(1) 線分 OB 上の f(z)
複素数は絶対値 ρ と偏角 θ で z=ρeiθ と書け、オイラーの公式 eiθ=cosθ+isinθ より、z2=ρ2e2iθ である。偏角が 2 倍になるので、θ=π/4 のとき z2 の偏角は π/2 となり、z2 は正の純虚数 iρ2 になる。問題が「原点からの距離 t」を指定していることが、z を t と偏角で表す合図である。
確かめは t=1 で行う。z=21+i で、z2=21+2i−1=i となる。また ∣e−it2∣=1 なので、OB 上で f は減衰せず、絶対値が 1 のまま回転するだけである。実軸上では e−x2 が急に小さくなるのと対照的で、この線分上の積分 ∫0∞e−it2dt は条件収束(振動しながら収束)になる。
誤りは、線分上の点を z=t(1+i) とおいて、t を「距離」と見なすものである。∣z∣=2t なので距離は t にならず、z2=2it2 から f=e−2it2 となる。t=1 で正しい値は e−i=0.5403−0.8415i、誤りは e−2i=−0.4161−0.9093i で食い違う。
(2) ガウス積分 ∫0∞e−x2dx
e−x2 の原始関数は初等関数で表せない。そのため、1次元の積分のまま計算せず、2乗して2重積分にしてから極座標に直す。使う定理は2つある。1つ目は、非負の関数の2重積分は累次積分でき、積分順序を入れ替えてよいこと(トネリの定理)で、e−(x2+y2)>0 なので条件を満たす。2つ目は極座標の面積要素 ρdρdφ で、これは (x,y)→(ρ,φ) のヤコビ行列式が ρ になることによる。x2+y2=ρ2 の指数部が ρ だけの関数になり、∫0∞e−ρ2ρdρ が ρ2=s の置換で 21∫0∞e−sds=21 と簡単に積分できる。この積分は(3)の左辺で使う。
確かめは大きさの評価で行う。被積分関数は 0≤x≤1 で e−x2≤1、x≥1 で e−x2≤e−x なので、I≤1+e−1=1.368 である。π/2=0.8862 はこの範囲にある。全直線では偶関数なので ∫−∞∞e−x2dx=π で、これは正規分布の規格化定数と同じものである。
誤りは、角度の範囲を 0≤φ≤2π にすることである。第1象限だけの積分に全周を使うと I2=2π⋅21=π から I=π=1.7725 となり、上の評価 1.368 を超えるので誤りと分かる。∫0∞e−ρ2ρdρ=21 の 21 を落とすと、I2=2π から I=1.2533 となり、これも正しい値 0.8862 から離れる。
(3) フレネル積分 ∫0∞cos(x2)dx
コーシーの積分定理は、単連結な領域 D で f が正則(複素微分可能)で、C が D 内の区分的に滑らかな閉曲線なら ∮Cfdz=0 となる、という定理である。理由は、f=u+iv、dz=dx+idy として ∮Cfdz=∮C(udx−vdy)+i∮C(vdx+udy) とし、グリーンの定理で2重積分に直すと、被積分関数が −(vx+uy) と ux−vy になり、コーシー・リーマンの関係式 ux=vy、uy=−vx でどちらも 0 になるためである。e−z2 は全平面で正則なので、どんな閉曲線にも使える。曲線に沿う積分は、媒介変数表示 z=z(t) で ∫f(z(t))z′(t)dt と書く。向きが逆の経路では積分の符号が反転する。
問題文が「円弧 AB の積分が 0 に収束する」ことを認め、偏角 π/4 の線分と e−z2 を指定していることが、この積分路を使う合図である。θ=π/4 で z2 が純虚数になり、e−z2 が三角関数に化けるので、実軸上のガウス積分の値から cos(x2) と sin(x2) の積分が一度に出る。円弧の評価は証明なしで使ってよいが、∣f∣=e−r2cos2θ と cos2θ≥1−π4θ(0≤θ≤4π)から
∫ABfdz≤r∫0π/4e−r2(1−4θ/π)dθ=4rπ(1−e−r2)→0
と示せる。cos2θ は区間で上に凸で、両端 (0,1)、(π/4,0) を結ぶ弦より上にあることを使った。
確かめでは3つの数値を使う。r=3 で円弧の積分の大きさは 0.1655(上の評価は 0.2618)、r=5 で 0.0999(評価は 0.1571)となり、r とともに小さくなる。ただし減衰は 1/r のオーダーと遅いことが分かる。次に、閉曲線の3つの積分の和は r=2,3,5 でいずれも絶対値が 10−30 以下になる。最後に、打ち切り積分 ∫0Rcos(x2)dx は、R=10,20,40 で 0.6011, 0.6054, 0.6166 と 0.6267 に近づき、誤差は 2R1 以下である。
誤りは3つある。1つ目は、dz=eiπ/4dt の因子を落とすことで、このとき ∫0∞e−it2dt=2π となり、実部は 0.8862 で正しい値 0.6267 の 2 倍になる。2つ目は、B から O へ進む向きを無視して符号を + にすることで、2π+eiπ/4∫0∞e−it2dt=0 から実部が −0.6267 になる。実際には、最初の山 0≤x≤π/2 だけで ∫cos(x2)dx=0.9775 あり、以降の振動の寄与の合計は −0.3508 と、全体が負になるほど大きくない。3つ目は実部と虚部の取り違えで、e−it2=cos(t2)−isin(t2) の虚部は −sin(t2) なので、sin(x2) の積分は虚部の符号を反転した +42π である。
解答
(1) 線分 OB 上の f(z)
図より、線分 OB は原点から偏角 π/4 の方向に伸びる。原点からの距離を t(0≤t≤r)とすると、線分上の点は z=teiπ/4 と書ける。このとき
z2=t2eiπ/2=it2
なので
f(z)=e−z2=e−it2.
(2) ガウス積分 ∫0∞e−x2dx
I=∫0∞e−x2dx とおく。x≥1 で e−x2≤e−x なので I は収束し、I>0 である。I2 を2つの積分の積として書き、被積分関数が非負であることから積分の順序を入れ替えて第1象限 x,y≥0 の2重積分にする。
I2=∫0∞e−x2dx∫0∞e−y2dy=∬x,y≥0e−(x2+y2)dxdy.
極座標 x=ρcosφ、y=ρsinφ(0≤ρ<∞、0≤φ≤π/2)に変換する。面積要素は dxdy=ρdρdφ である。
I2=∫0π/2dφ∫0∞e−ρ2ρdρ=2π[−21e−ρ2]0∞=2π⋅21=4π.
I>0 より I=2π である。
(3) フレネル積分 ∫0∞cos(x2)dx
f(z)=e−z2 は全平面で正則なので、コーシーの積分定理より、閉曲線 O→A→B→O について
∫OAfdz+∫ABfdz+∫BOfdz=0.
各部分を計算する。
OA:z=x(0≤x≤r)で ∫OAfdz=∫0re−x2dx。
AB:問題の指示により r→∞lim∫ABfdz=0。
BO:z=teiπ/4 で、B から O へ進むので t は r から 0 へ動く。dz=eiπ/4dt と(1)の f=e−it2 より
∫BOfdz=∫r0e−it2eiπ/4dt=−eiπ/4∫0re−it2dt.
r→∞ とすると、(2)の結果より
2π−eiπ/4∫0∞e−it2dt=0⟹∫0∞e−it2dt=e−iπ/42π=22π(1−i).
e−it2=cos(t2)−isin(t2) なので、実部を比べて
∫0∞cos(x2)dx=22π=42π.
虚部からは ∫0∞sin(x2)dx=42π も得られる。
最終答
(1) 線分 OB 上の f(z)
f(z)=e−it2 (z=teiπ/4、0≤t≤r)
(2) ガウス積分 ∫0∞e−x2dx
∫0∞e−x2dx=2π
(3) フレネル積分 ∫0∞cos(x2)dx
∫0∞cos(x2)dx=42π=212π≈0.6267