京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 経営学 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野は経営1問です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。残りは解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 経営戦略:競争戦略の財務的特徴と経営資源・多角化
方針
1) は定義どおりに割り算をするだけだが,答案には という分解式を必ず書く。この式が 2) の論拠になるからである。2) では「戦略の定義」「その戦略が生む財務パターン」「数値との突き合わせ」の3段で書けば,理由づけが飛ばない。定義を書いただけで結論に飛ぶ答案と,マージンと回転率のトレードオフを経由する答案とでは,同じ結論でも評価が大きく違う。
数値の読み方
利益率を縦軸,回転率を横軸にとると, の点は反比例の曲線(等ROIC曲線)を描く。両社はこの同じ曲線上の異なる点にあり,A社は右下,B社は左上に位置する。曲線が右上に移るほどROICが高い。
検算
利益率と回転率の積がROICに一致することを確かめれば,3つの指標の計算ミスは同時に検出できる。また分母・分子の取り違えにも注意する。回転率は「売上高投下資本」であり,逆にすると 回と 回になって,A社のほうが資本効率が低いという誤った読みに至る。指数で与えられているので単位は不要だが,回転率だけは「回」を付けると誤解がない。
失点しやすい点
第一に,「売上高が大きいほうがコストリーダー」という規模だけの判断は根拠が弱い。同じ業界でも事業領域の広さが違えば売上規模は変わるので,マージンと回転率の組み合わせで論じる。第二に,B社の低い回転率を「非効率」と断じてはならない。差別化に必要な無形資産・専用資産が投下資本に含まれる結果であり,その対価としてプレミアムを得ているというのが正しい読み方である。第三に,NOPATは税引後の営業利益なので,「営業利益率」と書くときは税引後であることを明記する。
この設問が試していること
競争戦略の類型を暗記しているかではなく,戦略の違いが財務諸表のどこにどう現れるかを説明できるかである。ROICの分解は,戦略論と財務分析をつなぐ最も基本的な道具であり,経営管理大学院の入試ではこの接続を見る出題が繰り返されている。
設問2 経営資源・ケイパビリティ・多角化の基礎概念
答案の分量と書く順序
4つとも行数制限があるので,各項目は「定義1〜2文 → 仕組みや分類 → 数値例・具体例・関係式を1つ」の型に収める。1) は数値例が明示的に要求されているので,固定費と変動費を置いて2〜3水準の平均費用を並べるのが最短で確実である。4) は「説明」と「調べる方法」の2問構成なので,行数を半分ずつ配分し,方法は手順の箇条書きにすると読みやすい。
1) の数値例の選び方
と をきりのよい数にして,平均費用が割り切れる生産量を3つ選ぶと,逓減の様子まで示せる。上の例では 円と下げ幅が縮んでおり,「規模の経済性は無限には続かない」という含意を数字だけで表現できる。逆に2水準しか示さないと,平均費用が直線的に下がり続けるかのような印象を与える。
2) と 3) のつなぎ方
VRIOは「いま何を持っているか」を静的に評価する枠組みであり,環境が変われば価値ある資源が価値を失う。ダイナミック・ケイパビリティは,その資源の束を組み替え続ける能力を扱うので,両者は静と動の関係にある。答案でこの一言を添えると,2つの概念を並べて覚えているだけでないことが伝わる。
失点しやすい点
1) では規模の経済性と経験効果(学習効果)の混同が多い。前者は一定期間の生産量,後者は累積生産量に対応する。2) ではVRIOの4要素を列挙するだけで,各段階がどの競争状態に対応するかを書き落とす答案が目立つ。設問が問うているのは「関係性」なので,競争劣位・競争均衡・一時的優位・持続的優位という4段階の対応を必ず示す。3) では3つの能力の名称だけを挙げず,それぞれ1文で内容を説明する。4) では「事業を売却すればよい」といった処方箋に流れず,まず現状がディスカウントかどうかを測る手続きを答える。ピュアプレイ企業の倍率を使うという核心を書かないと,設問の要求に答えたことにならない。
この設問が試していること
経営戦略論の主要な理論的立場を,外部環境(設問1のポジショニング),内部資源(VRIO),能力の動学(ダイナミック・ケイパビリティ),全社戦略(多角化と企業価値)という4つの層で押さえているかである。加えて4)では,理論を財務データで検証する手続きに落とせるかまで見られている。
解答
1) 3つの指標の算出
各指標は次のように定義される。 A社の売上高を100とする指数で与えられた値を代入する。A社は であり,B社は である。整理すると次のとおりである。
A社 | B社 | |
売上高営業利益率(税引後) | ||
投下資本回転率 | 回 | 回 |
ROIC |
いずれの企業でも が成り立っている(,)。両社のROICは等しく,収益性の水準は同じであるが,その内訳はまったく異なる。
2) 2つの基本戦略と両社の位置づけ
コストリーダーシップ戦略とは,業界内で最も低い累積コスト地位を築き,競合と同等かそれ以下の価格で販売しても平均以上の利益を確保する戦略である。コストの源泉は,規模の経済性,経験効果,高い設備稼働率,製品仕様と工程の標準化,購買・物流における交渉力などにある。低い単位マージンを大量の販売数量で埋め合わせる構造になるため,財務的には売上高利益率が低く,投下資本回転率が高いという特徴が現れる。
差別化戦略とは,買い手が価値を認める独自性(品質,性能,ブランド,デザイン,サービス,納期,顧客との関係)を作り出し,その独自性を生む追加コストを上回るプレミアム価格を得る戦略である。独自性の維持には研究開発,ブランド投資,専用設備,熟練人材への継続的な支出が必要で,これらは投下資本を膨らませる一方,販売数量は価格プレミアムのぶん限定される。したがって財務的には売上高利益率が高く,投下資本回転率が低くなる。
両社は同一業界に属し,投下資本の規模も等しい。その条件のもとで,A社は売上高がB社の2倍あるが利益率は にとどまり,回転率は 回と高い。同じ投下資本からより多くの売上を生み,薄いマージンを数量で回収する形になっており,コストリーダーシップ戦略と整合する。これに対しB社は,売上高がA社の半分でありながら同額のNOPATを稼ぎ,利益率は と2倍である。回転率 回は,資本に対して売上が伸びていないこと,すなわち高価格・小数量の販売と,独自性を支える資産の重さを示しており,差別化戦略と整合する。
よってA社がコストリーダーシップ戦略,B社が差別化戦略をとっていると判断できる。両社のROICが で一致することは,コスト優位と差別化という異なる経路をとっても同水準の資本効率に到達しうること,逆に言えばどちらの優位も築けない「中途半端な位置取り」を避けることが重要であることを示している。
1) 規模の経済性
一定期間の生産・販売規模を拡大するにつれて,製品1単位あたりの平均費用が低下する現象を規模の経済性という。主な源泉は,固定費の分散,専用設備と分業による作業効率の向上,購買・物流における交渉力の上昇である。総費用を ( は期間固定費, は単位変動費)とすると,平均費用は となり, の増加とともに低下する。
数値例として 万円, 円のとき, である。生産量を3倍にすると平均費用は4割下がるが,さらに2倍にしても下げ幅は 円にとどまり, は 円に漸近する。すなわち規模の経済性は逓減し,規模がある水準を超えると調整・管理費用の増大により長期平均費用が上昇に転じることがある(規模の不経済)。なお,累積生産量の増加にともなう習熟で費用が下がる経験効果とは,時間軸が異なる別の概念である。
2) VRIO分析と競争優位
経営資源アプローチ(RBV)は,企業間の持続的な収益差の源泉を,産業構造ではなく企業が保有・統制する経営資源とケイパビリティの異質性および移動困難性に求める。VRIO分析は,ある資源が競争優位を生むかを4つの問いで順に判定する枠組みである。
V(経済的価値):その資源は外部の機会を活用し脅威を無力化できるか。
R(希少性):それを保有する競合企業は少数か。
I(模倣困難性):獲得や複製に大きな費用がかかるか。独自の歴史的条件,因果関係の曖昧性,社会的複雑性,特許などが源泉となる。
O(組織):その資源を実際に活用できる組織構造,管理システム,報酬制度が整っているか。
競争優位との対応は階段状になる。Vを満たさない資源は競争劣位を招く。Vのみを満たす資源は競争均衡をもたらし,市場で生き残れるが超過利潤は得られない。VとRを満たすがIを満たさない資源は一時的な競争優位を生み,模倣によって優位は消散する。V・R・Iをすべて満たし,かつOによってそれが事業に組み込まれているとき,はじめて持続的競争優位が実現する。すなわちV・R・Iは優位の潜在力を,Oはその潜在力を実際の利益に変換する補完条件を表している。
3) ダイナミック・ケイパビリティ
ダイナミック・ケイパビリティとは,環境が急速に変化する状況において,企業が内外の資源・組織能力を統合し,構築し,再配置することで競争優位を維持・更新する能力をいう。既存の資源を所与として効率よく運用する通常のケイパビリティが「ものごとを正しく行う」能力であるのに対し,ダイナミック・ケイパビリティは「正しいことを行う」能力,すなわち何をすべきかを組み替える能力である。Teeceはこれを次の3つに分解した。
感知(sensing):技術・市場・顧客・規制の変化を探索し,機会と脅威に気づく能力。研究開発,顧客との対話,外部ネットワークからの情報取得がこれを支える。
捕捉(seizing):感知した機会に対して,ビジネスモデルを設計し,投資と資源配分を決定して実行する能力。意思決定の速度と,既存事業への配慮に引きずられない資源配分の規律が要点になる。
変容(transforming):資産,組織構造,ルーチン,企業文化を継続的に再構成し,経路依存性による硬直化を避ける能力。
3つは順序をもつ一連の過程であり,どれか1つが欠けても環境変化に適応できない。とりわけ変容は既存の成功体験の棄却をともなうため最も難しく,第2問で問われる組織学習の問題と直結する。
4) コングロマリット・ディスカウントとその検証
コングロマリット・ディスカウントとは,多角化企業の企業価値が,各事業を独立した専業企業として評価した価値の合計を下回る状態をいう。主な原因は,内部資本市場の非効率(好調な事業が生む資金が不振事業の相互補助に回り,資本が高収益機会から遠ざかる),本社の情報劣位とエージェンシー問題(経営者の規模志向による過大投資,事業部長のレント・シーキング),外部投資家から見た事業別業績の不透明性,そして投資家自身が複数の専業企業に投資して分散できるため企業内多角化に対価を払う理由が乏しいことである。実証研究でも,多角化企業の価値が専業企業の合計を有意に下回るという結果が繰り返し報告されている。
各事業部の財務データが本社経費配分後で得られる場合,次の手順で検証できる。第一に,X・Y・Zの各事業部と同じ業種に属し,かつ単一事業を営む上場企業(ピュアプレイ企業)を複数選び,そのEV/売上高,EV/EBITDA,EV/投下資本といった評価倍率の中央値を求める。第二に,各事業部の売上高やEBITDAにその倍率を掛け,事業部ごとの帰属事業価値を算出する。本社経費が適切に配分済みであるため,事業部の利益は独立企業ベースに近く,倍率法の前提と整合する。第三に,3事業部の帰属価値を合計し,非事業用資産を加え,純有利子負債を控除して理論的な株主価値を得る。第四に,これを実際の株式時価総額(または企業価値)と比較し, を計算する。この値が有意に負であればディスカウントの状態にある。単年度では業績変動の影響を受けるので複数年で確認し,複数の倍率で結果が一致するかを見る。あわせて各事業部のROICとWACCを比較し,ROICがWACCを下回る事業を特定すれば,割引の原因が資本配分にあるかどうかまで踏み込める。
最終答
A社:利益率 ,回転率 回,ROIC /B社:利益率 ,回転率 回,ROIC
A社=コストリーダーシップ戦略(低マージン・高回転),B社=差別化戦略(高マージン・低回転)
第2問 — 組織論:組織学習・アンラーニングとダイバーシティ
答案の型
指定語句がある論述では,語句を並べるのではなく語句どうしの論理関係を明示する。ここでは「シングル・ループ学習に偏る ダブル・ループ学習が起動しない 学習棄却がないので定着しない」という一方向の連鎖と,「成功体験がその出発点にある」という起点を示すのが骨格になる。指定語句は初出時に定義を与え,そのうえで日本企業の制度的な特徴(長期雇用,内部昇進,合意形成,減点主義)と結びつける。
具体性の出し方
抽象的な組織論の用語だけで書くと,どの企業にも当てはまる一般論になってしまう。長期雇用と内部昇進が経営層の同質性を生む,減点主義が提案者に費用を集中させる,といった制度と誘因のレベルまで下ろすと,「日本企業の現代的な経営課題」という設問の限定に答えたことになる。
失点しやすい点
第一に,シングル・ループ学習を「悪い学習」と決めつけないこと。連続的な環境では効率的であり,問題は前提が陳腐化しても切り替わらないことにある。第二に,ダブル・ループ学習と学習棄却を同義に扱わないこと。前者は前提を問い直す学習の型,後者はそのために既存の知識やルーチンを捨てる行為であり,後者は前者の必要条件である。第三に,「日本企業は保守的だから」といった文化論的な断定で済ませないこと。設問2以降で問われる文化・パワーの議論も,制度と誘因を経由して説明するのが望ましい。
設問2 2つの学習の図式化
図の設計方針
2つの学習の違いは「フィードバックの戻り先」だけである。したがって順方向の流れを1本の直線で描き,戻り矢印を2本,戻り先を変えて描くのが最も明快になる。箱を増やして複雑にするより,箱3つ・矢印5本の最小構成にして,各要素に名前を付けるほうが設問の要求に合う。「各ボックスとアローに適切な名前を必ず入れること」という指示があるので,矢印にも必ず名前を書く。
アンラーニングの置き場所
学習棄却をどこに描くかで理解の深さが出る。結果から前提への矢印の途中に置く描き方もあるが,棄却の対象は前提とそれに結びついたルーチンなので,箱1に入る操作として描くほうが意味が正確である。図に入れておくと,設問1で述べた「ダブル・ループ学習の必要条件」という関係が図の上でも読み取れる。
失点しやすい点
戻り矢印を1本しか描かない,あるいは2本とも同じ箱に戻す図は,違いを表現できていないため点にならない。また矢印に名前を付けず,箱だけにラベルを振る答案も指示違反になる。順方向の矢印にも「規定」「実行」のような名前を付けておくと,指示を満たしていることが明確になる。
設問3 ダイバーシティ・ジェンダーと組織変革
論述の型
1) は「枠組みの提示 日本企業の文化的特徴 2つの焦点(文化的アイデンティティ/パワーダイナミクス)ごとの機序 中長期の帰結」という4段で書く。設問が焦点を2つ指定しているので,見出しを立てて対応させると採点者が要求との対応を確認しやすい。2) は「介入する経路 シナリオ2つ(それぞれ施策と期待される変化と成立条件) 両者の関係」という構成にすると,2つが並列でなく補完関係にあることまで示せる。
概念の使い方
「不確実性回避」「権力格差」はホフステードの文化次元,「文化・アイデンティティ・パワー」はHatchの枠組み,「トークニズム」は比率が極端に偏った集団で少数派が置かれる状況を指す概念である。用語を挙げるだけでなく,その概念が何を説明するのかを1文で示してから使う。設問1で使った組織学習の語彙(前提の固定,ダブル・ループ学習,学習棄却)を再利用すると,第2問全体が一本の議論になる。
シナリオの具体性
「意識改革を進める」「多様性を尊重する」といった書き方では戦略シナリオにならない。誰が何を決め,どの指標で測り,どの制度を変えるのかまで書く。上のシナリオAは意思決定機関の構成と登用基準,シナリオBは評価と働き方の制度という,操作可能な対象を指定している。加えて,それぞれに成立条件(トークニズムの回避,運用の一致)を添えると,実行可能性まで考えたことが伝わる。
失点しやすい点
第一に,ダイバーシティを「あったほうが望ましいもの」として価値判断だけで論じると,組織論の設問に答えたことにならない。同質性が感知能力を下げる,パワーの偏りが議題設定を制約する,といった因果の説明が必要である。第二に,短期の効果(採用の見栄え,指標の改善)と中期の組織変化(意思決定の質,学習の型の転換)を混同しない。設問は中長期・中期を指定している。第三に,2つのシナリオを「女性管理職を増やす」「育休を取りやすくする」のように施策の粒度で並べると,どちらも同じ経路の話になってしまう。パワーと文化のように,介入する層を変えて対比させる。
この設問が試していること
組織文化やダイバーシティを標語としてではなく,組織の変化能力を左右する構造的な変数として扱えるかである。第1問のダイナミック・ケイパビリティ,第2問設問1の組織学習と合わせると,出題全体が「なぜ日本企業は変われないのか,どうすれば変われるのか」という一つの問いで貫かれていることが分かる。答案の最後にこの見通しを一文添えると,設問間のつながりを理解していることが示せる。
年度別の解答例(4年度)
経営組織・マーケティング:組織文化と顧客ロイヤルティ / 経営戦略:ペンローズの企業成長理論と資源ベース論
2025年度(このページ・全2問)
経営戦略:競争戦略の財務的特徴と経営資源・多角化 / 組織論:組織学習・アンラーニングとダイバーシティ
経営学:競争戦略・オープン・イノベーション・サービス・ESG / 経営組織:事業部制組織と組織文化
経営組織論:ネットワーク・センスメイキング・経路依存性・組織の両利き / リーダーシップ論:定義と資質論・行動論,分散型リーダーシップ,LMX
2025年度の出題内容
全2問
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 2問 → 2025年度 2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26