阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学II 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)
解説5項目の分野は制御工学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。資料不足により確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 反応工学・物質収支:アンモニア合成の固定層反応器
反応工学・物質収支:アンモニア合成の固定層反応器の途中式・最終答をPDFで見る第2問 — プロセス制御:蒸気加熱槽の熱収支とむだ時間を含む制御系
設問(a) 槽内の熱収支式
各項の意味と単位
左辺は槽の液が蓄えている熱量の変化率で、 [kg] [kJ kg K] [K s] より kJ s になる。第1項は入口と出口の液が運ぶ熱の差で、 は液の熱容量流量 [kJ s K] である。第2項は蒸気の凝縮で出る熱で、蒸気流量 [kg s] に凝縮潜熱 [kJ kg] をかけた値になる。問題文の「蒸気はすべて液化して排出される」「蒸気および液の顕熱は無視できる」という指定が、蒸気から受け取る熱を だけで書いてよい根拠になる。熱損失がないという指定は、損失の項を置かない根拠である。
基準温度が消える理由
エンタルピーを と書いたとき、基準温度の項は流入の と流出の が打ち消し合い、蓄積の側でも が一定なので の微分が0になる。 や が時間で変わる系では、全質量の収支を併用しないとこの結果にならない。本問は両方が一定なので、基準温度を考えずに の形で書いてよい。
設問(b) 定常状態の蒸気流量
熱負荷として読む
分子の は、流量 の液を から まで温めるのに要する熱量 [kJ s] で、これを蒸気の凝縮熱 で割ると蒸気の流量になる。熱損失がないという条件が、凝縮熱を全部この昇温に使ってよい根拠である。また、定常では出口配管でも液の温度が変わらないので、熱電対が示す流出温度は槽の温度に等しく、 となる。これは(d)で使う。
数値例(仮定)
原題に数値はないので、 kg s、 kg、 kg、 kJ kg K、 kJ kg、 K、 K と仮定する。熱負荷は kJ s で、 kg s となる。以降の数値はこの仮定を使う。 を より低く置くと となり、蒸気では冷やせないという結果になる。
設問(c) を と で表す
偏差変数とゲイン・時定数
定常の式を引くと、定数項( など)が消えて、偏差だけの式が残る。ラプラス変換では、偏差を使うと初期値の項が0になる。伝達関数の分母は で、 は槽の滞留時間である。入口温度の偏差 から へのゲインは1で、十分時間がたてば槽温度の変化は入口温度の変化に等しくなる。蒸気流量の偏差 から へのゲイン は、蒸気が1 kg s 増えたときの槽温度の最終的な上昇量 [K] を表す。 の単位は で、 [kg s] とかけると K になる。
数値例(仮定)
(b)の仮定で、 s、 K s kg である。蒸気を kg s 増すと槽温度は最終的に K 上がり、入口温度が K 上がれば槽温度も K 上がる。 の変化に達する時間は s で、槽は反応が遅い系であることがわかる。
起こりやすい誤り
のゲインを のように を落として書くと、 [kg s] をかけた単位が kJ kg になり、温度 [K] にならない。時定数を とすると単位が秒にならない。 は である。
設問(d-1) 推移定理の証明
置換と成立条件
は、 を時間軸で だけ右へ平行移動し、 では とした関数である。置換で積分区間が に広がるが、 で という条件があるから、広がった の部分の寄与は0になる。この条件がないと、 が余りとして残り、関係は成り立たない。ラプラス積分が収束するために、 は が存在する範囲の値とする。
具体例による確かめ
()なら で、左辺は となり右辺に一致する。 なら で、これも である。係数 は、 で大きさが1、位相が となり、振幅を変えずに位相だけを周波数に比例して遅らせる。この位相の遅れが、フィードバック制御で安定性を悪くする。
設問(d-2) と の関係
むだ時間の仮定と大きさ
むだ時間の式は、配管内が押し出し流れ(軸方向の混合や拡散がない)で、配管内の熱損失が無視でき、熱電対自体の応答の遅れがないときに成り立つ。問題文の「槽の出口から熱電対の位置までの配管内の液量は 」という指定が、 を使う合図になる。(b)の数値例では s で、槽の時定数 s の にすぎないが、フィードバック制御では次に述べるとおり決定的な違いをもたらす。
制御で効く理由(数値例)
むだ時間のない1次遅れ系は、比例制御のゲイン を大きくしても安定である。むだ時間があると、ループの位相が となり、 に届く角周波数 が現れる。(b)の数値例では から rad s(周期 s)で、ループの大きさが1になる限界ゲインは である。むだ時間を含めた閉ループを数値積分すると、 では収束し、 では振動が増えて発散した。
むだ時間を取り違える誤り
むだ時間を槽の滞留時間 s としてしまう誤りがある。この値を使うと限界ゲインは kg s K と、正しい値の約 になり、設計が大きくずれる。槽内の混合の遅れは に入り、 に入れるのは「流れが配管を移動する時間」だけである。
設問(e) ブロック線図の空欄
空欄を決める手がかり
図で外乱 は(ア)の後ろの加え合わせ点に係数なしで入っている。これが、(イ)が に対して定常ゲイン1の1次遅れ でなければならず、 にかかる蒸気側のゲイン は(ア)に置く、という割り振りを決める合図になる。(c)の式をそのまま読めば、 の係数が 、 の係数が で、前者が(イ)、後者が(ア)と(イ)の積になる。(ウ)が(イ)の後ろにあるのは、むだ時間が槽の出口から熱電対までの配管で生じる遅れで、槽温度 から測定値 への変換だからである。(ウ)を(ア)の前に置くと、制御操作の遅れ(調節弁・蒸気側の遅れ)の意味になり、本問の配管の遅れとは異なる。
閉ループの式と符号
ブロック線図から、、 なので が得られる。 で、蒸気を増やすと温度が上がる。測定温度が目標より低いとき()に が増える向きに働くように、 のゲインは正にする。②を に取り違えた図は正帰還の系で、特性方程式が になる。 で なら、 の実根が現れて出力が発散する。(d-2)の数値例で とすると である。特性方程式は で、 が の有理式でないため根が無限に現れ、(d-2)で見た のような限界が生じる。 を1次のパデ近似 に置き換えると、むだ時間は右半面の零点をもつ要素として扱える。
解答
設問(a) 槽内の熱収支式
槽の液量 [kg] は一定で、槽の中の温度はどこでも に等しい(完全混合)。槽から出る液の温度も に等しい。単位時間(kJ s)の熱収支は「蓄積 流入 流出 蒸気から受け取る熱」である。基準温度 を使って液のエンタルピーを と書くと となり、流入と流出の流量が等しいので が消えて次の式になる。
設問(b) 定常状態の蒸気流量
定常では で、、、 である。(a)の式に入れると
設問(c) を と で表す
(a)の式から、定常の式 を辺々引く。、、 とおくと、、、、 が一定で式が 、、 について1次なので、近似なしに となる。 で定常状態にあるとして を使い、ラプラス変換すると である。両辺を で割り、 [s]、 [K s kg] とおく。
設問(d-1) 推移定理の証明
で とする。定義から と置換する(、 のとき )。 で なので、積分の下限を から に替えても値は変わらない。 以上で、 で の関数について が成り立つことが示された。
設問(d-2) と の関係
槽を出た液は、出口配管を混ざらずに押し出されて進み、配管内でも熱損失がないので、熱電対の位置の温度は、液が槽を出たときの温度に等しい。配管内の液量 [kg] を流量 [kg s] で押し出すのにかかる時間は である。したがって時刻 に熱電対が示す温度は、 だけ前の槽の温度であり、 となる。定常でも なので、偏差では (d-1)の推移定理を使うと
設問(e) ブロック線図の空欄
(c)と(d-2)より、蒸気流量の偏差 から槽の温度の偏差 、そして測定される までの関係は である。 は(ア)の出力と加え合わされて(イ)に入るので、(ア)は にかかる係数 で、加え合わせの後ろの(イ)が1次遅れ、(ウ)がむだ時間になる。
空欄 | 答 |
(ア) | |
(イ) | () |
(ウ) | () |
①、②、③、④ | ①、②、③、④ |
目標温度 と測定値 の差で偏差 を作るので、① は の 、② は検出部から戻る の である。③ は(ア)の出力、④ は外乱 で、どちらも加え合わせ点に で入る。
*[3pt]
自作図:むだ時間を含む蒸気加熱槽の温度制御系(図2の空欄を埋めた形)
最終答
設問(a) 槽内の熱収支式
[kJ s]。
設問(b) 定常状態の蒸気流量
[kg s]。
設問(c) を と で表す
、ただし 。
設問(d-2) と の関係
、ただし (むだ時間)。
設問(e) ブロック線図の空欄
(ア) 、(イ) ()、(ウ) ()。①、②、③、④。
第3問 — 反応工学:全圧追跡法による反応次数の決定
一部の確定答案なし
問題3(c)は表を完成させる各時刻の圧力の値が専用解答用紙にあり、公開PDFに含まれないため、表の数値と反応次数の確定した判定を収録していません。表の各列の計算式と判定の手順、仮定の数値例での判定を収録しています。
第4問 — 相平衡・蒸留:水-エタノール-ベンゼン系の共沸蒸留
相平衡・蒸留:水-エタノール-ベンゼン系の共沸蒸留の途中式・最終答をPDFで見る第5問 — 伝熱:発熱のある平板の熱伝導と右側面の熱損失
伝熱:発熱のある平板の熱伝導と右側面の熱損失の途中式・最終答をPDFで見る年度別の解答例(4年度)
物質移動:液境膜内の瞬間反応を伴うガス吸収 / 物質収支・熱収支:循環液を用いる発熱反応プロセス / 反応工学:気液反応の総括速度と触媒粒子の分散
2025年度(このページ・解説5項目)
反応工学・物質収支:アンモニア合成の固定層反応器 / プロセス制御:蒸気加熱槽の熱収支とむだ時間を含む制御系 / 反応工学:全圧追跡法による反応次数の決定
燃焼計算:硫黄の燃焼ガスと固体燃料の物質収支 / 流体力学:Bernoulliの式の導出、円管内層流、タンク流出 / 物質移動:棚段吸収塔の操作線と推進力、放散塔の抵抗支配と液ガス比
分離:精留塔の階段作図、還流比、供給段と操作線 / 反応工学:逐次反応の PFR と CSTR、中間体の最大濃度、選択率 / 伝熱:Nusselt 数、球殻の伝導と Nu=2、球形温度計の放射誤差
2025年度の出題内容
解説5項目
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 5問 → 2025年度 5問
大阪大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
- 公式の解答例
- 解答例の掲載なし
- 英語の扱い
- 受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-26