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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学I 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は化学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 反応速度論:NOの気相酸化と定常状態近似

設問(a) 定常状態近似による NOX2\ce{NO2} の生成速度

素反応は分子が実際に衝突して起こる1段階の変化なので、速度則の次数が反応式の係数に一致する。(1)は2分子の NO\ce{NO} が衝突する過程であり、速度は k1[NO]2k_1[\ce{NO}]^2 と書ける。ここでの k1k_1 は反応(1)1回あたりの速度を決める定数で、NO\ce{NO} の減少速度は 2k1[NO]22k_1[\ce{NO}]^2 になる。速度定数と物質ごとの変化速度の間に係数 22 が入る点を、(1)と(3)の両方で確かめる必要がある。

定常状態近似は、中間体の濃度が低く、生成と消費がほぼ釣り合って d[I]/dt≈0d[\mathrm{I}]/dt\approx0 とみなせる場合に使う。目安は、中間体の消費の一次速度定数 k2+k3[OX2]k_2+k_3[\ce{O2}] が、生成の一次速度定数に相当する k1[NO]k_1[\ce{NO}] より十分大きいことである。この条件が実際に満たされるかは(c-3)で数値的に調べる。

得られた式は次の3点で確かめられる。第一に単位である。k1,k3k_1,k_3 を L mol−1 s−1\mathrm{L\,mol^{-1}\,s^{-1}} とすると、k3[OX2]k_3[\ce{O2}] は s−1\mathrm{s^{-1}} で k2k_2 と同じ単位をもち、分子は L2 mol−2 s−2×mol3 L−3=mol L−1 s−2\mathrm{L^2\,mol^{-2}\,s^{-2}\times mol^3\,L^{-3}}=\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-2}} で、これを s−1\mathrm{s^{-1}} で割ると濃度の時間変化の単位 mol L−1 s−1\mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}} になる。第二に極限である。k3[OX2]≫k2k_3[\ce{O2}]\gg k_2 なら d[NOX2]/dt→2k1[NO]2d[\ce{NO2}]/dt\to2k_1[\ce{NO}]^2 となり、(1)の速度の2倍に等しい。(1)で生じた (NO)2(\ce{NO})_2 がすべて(3)に進む状況に対応する。第三に反応(A)の化学量論である。NO\ce{NO} の収支は d[NO]/dt=−2k1[NO]2+2k2[(NO)2]d[\ce{NO}]/dt=-2k_1[\ce{NO}]^2+2k_2[(\ce{NO})_2] で、定常状態では −2k3[(NO)2][OX2]-2k_3[(\ce{NO})_2][\ce{O2}] に等しい。これは −d[NOX2]/dt-d[\ce{NO2}]/dt と一致し、2NO+OX2→2NOX22\ce{NO}+\ce{O2}\to2\ce{NO2} の係数比と整合する。

さらに、素過程の連立微分方程式を数値積分して近似の精度を調べた。k1=0.05k_1=0.05、k2=1.0×103k_2=1.0\times10^3、k3=20k_3=20(濃度と時間は任意単位)、初濃度 [NO]=[OX2]=1[\ce{NO}]=[\ce{O2}]=1 とすると、積分で得た [(NO)2][(\ce{NO})_2] と定常状態の式の値は相対誤差 4×10−64\times10^{-6} で一致した。

係数 22 を落として d[NOX2]/dt=k1k3[NO]2[OX2]/(k2+k3[OX2])d[\ce{NO2}]/dt=k_1k_3[\ce{NO}]^2[\ce{O2}]/(k_2+k_3[\ce{O2}]) と書くと、NO\ce{NO} の消費速度との比が 1:21:2 になり、反応(A)の量論と合わない。

設問(b) 次数が 22 次・11 次となる条件

見かけの反応次数は、速度を濃度で対数微分した値で定義される。べき乗の速度式 v=k[A]mv=k[\mathrm{A}]^m なら ∂ln⁡v/∂ln⁡[A]=m\partial\ln v/\partial\ln[\mathrm{A}]=m となり、普通の次数と一致する。(a)の式は分母に和を含むので、この値が濃度と速度定数の比に依存して連続的に変わる。OX2\ce{O2} の次数 k2/(k2+k3[OX2])k_2/(k_2+k_3[\ce{O2}]) は 00 と 11 の間の値をとり、k2=10 k3[OX2]k_2=10\,k_3[\ce{O2}] ならば 0.910.91 である。実験で整数の 11 が得られたという事実は、この比が 11 に十分近いことを示す。

条件の物理的な意味は前駆平衡である。(1)と(2)が速い往復を繰り返し、(NO)2(\ce{NO})_2 が NO\ce{NO} と平衡に近い状態に保たれ、(3)だけが遅い。平衡定数を K=k1/k2K=k_1/k_2 とすると [(NO)2]=K[NO]2[(\ce{NO})_2]=K[\ce{NO}]^2 であり、速度は 2Kk3[NO]2[OX2]2Kk_3[\ce{NO}]^2[\ce{O2}] となって(a)の近似式と同じ形になる。見かけの速度定数は k=2k1k3/k2=2Kk3k=2k_1k_3/k_2=2Kk_3 と書け、(c-1)ではこれにアレニウスの式を当てはめる。

逆の極限 k3[OX2]≫k2k_3[\ce{O2}]\gg k_2 では速度が 2k1[NO]22k_1[\ce{NO}]^2 となり、OX2\ce{O2} について零次になる。この場合は(1)が全体の速さを決めており、題意の「OX2\ce{O2} に1次」に反する。また、「OX2\ce{O2} の濃度が高いとき」という条件を答えにすると逆向きになる。OX2\ce{O2} を増やすほど k3[OX2]k_3[\ce{O2}] は大きくなり、k2k_2 との大小関係は成り立ちにくくなるためである。条件は速度定数と濃度の大小で書く。

設問(c-1) 見かけの活性化エネルギーと温度上昇の影響

アレニウスの式 k=Aexp⁡(−Ea/RT)k=A\exp(-E_{\mathrm a}/RT) は、dln⁡k/dT=Ea/(RT2)d\ln k/dT=E_{\mathrm a}/(RT^2) という定義と同じ内容である。複数の速度定数の積や商では対数をとって和と差になるので、活性化エネルギーも加減される。k=2k1k3/k2k=2k_1k_3/k_2 からは Ea1+Ea3−Ea2E_{\mathrm{a1}}+E_{\mathrm{a3}}-E_{\mathrm{a2}} が得られ、分母の k2k_2 に対応する項だけ符号が逆になる。

素過程の正逆の活性化エネルギーの差が反応エンタルピーに等しいことは、平衡定数 K=k1/k2K=k_1/k_2 とファントホッフの式 dln⁡K/dT=ΔH∘/(RT2)d\ln K/dT=\Delta H^\circ/(RT^2) を比べると分かる。両者を温度で微分した形が一致するので Ea1−Ea2=ΔH∘E_{\mathrm{a1}}-E_{\mathrm{a2}}=\Delta H^\circ となる。ただし濃度基準の平衡定数で厳密に書くと、ΔH∘\Delta H^\circ ではなく内部エネルギー変化 ΔU∘=ΔH∘+RT\Delta U^\circ=\Delta H^\circ+RT が入り、300 K300\ \mathrm K で約 2.5 kJ mol−12.5\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} の差が出る。問題は反応エンタルピーを与えて Ea=0E_{\mathrm{a}}=0 となるよう設定されているため、ここでは両者を同一視する。

数値での確認として、Ea1E_{\mathrm{a1}} を 00、55、20 kJ mol−120\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} のどれに仮定しても、k1k3/k2k_1k_3/k_2 は 300300〜600 K600\ \mathrm K で一定となる。Ea1E_{\mathrm{a1}} の値は答えに影響しない。物理的には、昇温で k3k_3 が増える効果と、発熱的な前駆平衡 K=k1/k2K=k_1/k_2 が不利になる効果が互いに打ち消し合う。300 K300\ \mathrm K から 400 K400\ \mathrm K へ上げると、k3k_3 は exp⁡[−Ea3(1/400−1/300)/R]=3.01\exp[-E_{\mathrm{a3}}(1/400-1/300)/R]=3.01 倍、前駆平衡のエンタルピー項は 0.3320.332 倍で、積は 1.0001.000 である。

この結論は、濃度を固定した密閉容器に限って成り立つ。圧力を一定に保って加熱すると、理想気体では濃度が 1/T1/T に比例して下がる。速度は濃度の3乗の積に比例するので、300 K300\ \mathrm K から 400 K400\ \mathrm K で (300/400)3=0.42(300/400)^3=0.42 倍に減る。Ea1−Ea2E_{\mathrm{a1}}-E_{\mathrm{a2}} に −11.0-11.0 ではなく +11.0+11.0 を入れる符号の誤りでは、Ea=22.0 kJ mol−1E_{\mathrm a}=22.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} となり、昇温で速度が上がると誤って答えることになる。

設問(c-2) エネルギープロファイルの作図

活性化エネルギーは、出発状態から遷移状態までのエネルギーの高さである。同じ素過程の正方向と逆方向は同じ遷移状態を通る(微視的可逆性)ので、(1)の遷移状態の高さは始状態から見て Ea1E_{\mathrm{a1}}、中間体から見て Ea2E_{\mathrm{a2}} となり、両者の差が中間体と始状態の高さの差 11.0 kJ mol−111.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} になる。この関係から Ea1E_{\mathrm{a1}} の数値は決まらず、図では Ea2E_{\mathrm{a2}} の矢印が Ea1E_{\mathrm{a1}} のそれより 11.011.0 だけ長いことで表す。

数値の整合も確かめておく。(3)の反応エンタルピーは −114.1−(−11.0)=−103.1 kJ mol−1-114.1-(-11.0)=-103.1\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} で、(3)の逆反応の活性化エネルギーは 11.0+103.1=114.1 kJ mol−111.0+103.1=114.1\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} となる。図の遷移状態(3)が 0.00.0、生成系が −114.1-114.1 であることと一致する。遷移状態(3)が始状態と同じ高さに来るのは、数値がこのように選ばれているためで、作図ミスではない。

2NOX22\ce{NO2} の高さを、(1)と(3)のエンタルピーを足して −11.0+(−114.1)=−125.1-11.0+(-114.1)=-125.1 とする誤りがある。−114.1-114.1 は反応(A)全体の値であり、(1)と(3)を合わせた変化に等しいので、足し直してはならない。また、Ea3E_{\mathrm{a3}} を始状態から測って遷移状態(3)を +11.0+11.0 に描く誤りも多い。活性化エネルギーは常に直前の安定な状態から測る。

設問(c-3) 定常状態近似の妥当性

定常状態近似の成立条件を式で確かめる。(a)の結果から [(NO)2]/[NO]=k1[NO]/(k2+k3[OX2])≤k1[NO]/k2[(\ce{NO})_2]/[\ce{NO}]=k_1[\ce{NO}]/(k_2+k_3[\ce{O2}])\le k_1[\ce{NO}]/k_2 であり、k1/k2k_1/k_2 は(1)の濃度基準の平衡定数 KcK_c に等しい。Kc=K∘RT/p∘=1.5×10−3 L mol−1K_c=K^\circ RT/p^\circ=1.5\times10^{-3}\ \mathrm{L\,mol^{-1}} なので、[(NO)2]/[NO][(\ce{NO})_2]/[\ce{NO}] は Kc[NO]K_c[\ce{NO}] を超えない。比がこれほど小さければ、(1)で NO\ce{NO} が (NO)2(\ce{NO})_2 に取られる量は無視でき、中間体の濃度は [NO][\ce{NO}] と [OX2][\ce{O2}] の変化に追従して瞬時に調整される。これが d[(NO)2]/dt≈0d[(\ce{NO})_2]/dt\approx0 の内容である。

図の縦軸がエンタルピーである点に注意する。(c-2)の図では (NO)2(\ce{NO})_2 が始状態より 11.0 kJ mol−111.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} 低く、あたかも安定な中間体が蓄積するように見える。エンタルピーだけで平衡を見積もると K=exp⁡(11.0×103/(8.31×300))=82K=\exp(11.0\times10^3/(8.31\times300))=82 となり、(NO)2(\ce{NO})_2 が NO\ce{NO} より優勢という結論になる。しかし 2NO→(NO)22\ce{NO}\to(\ce{NO})_2 は2分子が1分子になるため、エントロピーが −117.2 J mol−1 K−1-117.2\ \mathrm{J\,mol^{-1}\,K^{-1}} だけ減る。−TΔS=+35.2 kJ mol−1-T\Delta S=+35.2\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} はエンタルピー項 −11.0-11.0 を上回り、符号が逆転する。ΔrG∘=0\Delta_{\mathrm r}G^\circ=0 となる温度は ΔH/ΔS=93.9 K\Delta H/\Delta S=93.9\ \mathrm K で、室温付近より十分に低い。400 K400\ \mathrm K では ΔrG∘=+35.9 kJ mol−1\Delta_{\mathrm r}G^\circ=+35.9\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}、K∘=2.1×10−5K^\circ=2.1\times10^{-5} とさらに小さくなる。温度が高いほど近似はよく成り立つ。

(b)で求めた条件 k2≫k3[OX2]k_2\gg k_3[\ce{O2}] も、(NO)2(\ce{NO})_2 が不安定で NO\ce{NO} へ戻りやすいことと矛盾しない。ただしエネルギー図だけからは、Ea2=Ea1+11.0≥Ea3E_{\mathrm{a2}}=E_{\mathrm{a1}}+11.0\ge E_{\mathrm{a3}} であり、k2k_2 が k3[OX2]k_3[\ce{O2}] を上回る根拠は、頻度因子(単分子の ν2\nu_2 と二分子の ν3\nu_3)の差に求めることになる。頻度因子は問題に与えられておらず、この点は図から確定できない。

誤りやすい計算が二つある。ΔrS∘\Delta_{\mathrm r}S^\circ の符号を逆にして +117.2+117.2 とすると ΔrG∘=−46.2 kJ mol−1\Delta_{\mathrm r}G^\circ=-46.2\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}、K∘=1.1×108K^\circ=1.1\times10^{8} となり、中間体がほぼ全量たまるという非現実的な結論になる。また、ΔH\Delta H が kJ、ΔS\Delta S が J を単位とすることを見落として −11.0−300×(−117.2)=35 149-11.0-300\times(-117.2)=35\,149 と計算すると、桁が三つ違う。計算の前に両者を同じエネルギー単位へそろえる。

解答

設問(a) 定常状態近似による NOX2\ce{NO2} の生成速度

素反応の速度は、反応物の濃度に化学量論係数の次数を与えた積に速度定数を掛けたものである。中間体 (NO)2(\ce{NO})_2 は(1)で生成し、(2)と(3)で消費されるので d[(NO)2]dt=k1[NO]2−k2[(NO)2]−k3[(NO)2][OX2]. \frac{d[(\ce{NO})_2]}{dt}=k_1[\ce{NO}]^2-k_2[(\ce{NO})_2]-k_3[(\ce{NO})_2][\ce{O2}]. 定常状態近似により左辺を零とおくと [(NO)2]=k1[NO]2k2+k3[OX2]. [(\ce{NO})_2]=\frac{k_1[\ce{NO}]^2}{k_2+k_3[\ce{O2}]}. NOX2\ce{NO2} を作るのは(3)だけで、(3)が1回起こるごとに2分子の NOX2\ce{NO2} が生じるから d[NOX2]dt=2k3[(NO)2][OX2]=2k1k3[NO]2[OX2]k2+k3[OX2]. \frac{d[\ce{NO2}]}{dt}=2k_3[(\ce{NO})_2][\ce{O2}] =\frac{2k_1k_3[\ce{NO}]^2[\ce{O2}]}{k_2+k_3[\ce{O2}]}.

設問(b) 次数が 22 次・11 次となる条件

(a)の式を OX2\ce{O2} について対数微分すると、OX2\ce{O2} の次数は ∂ln⁡v∂ln⁡[OX2]=1−k3[OX2]k2+k3[OX2]=k2k2+k3[OX2] \frac{\partial\ln v}{\partial\ln[\ce{O2}]}=1-\frac{k_3[\ce{O2}]}{k_2+k_3[\ce{O2}]}=\frac{k_2}{k_2+k_3[\ce{O2}]} である。NO\ce{NO} の次数は式の形から常に 22 である。OX2\ce{O2} の次数が 11 になるには、右辺が 11 に近い、すなわち k2≫k3[OX2]k_2\gg k_3[\ce{O2}] でなければならない。このとき分母は k2k_2 で近似でき d[NOX2]dt≃2k1k3k2[NO]2[OX2] \frac{d[\ce{NO2}]}{dt}\simeq\frac{2k_1k_3}{k_2}[\ce{NO}]^2[\ce{O2}] となり、実験の次数と一致する。

設問(c-1) 見かけの活性化エネルギーと温度上昇の影響

(b)の条件では d[NOX2]/dt=k[NO]2[OX2]d[\ce{NO2}]/dt=k[\ce{NO}]^2[\ce{O2}]、k=2k1k3/k2k=2k_1k_3/k_2 である。各素過程のアレニウスの式を代入すると k=2ν1ν3ν2exp⁡ ⁣(−Ea1+Ea3−Ea2RT). k=\frac{2\nu_1\nu_3}{\nu_2}\exp\!\left(-\frac{E_{\mathrm{a1}}+E_{\mathrm{a3}}-E_{\mathrm{a2}}}{RT}\right). k=Aexp⁡(−Ea/RT)k=A\exp(-E_{\mathrm a}/RT) と比べて Ea=Ea1−Ea2+Ea3. E_{\mathrm a}=E_{\mathrm{a1}}-E_{\mathrm{a2}}+E_{\mathrm{a3}}. (1)と(2)は互いに逆向きの素過程であり、活性化エネルギーの差は反応エンタルピーに等しい。したがって Ea1−Ea2=ΔrH∘(1)=−11.0 kJ mol−1E_{\mathrm{a1}}-E_{\mathrm{a2}}=\Delta_{\mathrm r}H^\circ(1)=-11.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} となる。Ea3=11.0 kJ mol−1E_{\mathrm{a3}}=11.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} を加えて Ea=−11.0+11.0=0.0 kJ mol−1. E_{\mathrm a}=-11.0+11.0=0.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}. 活性化エネルギーが零なので、k=2ν1ν3/ν2k=2\nu_1\nu_3/\nu_2 は温度によらない。密閉容器では濃度が変わらず、温度を 300 K300\ \mathrm K から上げても反応(A)の速度はほとんど変化しない。

設問(c-2) エネルギープロファイルの作図

始状態 2NO+OX22\ce{NO}+\ce{O2} のエンタルピーを 00 とし、次の高さをとる。

  • 中間体 (NO)2+OX2(\ce{NO})_2+\ce{O2}:ΔrH∘(1)=−11.0 kJ mol−1\Delta_{\mathrm r}H^\circ(1)=-11.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} より −11.0-11.0。

  • 生成系 2NOX22\ce{NO2}:ΔrH∘(A)=−114.1 kJ mol−1\Delta_{\mathrm r}H^\circ(\mathrm A)=-114.1\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} より −114.1-114.1。

  • (1)(2)の遷移状態:始状態から Ea1E_{\mathrm{a1}} の高さ。(2)は(1)の逆なので、中間体から測った高さは Ea2=Ea1+11.0E_{\mathrm{a2}}=E_{\mathrm{a1}}+11.0 で、Ea2E_{\mathrm{a2}} の矢印は Ea1E_{\mathrm{a1}} より 11.0 kJ mol−111.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} だけ長い。

  • (3)の遷移状態:中間体から Ea3=11.0E_{\mathrm{a3}}=11.0 の高さで、−11.0+11.0=0.0-11.0+11.0=0.0。始状態と同じ高さになる。

2NO+O₂→2NO₂の反応のエンタルピー図。2NOから中間体(NO)₂を経て2NO₂へ下がり、遷移状態(1)(2)と遷移状態(3)の高さで活性化エネルギーEa1、Ea2、Ea3を示す。Ea3=11.0 kJ/mol、Ea2=Ea1+11.0で、Ea1の高さは例示。縦軸は−11.0と−114.1の間を省略している。

自作図:エンタルピー図(縦軸は −11.0-11.0 と −114.1-114.1 の間を省略している。Ea1E_{\mathrm{a1}} は値が与えられていないため例示の高さ。Ea3=11.0 kJ mol−1E_{\mathrm{a3}}=11.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}、Ea2=Ea1+11.0E_{\mathrm{a2}}=E_{\mathrm{a1}}+11.0)

設問(c-3) 定常状態近似の妥当性

定常状態近似が使えるのは、(NO)2(\ce{NO})_2 の濃度が低く、k2+k3[OX2]≫k1[NO]k_2+k_3[\ce{O2}]\gg k_1[\ce{NO}] となる場合である。(NO)2(\ce{NO})_2 の量を反応(1)の自由エネルギーから見積もる。

300 K300\ \mathrm K で ΔrG∘(1)=ΔrH∘−TΔrS∘=−11.0 kJ mol−1−300 K×(−117.2×10−3 kJ mol−1 K−1)=+24.2 kJ mol−1.\begin{align*} \Delta_{\mathrm r}G^\circ(1)&=\Delta_{\mathrm r}H^\circ-T\Delta_{\mathrm r}S^\circ\\ &=-11.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}-300\ \mathrm K\times(-117.2\times10^{-3}\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}\,K^{-1}})\\ &=+24.2\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}. \end{align*} 平衡定数は K∘=exp⁡ ⁣(−ΔrG∘RT)=exp⁡ ⁣(−24.16×1038.31×300)=6.2×10−5. K^\circ=\exp\!\left(-\frac{\Delta_{\mathrm r}G^\circ}{RT}\right) =\exp\!\left(-\frac{24.16\times10^3}{8.31\times300}\right)=6.2\times10^{-5}. 標準状態を 1 bar1\ \mathrm{bar} とすると、平衡では p(NO)2/pNO=K∘pNO/p∘p_{(\mathrm{NO})_2}/p_{\mathrm{NO}}=K^\circ p_{\mathrm{NO}}/p^\circ である。NO\ce{NO} が純粋に 1 bar1\ \mathrm{bar} ある極端な場合でも比は 6.2×10−56.2\times10^{-5}、0.01 bar0.01\ \mathrm{bar} なら 6.2×10−76.2\times10^{-7} にすぎない。(NO)2(\ce{NO})_2 は常に微量で、生成より速く消費される。

最終答

設問(a) 定常状態近似による NOX2\ce{NO2} の生成速度

d[NOX2]dt=2k1k3[NO]2[OX2]k2+k3[OX2]\displaystyle\frac{d[\ce{NO2}]}{dt}=\frac{2k_1k_3[\ce{NO}]^2[\ce{O2}]}{k_2+k_3[\ce{O2}]}

設問(b) 次数が 22 次・11 次となる条件

k2≫k3[OX2]k_2\gg k_3[\ce{O2}]((NO)2(\ce{NO})_2 が NO\ce{NO} へ戻る速さが、OX2\ce{O2} と反応する速さより十分大きい)。

設問(c-1) 見かけの活性化エネルギーと温度上昇の影響

Ea=0.0 kJ mol−1E_{\mathrm a}=0.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}。見かけの速度定数は温度によらず、昇温しても反応(A)の速度は変わらない。

設問(c-2) エネルギープロファイルの作図

2NO+OX2 (0)→2\ce{NO}+\ce{O2}\ (0)\to 遷移状態 (Ea1)→(NO)2+OX2 (−11.0)→(E_{\mathrm{a1}})\to(\ce{NO})_2+\ce{O2}\ (-11.0)\to 遷移状態 (0.0)→2NOX2 (−114.1)(0.0)\to2\ce{NO2}\ (-114.1)。Ea2=Ea1+11.0E_{\mathrm{a2}}=E_{\mathrm{a1}}+11.0。

設問(c-3) 定常状態近似の妥当性

妥当である。エンタルピーでは中間体が 11.0 kJ mol−111.0\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} 低く見えるが、ΔrG∘(1)=+24.2 kJ mol−1\Delta_{\mathrm r}G^\circ(1)=+24.2\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} で自由エネルギーは高く、(NO)2(\ce{NO})_2 は微量の不安定な中間体にとどまる。

第2問 — 相平衡:化学ポテンシャルから導く沸点上昇

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第3問 — 無機化学:O_2の分子軌道、窒素のLatimer図、イオン化エネルギー

無機化学:O_2の分子軌道、窒素のLatimer図、イオン化エネルギーの途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 有機合成:Friedel–Craftsアシル化とベンザインの付加環化

有機合成:Friedel–Craftsアシル化とベンザインの付加環化の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 有機合成:トロピノン型の二重Mannich反応からシクロオクタテトラエンへ

有機合成:トロピノン型の二重Mannich反応からシクロオクタテトラエンへの途中式・最終答をPDFで見る

化学Iの解答・解説PDF

2023〜2026年度(4年度) · ¥2,580

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年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(このページ・解説5項目)

    反応速度論:NOの気相酸化と定常状態近似 / 相平衡:化学ポテンシャルから導く沸点上昇 / 無機化学:O_2の分子軌道、窒素のLatimer図、イオン化エネルギー

  • 2025年度(解説5項目)

    有機化学:モノグリセリドのけん化、臭素付加の立体化学、DCC・DMAPによるエステル化 / 有機合成:カルボンからヘルミントスポラールへ / 無機化学:遷移金属錯体の構造と電子状態、酸性度の序列、I3- の構造

  • 2024年度(解説5項目)

    無機化学:分子の構造と点群、八面体錯体の結晶場理論 / 有機化学:ピリジンの求電子置換と求核置換、ピラジン環の構築 / 有機化学:Claisen縮合、ジアゾ化合物による環拡大、ジアニオンのアルキル化

  • 2023年度(解説5項目)

    有機合成:Claisen 転位を使った β-ionone の合成 / 糖質化学:D-ガラクトースから epi-inositol への合成 / 無機化学:アルカリ金属の結晶構造・酸化物・還元反応

2026年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は化学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問NOの気相酸化と定常状態近似—あり
第2問化学ポテンシャルから導く沸点上昇—あり
第3問化学O_2の分子軌道、窒素のLatimer図、イオン化エネルギー—あり
第4問Friedel–Craftsアシル化とベンザインの付加環化—あり
第5問トロピノン型の二重Mannich反応からシクロオクタテトラエンへ—あり

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 5問 → 2026年度 5問
2025年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF