪E2 なら、W≃∂E∂ΩNΔE である。ΩN∝E3N/2 なので ∂ΩN/∂E=2E23NΩN で、
S=kBlnW=kB[lnΩN(E2)+ln2E23NΔE]
となる。第2項は lnN 程度の大きさで、第1項(N に比例する大きさ)に比べて無視できる。したがって
S≃kBlnΩN(E2)
である。
(2)b) S を E2 の式で表す
N 粒子の状態は、3N 個の量子数 n1,…,n3N(すべて正の整数)で指定され、エネルギーが E2 以下の条件は
i=1∑3Nni2≤R2,R=πℏL2mE2
である。この格子点の数を、半径 R の n=3N 次元の球の体積 R3Nπ3N/2/Γ(3N/2+1) のうち、ni>0 の部分(2−3N 倍)で近似する。粒子は弁別できず、粒子を入れ替えただけの状態は同じ状態なので、N! で割る。
ΩN(E2)=N!1⋅23N1⋅Γ(3N/2+1)π3N/2R3N=N!Γ(3N/2+1)VN(2πℏ2mE2)3N/2
最後の等号は、R3N=VN(2mE2)3N/2/(πℏ)3N と、(2mE2)3N/2/(23Nπ3N/2ℏ3N)=[mE2/(2πℏ2)]3N/2 から得る。対数をとり、スターリングの公式 lnn!≃nlnn−n(lnΓ(3N/2+1)=ln(3N/2)! にも使う)を入れると
lnΩN≃NlnV−(NlnN−N)−[23Nln23N−23N]+23Nln2πℏ2mE2=N{ln[NV(3πℏ2NmE2)3/2]+25}
となる。(2)a)の結果 S=kBlnΩN に入れる。
最終答
(1)a) エネルギーが E1 以下の状態の総数
Ω1(E1)=6π2ℏ3V(2mE1)3/2(V=L3)。
(1)b) エネルギー E1 のときの状態密度
D(E1)=4π2V(ℏ22m)3/2E1。
(2)a) エントロピー S の ΩN(E2) による近似
S≃kBlnΩN(E2)。
(2)b) S を E2 の式で表す
S=NkB{ln[NV(3πℏ2NmE2)3/2]+25}(V=L3。サッカー・テトロードの式)。