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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学I 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は化学3項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 有機合成:Claisen 転位を使った β-ionone の合成

有機合成:Claisen 転位を使った β-ionone の合成の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 糖質化学:D-ガラクトースから epi-inositol への合成

糖質化学:D-ガラクトースから epi-inositol への合成の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 無機化学:アルカリ金属の結晶構造・酸化物・還元反応

無機化学:アルカリ金属の結晶構造・酸化物・還元反応の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 反応速度論と化学平衡:ホスゲンの分解とラジカル連鎖機構

設問(a) 800 K での平衡濃度

濃度平衡定数 KcK_c は、反応式 aA+bB⇌cC+dDa\ce{A}+b\ce{B}\rightleftharpoons c\ce{C}+d\ce{D} に対して Kc=[C]c[D]d/([A]a[B]b)K_c=[\ce{C}]^c[\ce{D}]^d/([\ce{A}]^a[\ce{B}]^b) で、平衡状態の濃度の比を表す。気体の分子数が増える反応(ここでは Δn=+1\Delta n=+1)では、KcK_c の単位が mol L−1\mathrm{mol\,L^{-1}} になる。問題が与えた Kc=4.6×10−3 mol L−1K_c=4.6\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} の単位は、この式と合っている。

初期状態の反応商 Q=[CO]0[ClX2]0/[COClX2]0Q=[\ce{CO}]_0[\ce{Cl2}]_0/[\ce{COCl2}]_0 は、[CO]0=0[\ce{CO}]_0=0 なので Q=0Q=0 で、KcK_c より小さい。したがって、反応は右向き(COClX2\ce{COCl2} の分解)に進む。この「向き」の確認が、x>0x>0 の根を選ぶ根拠になる。初期に ClX2\ce{Cl2} があること(1.0×10−41.0\times10^{-4})が、(a)の条件で見落としやすい。

xx が初期濃度に比べて小さいと近似できるかを確かめる。x=8.3×10−4x=8.3\times10^{-4} は、1.0×10−31.0\times10^{-3} の83\%に当たり、小さくない。近似 x2≈Kc[COClX2]0x^2\approx K_c[\ce{COCl2}]_0 では x=4.6×10−3×1.0×10−3=2.1×10−3x=\sqrt{4.6\times10^{-3}\times1.0\times10^{-3}}=2.1\times10^{-3} となり、初期濃度 1.0×10−31.0\times10^{-3} を超えて不可能な値になる。したがって、二次方程式を解く必要がある。確かめとして、解を代入すると [CO][ClX2]/[COClX2]=4.600×10−3 mol L−1[\ce{CO}][\ce{Cl2}]/[\ce{COCl2}]=4.600\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} となり、KcK_c に一致する。

誤りとして、初期の ClX2\ce{Cl2} を無視して x2=Kc(1.0×10−3−x)x^2=K_c(1.0\times10^{-3}-x) を解く答案がある。x=8.4×10−4x=8.4\times10^{-4} となり、[CO]=[ClX2]=8.4×10−4[\ce{CO}]=[\ce{Cl2}]=8.4\times10^{-4}、[COClX2]=1.6×10−4 mol L−1[\ce{COCl2}]=1.6\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} と出る。[ClX2][\ce{Cl2}] が正しい 9.3×10−49.3\times10^{-4} より1割ほど小さい。

設問(b-1) ラジカル濃度の時間変化

素過程の速度式は、反応物の濃度に化学量論係数を指数としてかけた形で書ける(質量作用の法則)。素過程でないと、この書き方はできない。問題が(A)を素過程でないと断っているのは、(A)の速度式を濃度の積の形に決めつけてはならないという意味である。

(5)と(6)では、係数2に注意する。(5)の ClX2→2⋅Cl\ce{Cl2}\to2{\cdot}\mathrm{Cl} は、速度 v5v_5 で ⋅Cl{\cdot}\mathrm{Cl} を2個ずつ生じ、(6)の 2⋅Cl→ClX22{\cdot}\mathrm{Cl}\to\ce{Cl2} は、速度 v6=k6[⋅Cl]2v_6=k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 で ⋅Cl{\cdot}\mathrm{Cl} を2個ずつ消す。したがって、d[⋅Cl]/dtd[{\cdot}\mathrm{Cl}]/dt に +2k5[ClX2]+2k_5[\ce{Cl2}] と −2k6[⋅Cl]2-2k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 が入る。d[ClX2]/dtd[\ce{Cl2}]/dt への寄与は v6v_6 を +1+1 倍、v5v_5 を −1-1 倍とする。速度定数を d[ClX2]/dt=k6[⋅Cl]2d[\ce{Cl2}]/dt=k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 の形で定義する流儀で、k6k_6 の値が 22 倍ずれる場合があるので、ここでは反応速度 vv を基準にした。

確かめとして、2つの式の和をとる。(1)(1) から (4)(4) は、⋅Cl{\cdot}\mathrm{Cl} を1個消すと ⋅COCl{\cdot}\mathrm{COCl} を1個生じ、またはその逆で、和で打ち消し合う。残るのは(5)と(6)だけで、d[⋅Cl]/dt+d[⋅COCl]/dt=2k5[ClX2]−2k6[⋅Cl]2d[{\cdot}\mathrm{Cl}]/dt+d[{\cdot}\mathrm{COCl}]/dt=2k_5[\ce{Cl2}]-2k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 になる。これは(b-2)で使う。

誤りとして、係数2を片方だけ落とす例がある。たとえば +2k5[ClX2]−k6[⋅Cl]2+2k_5[\ce{Cl2}]-k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 とすると、(b-2)で [⋅Cl]=2k5[ClX2]/k6[{\cdot}\mathrm{Cl}]=\sqrt{2k_5[\ce{Cl2}]/k_6} となり、正しい値の 2=1.41\sqrt2=1.41 倍になる。

設問(b-2) 定常状態近似による [⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] と [⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}]

定常状態近似は、反応性が高く濃度の低い中間体(ここではラジカル)について、生成の速さと消費の速さが釣り合い、濃度の時間変化が、反応物の濃度の変化に比べて無視できるとする近似である。濃度が一定という意味ではなく、反応物の濃度に追従して決まる値と見なす。問題が「各ラジカルには定常状態近似が成り立つ」と指定していることが、d[⋅Cl]/dt=0d[{\cdot}\mathrm{Cl}]/dt=0 を使う合図である。

2つの式を直接連立すると、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] について二次式になって扱いにくい。そこで和をとると、(1)から(4)の項が消え、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] だけの式が得られる。(5)と(6)がなければ、2つの式は互いに逆符号で、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] を決められない。開始(5)と停止(6)が、ラジカルの量を決める役を担う。

仮定した速度定数で確かめる。k1=5.0×107k_1=5.0\times10^{7}、k2=1.0×109k_2=1.0\times10^{9}、k4=1.0×109k_4=1.0\times10^{9}、k6=1.0×1010 L mol−1 s−1k_6=1.0\times10^{10}\ \mathrm{L\,mol^{-1}\,s^{-1}}、k3=9.2×107k_3=9.2\times10^{7}、k5=1.0×10−2 s−1k_5=1.0\times10^{-2}\ \mathrm{s^{-1}}(すべて仮定の例で、k1k3/(k2k4)=4.6×10−3 mol L−1k_1k_3/(k_2k_4)=4.6\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} になるように選んだ)を使い、(A)の初期条件から6個の素過程の微分方程式を数値的に解いた。t=0.05 st=0.05\ \mathrm{s} で、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] は厳密解が 1.109×10−81.109\times10^{-8}、上の式が 1.114×10−8 mol L−11.114\times10^{-8}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、[⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}] は 8.78×10−128.78\times10^{-12} と 8.82×10−12 mol L−18.82\times10^{-12}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} で、約0.5\%以内で一致した。ラジカルの濃度は、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] が [ClX2][\ce{Cl2}] の約 10−410^{-4} 倍、[⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}] が [COClX2][\ce{COCl2}] の約 10−810^{-8} 倍で、「常に低い」という前提に合う。ラジカルが定常に達するまでには、停止反応の速さで決まる時間(この仮定では数 ms)が必要である。

誤りとして、定常状態の式に(5)と(6)を入れずに [⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] を求めようとする例がある。この場合は和が0になり、[⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] の式が得られない。また、[⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}] の式の分母を k2[ClX2]−k3k_2[\ce{Cl2}]-k_3 と、符号を取り違える答案もある。⋅COCl{\cdot}\mathrm{COCl} を消す過程は(2)と(3)の2つで、どちらも分母に加えて入る。

設問(b-3) COClX2\ce{COCl2} の濃度の時間変化

全体の反応速度は、律速段階を1つに決めない場合でも、中間体を定常状態近似で消去すれば、安定な化学種の濃度だけの式になる。この結果の第1項(k1k3[COClX2]k_1k_3[\ce{COCl2}] を含む項)は COClX2\ce{COCl2} が分解する速さ、第2項(k2k4[CO][ClX2]k_2k_4[\ce{CO}][\ce{Cl2}] を含む項)は逆反応の速さを表す。(1)と(2)で COClX2\ce{COCl2} が出入りし、(3)と(4)は ⋅COCl{\cdot}\mathrm{COCl} と ⋅Cl{\cdot}\mathrm{Cl} の間を行き来するので、(1)の k1k_1 と(3)の k3k_3、(2)の k2k_2 と(4)の k4k_4 が積の形で組になって現れる。

一見して、[ClX2]1/2[\ce{Cl2}]^{1/2} という半整数の次数が現れ、(A)から素朴に予想する −k[COClX2]+k′[CO][ClX2]-k[\ce{COCl2}]+k'[\ce{CO}][\ce{Cl2}] の形とは異なる。連鎖反応では、このような分数次数がよく現れる。分数次数の由来は、[⋅Cl]∝[ClX2]1/2[{\cdot}\mathrm{Cl}]\propto[\ce{Cl2}]^{1/2} である。

確かめとして、仮定した速度定数((b-2)と同じ)で t=0.05 st=0.05\ \mathrm{s} の d[COClX2]/dtd[\ce{COCl2}]/dt を求めた。厳密な微分方程式の値は −5.40×10−4-5.40\times10^{-4}、上の式の値は −5.43×10−4 mol L−1 s−1-5.43\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}} で、約0.5\%以内で一致した。符号は、このとき COClX2\ce{COCl2} が減る向きである。

誤りとして、COClX2\ce{COCl2} の変化に(1)だけを使う答案がある。d[COClX2]/dt=−k1[COClX2][⋅Cl]d[\ce{COCl2}]/dt=-k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}] とすると、逆向きの(2)が抜けて、平衡でも速度が0にならない。仮定した速度定数で、(a)の平衡濃度([⋅Cl]=3.05×10−8 mol L−1[{\cdot}\mathrm{Cl}]=3.05\times10^{-8}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} は、K5=k5/k6=1×10−12 mol L−1K_5=k_5/k_6=1\times10^{-12}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} の仮定で求めた)では、(1)だけの速度が −2.6×10−4 mol L−1 s−1-2.6\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}\,s^{-1}} となり、実際の正味の速度 00 と食い違う。

設問(b-4) 化学平衡で反応式(A)による扱いが許される速度定数の条件

(A)は素過程ではなく、複数の素過程の総和 (1)+(3)(1)+(3) に当たる。熱力学的な平衡定数は、反応の途中の経路によらず、始状態と終状態だけで決まるので、KcK_c の形は(A)で書いてよい。経路を知ると、Kc=K1K3K_c=K_1K_3(K1=k1/k2K_1=k_1/k_2、K3=k3/k4K_3=k_3/k_4)と速度定数で表せる。(b-3)の速度式で d[COClX2]/dt=0d[\ce{COCl2}]/dt=0 とおいた結果が一致することは、この連鎖機構が熱力学と矛盾しないことを示す。

許される条件がラジカルの量に関わる理由は、(a)の計算の前提にある。(a)は、C\ce{C} の原子が COClX2\ce{COCl2} と CO\ce{CO} のどちらかに、Cl\ce{Cl} の原子が COClX2\ce{COCl2} と ClX2\ce{Cl2} に収まると仮定して、物質収支をたてた。ラジカルに無視できない量の原子が入ると、この収支が崩れる。(b-3)の分母は k3+k2[ClX2]k_3+k_2[\ce{Cl2}] で、k3≫k2[ClX2]k_3\gg k_2[\ce{Cl2}] のとき d[COClX2]/dt≈−(k5/k6)1/2[ClX2]1/2{k1[COClX2]−(k2k4/k3)[CO][ClX2]}d[\ce{COCl2}]/dt\approx-(k_5/k_6)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}\{k_1[\ce{COCl2}]-(k_2k_4/k_3)[\ce{CO}][\ce{Cl2}]\} と簡単になるが、この簡略化は平衡定数 k1k3/(k2k4)k_1k_3/(k_2k_4) を変えない。

仮定の値で確かめる。K1=k1/k2=0.05K_1=k_1/k_2=0.05、K3=Kc/K1=0.092 mol L−1K_3=K_c/K_1=0.092\ \mathrm{mol\,L^{-1}} とし、ClX2⇌2⋅Cl\ce{Cl2}\rightleftharpoons2{\cdot}\mathrm{Cl} の平衡定数 K5=k5/k6K_5=k_5/k_6 だけを変えて、(a)と同じ初期条件で、C\ce{C} と Cl\ce{Cl} の原子の収支を含めた平衡濃度を計算した。K5=1×10−12 mol L−1K_5=1\times10^{-12}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} では、[COClX2]=1.7×10−4[\ce{COCl2}]=1.7\times10^{-4}、[CO]=8.3×10−4[\ce{CO}]=8.3\times10^{-4}、[ClX2]=9.3×10−4 mol L−1[\ce{Cl2}]=9.3\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} で、[⋅Cl]=3.0×10−8[{\cdot}\mathrm{Cl}]=3.0\times10^{-8}、[⋅COCl]=2.8×10−10 mol L−1[{\cdot}\mathrm{COCl}]=2.8\times10^{-10}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} と微量であり、(a)の値に一致する。K5=1×10−4 mol L−1K_5=1\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}(k5≪k6[ClX2]k_5\ll k_6[\ce{Cl2}] を満たさない)では、[⋅Cl]=2.8×10−4 mol L−1[{\cdot}\mathrm{Cl}]=2.8\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} が [ClX2]=8.1×10−4 mol L−1[\ce{Cl2}]=8.1\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} の約3分の1に達し、[ClX2][\ce{Cl2}] は(a)の値から約13\%ずれる。

誤りとして、平衡定数を k1/k2k_1/k_2(素過程(1)だけ)とする答案がある。仮定の値では K1=0.05K_1=0.05(単位なし)で、(A)の Kc=4.6×10−3 mol L−1K_c=4.6\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} と、値も単位も合わない。また、平衡では連鎖が止まるので、ラジカルの濃度は0であるという答案もある。平衡では正逆の素過程が同じ速さで進み、ラジカルは微量だが0にはならない。

解答

設問(a) 800 K での平衡濃度

体積一定なので、濃度で表す。反応した COClX2\ce{COCl2} の濃度を x mol L−1x\ \mathrm{mol\,L^{-1}} とすると、平衡では次のようになる。

[COClX2][\ce{COCl2}]

[CO][\ce{CO}]

[ClX2][\ce{Cl2}]

初期

1.0×10−31.0\times10^{-3}

00

1.0×10−41.0\times10^{-4}

平衡

1.0×10−3−x1.0\times10^{-3}-x

xx

1.0×10−4+x1.0\times10^{-4}+x

平衡定数の定義 Kc=[CO][ClX2][COClX2]=4.6×10−3 mol L−1K_c=\dfrac{[\ce{CO}][\ce{Cl2}]}{[\ce{COCl2}]}=4.6\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} に代入する。 x(1.0×10−4+x)1.0×10−3−x=4.6×10−3 ⟹ x2+4.7×10−3 x−4.6×10−6=0 \frac{x(1.0\times10^{-4}+x)}{1.0\times10^{-3}-x}=4.6\times10^{-3} \ \Longrightarrow\ x^2+4.7\times10^{-3}\,x-4.6\times10^{-6}=0 x=−4.7×10−3+(4.7×10−3)2+4×4.6×10−62=8.3×10−4 mol L−1 x=\frac{-4.7\times10^{-3}+\sqrt{(4.7\times10^{-3})^2+4\times4.6\times10^{-6}}}{2}=8.3\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} 負の根は濃度として不適で、x<1.0×10−3x<1.0\times10^{-3} も満たす根はこれだけである。したがって、[CO]eq=x=8.3×10−4[\ce{CO}]_{eq}=x=8.3\times10^{-4}、[ClX2]eq=1.0×10−4+x=9.3×10−4[\ce{Cl2}]_{eq}=1.0\times10^{-4}+x=9.3\times10^{-4}、[COClX2]eq=1.0×10−3−x=1.7×10−4 mol L−1[\ce{COCl2}]_{eq}=1.0\times10^{-3}-x=1.7\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} である。

設問(b-1) ラジカル濃度の時間変化

素過程(1)から(6)の反応速度を、素過程の速度式として v1=k1[COClX2][⋅Cl]v_1=k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]、v2=k2[⋅COCl][ClX2]v_2=k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]、v3=k3[⋅COCl]v_3=k_3[{\cdot}\mathrm{COCl}]、v4=k4[⋅Cl][CO]v_4=k_4[{\cdot}\mathrm{Cl}][\ce{CO}]、v5=k5[ClX2]v_5=k_5[\ce{Cl2}]、v6=k6[⋅Cl]2v_6=k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 とおく。化学種の濃度の変化は、その化学種が生じる素過程の vv に化学量論係数をかけて加え、消える素過程の vv に化学量論係数をかけて引く。 d[⋅Cl]dt=−k1[COClX2][⋅Cl]+k2[⋅COCl][ClX2]+k3[⋅COCl]−k4[⋅Cl][CO]+2k5[ClX2]−2k6[⋅Cl]2d[⋅COCl]dt=k1[COClX2][⋅Cl]−k2[⋅COCl][ClX2]−k3[⋅COCl]+k4[⋅Cl][CO]\begin{align*} \frac{d[{\cdot}\mathrm{Cl}]}{dt}&=-k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]+k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]+k_3[{\cdot}\mathrm{COCl}]-k_4[{\cdot}\mathrm{Cl}][\ce{CO}]+2k_5[\ce{Cl2}]-2k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2\\ \frac{d[{\cdot}\mathrm{COCl}]}{dt}&=k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]-k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]-k_3[{\cdot}\mathrm{COCl}]+k_4[{\cdot}\mathrm{Cl}][\ce{CO}] \end{align*}

設問(b-2) 定常状態近似による [⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] と [⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}]

ラジカルの濃度は常に低く、生成と消費が釣り合う定常状態に達しているとして、d[⋅Cl]/dt=0d[{\cdot}\mathrm{Cl}]/dt=0、d[⋅COCl]/dt=0d[{\cdot}\mathrm{COCl}]/dt=0 とおく。

  1. (b-1)の2つの式の和は、0=2k5[ClX2]−2k6[⋅Cl]20=2k_5[\ce{Cl2}]-2k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2 である。これを [⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] について解くと、 [⋅Cl]=(k5k6)1/2[ClX2]1/2. [{\cdot}\mathrm{Cl}]=\left(\frac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}.

  2. d[⋅COCl]/dt=0d[{\cdot}\mathrm{COCl}]/dt=0 から、(k2[ClX2]+k3)[⋅COCl]=(k1[COClX2]+k4[CO])[⋅Cl](k_2[\ce{Cl2}]+k_3)[{\cdot}\mathrm{COCl}]=(k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}])[{\cdot}\mathrm{Cl}] なので、 [⋅COCl]=k1[COClX2]+k4[CO]k2[ClX2]+k3 [⋅Cl]=(k5k6)1/2[ClX2]1/2 k1[COClX2]+k4[CO]k2[ClX2]+k3. [{\cdot}\mathrm{COCl}]=\frac{k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}]}{k_2[\ce{Cl2}]+k_3}\,[{\cdot}\mathrm{Cl}] =\left(\frac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}\,\frac{k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}]}{k_2[\ce{Cl2}]+k_3}.

設問(b-3) COClX2\ce{COCl2} の濃度の時間変化

COClX2\ce{COCl2} は(1)で消え、(2)で生じる。したがって、 d[COClX2]dt=−k1[COClX2][⋅Cl]+k2[⋅COCl][ClX2]. \frac{d[\ce{COCl2}]}{dt}=-k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]+k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]. これに(b-2)の結果を代入する。[⋅COCl]=[⋅Cl](k1[COClX2]+k4[CO])/(k2[ClX2]+k3)[{\cdot}\mathrm{COCl}]=[{\cdot}\mathrm{Cl}](k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}])/(k_2[\ce{Cl2}]+k_3) より、 d[COClX2]dt=[⋅Cl] −k1[COClX2](k2[ClX2]+k3)+k2[ClX2](k1[COClX2]+k4[CO])k2[ClX2]+k3=[⋅Cl] k2k4[CO][ClX2]−k1k3[COClX2]k2[ClX2]+k3.\begin{align*} \frac{d[\ce{COCl2}]}{dt}&=[{\cdot}\mathrm{Cl}]\,\frac{-k_1[\ce{COCl2}](k_2[\ce{Cl2}]+k_3)+k_2[\ce{Cl2}](k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}])}{k_2[\ce{Cl2}]+k_3}\\ &=[{\cdot}\mathrm{Cl}]\,\frac{k_2k_4[\ce{CO}][\ce{Cl2}]-k_1k_3[\ce{COCl2}]}{k_2[\ce{Cl2}]+k_3}. \end{align*} [⋅Cl]=(k5/k6)1/2[ClX2]1/2[{\cdot}\mathrm{Cl}]=(k_5/k_6)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2} を代入して、 d[COClX2]dt=−(k5k6)1/2[ClX2]1/2 k1k3[COClX2]−k2k4[CO][ClX2]k3+k2[ClX2]. \frac{d[\ce{COCl2}]}{dt}=-\left(\frac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}\,\frac{k_1k_3[\ce{COCl2}]-k_2k_4[\ce{CO}][\ce{Cl2}]}{k_3+k_2[\ce{Cl2}]}.

設問(b-4) 化学平衡で反応式(A)による扱いが許される速度定数の条件

  1. 化学平衡では d[COClX2]/dt=0d[\ce{COCl2}]/dt=0 なので、(b-3)の結果から k1k3[COClX2]eq=k2k4[CO]eq[ClX2]eqk_1k_3[\ce{COCl2}]_{eq}=k_2k_4[\ce{CO}]_{eq}[\ce{Cl2}]_{eq}、すなわち Kc=[CO]eq[ClX2]eq[COClX2]eq=k1k3k2k4 K_c=\frac{[\ce{CO}]_{eq}[\ce{Cl2}]_{eq}}{[\ce{COCl2}]_{eq}}=\frac{k_1k_3}{k_2k_4} となる。これは(A)の平衡定数と同じ形で、素過程(1)の平衡定数 k1/k2k_1/k_2 と(3)の平衡定数 k3/k4k_3/k_4 の積である。この関係は、k1k_1 から k6k_6 の大小によらず成り立つ。

  2. (A)の式だけで平衡濃度を求める((a)の方法)ためには、ラジカルが、C\ce{C}、O\ce{O}、Cl\ce{Cl} の原子の収支に寄与しないほど微量でなければならない。平衡では素過程ごとに正逆の速さが釣り合い、[⋅Cl]=(k5/k6)1/2[ClX2]1/2[{\cdot}\mathrm{Cl}]=(k_5/k_6)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}、[⋅COCl]=(k1/k2)[COClX2][⋅Cl]/[ClX2][{\cdot}\mathrm{COCl}]=(k_1/k_2)[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]/[\ce{Cl2}] である。

  3. [⋅Cl]≪[ClX2][{\cdot}\mathrm{Cl}]\ll[\ce{Cl2}] となるには、[⋅Cl]/[ClX2]=(k5/(k6[ClX2]))1/2[{\cdot}\mathrm{Cl}]/[\ce{Cl2}]=(k_5/(k_6[\ce{Cl2}]))^{1/2} より、k5≪k6[ClX2]eqk_5\ll k_6[\ce{Cl2}]_{eq}(k5/k6≪[ClX2]eqk_5/k_6\ll[\ce{Cl2}]_{eq})が必要である。[⋅COCl]≪[COClX2][{\cdot}\mathrm{COCl}]\ll[\ce{COCl2}] となるには、[⋅COCl]/[COClX2]=(k1/k2)[⋅Cl]/[ClX2][{\cdot}\mathrm{COCl}]/[\ce{COCl2}]=(k_1/k_2)[{\cdot}\mathrm{Cl}]/[\ce{Cl2}] より、k1≲k2k_1\lesssim k_2 であれば足りる。

最終答

設問(a) 800 K での平衡濃度

[COClX2]eq=1.7×10−4 mol L−1[\ce{COCl2}]_{eq}=1.7\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、[CO]eq=8.3×10−4 mol L−1[\ce{CO}]_{eq}=8.3\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、[ClX2]eq=9.3×10−4 mol L−1[\ce{Cl2}]_{eq}=9.3\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}。

設問(b-1) ラジカル濃度の時間変化

d[⋅Cl]dt=−k1[COClX2][⋅Cl]+k2[⋅COCl][ClX2]+k3[⋅COCl]−k4[⋅Cl][CO]+2k5[ClX2]−2k6[⋅Cl]2\dfrac{d[{\cdot}\mathrm{Cl}]}{dt}=-k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]+k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]+k_3[{\cdot}\mathrm{COCl}]-k_4[{\cdot}\mathrm{Cl}][\ce{CO}]+2k_5[\ce{Cl2}]-2k_6[{\cdot}\mathrm{Cl}]^2、d[⋅COCl]dt=k1[COClX2][⋅Cl]−k2[⋅COCl][ClX2]−k3[⋅COCl]+k4[⋅Cl][CO]\dfrac{d[{\cdot}\mathrm{COCl}]}{dt}=k_1[\ce{COCl2}][{\cdot}\mathrm{Cl}]-k_2[{\cdot}\mathrm{COCl}][\ce{Cl2}]-k_3[{\cdot}\mathrm{COCl}]+k_4[{\cdot}\mathrm{Cl}][\ce{CO}]。

設問(b-2) 定常状態近似による [⋅Cl][{\cdot}\mathrm{Cl}] と [⋅COCl][{\cdot}\mathrm{COCl}]

[⋅Cl]=(k5k6)1/2[ClX2]1/2[{\cdot}\mathrm{Cl}]=\left(\dfrac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}、[⋅COCl]=(k5k6)1/2[ClX2]1/2k1[COClX2]+k4[CO]k2[ClX2]+k3[{\cdot}\mathrm{COCl}]=\left(\dfrac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}\dfrac{k_1[\ce{COCl2}]+k_4[\ce{CO}]}{k_2[\ce{Cl2}]+k_3}。

設問(b-3) COClX2\ce{COCl2} の濃度の時間変化

d[COClX2]dt=−(k5k6)1/2[ClX2]1/2 k1k3[COClX2]−k2k4[CO][ClX2]k3+k2[ClX2]\dfrac{d[\ce{COCl2}]}{dt}=-\left(\dfrac{k_5}{k_6}\right)^{1/2}[\ce{Cl2}]^{1/2}\,\dfrac{k_1k_3[\ce{COCl2}]-k_2k_4[\ce{CO}][\ce{Cl2}]}{k_3+k_2[\ce{Cl2}]}。

設問(b-4) 化学平衡で反応式(A)による扱いが許される速度定数の条件

k5≪k6[ClX2]eqk_5\ll k_6[\ce{Cl2}]_{eq}(ClX2\ce{Cl2} の解離が再結合より十分遅く、⋅Cl{\cdot}\mathrm{Cl} が微量)かつ k1≲k2k_1\lesssim k_2(⋅COCl{\cdot}\mathrm{COCl} も微量)。このとき、ラジカルの存在量は無視でき、平衡は Kc=[CO][ClX2]/[COClX2]=k1k3/(k2k4)K_c=[\ce{CO}][\ce{Cl2}]/[\ce{COCl2}]=k_1k_3/(k_2k_4) で扱える。

第5問 — 物理化学:化学ポテンシャルの温度依存性と相転移・凝固点降下

物理化学:化学ポテンシャルの温度依存性と相転移・凝固点降下の途中式・最終答をPDFで見る

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年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(解説5項目)

    反応速度論:NOの気相酸化と定常状態近似 / 相平衡:化学ポテンシャルから導く沸点上昇 / 無機化学:O_2の分子軌道、窒素のLatimer図、イオン化エネルギー

  • 2025年度(解説5項目)

    有機化学:モノグリセリドのけん化、臭素付加の立体化学、DCC・DMAPによるエステル化 / 有機合成:カルボンからヘルミントスポラールへ / 無機化学:遷移金属錯体の構造と電子状態、酸性度の序列、I3- の構造

  • 2024年度(解説5項目)

    無機化学:分子の構造と点群、八面体錯体の結晶場理論 / 有機化学:ピリジンの求電子置換と求核置換、ピラジン環の構築 / 有機化学:Claisen縮合、ジアゾ化合物による環拡大、ジアニオンのアルキル化

  • 2023年度(このページ・解説5項目)

    有機合成:Claisen 転位を使った β-ionone の合成 / 糖質化学:D-ガラクトースから epi-inositol への合成 / 無機化学:アルカリ金属の結晶構造・酸化物・還元反応

2023年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は化学3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問Claisen 転位を使った β-ionone の合成—あり
第2問D-ガラクトースから epi-inositol への合成—あり
第3問化学アルカリ金属の結晶構造・酸化物・還元反応—あり
第4問化学ホスゲンの分解とラジカル連鎖機構—あり
第5問化学化学ポテンシャルの温度依存性と相転移・凝固点降下—あり

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
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