京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 経営学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野は経営1問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 経営組織論:ネットワーク・センスメイキング・経路依存性・組織の両利き
答案の分量と書く順序
1語につき10行以内という制限があるので,(i) 定義1〜2行,(ii) 仕組みまたは測度2〜3行,(iii) 帰結・経営上の含意2〜3行,(iv) 対比または限界1〜2行,の4段で組む。上の解答は解説を兼ねて長めに書いてあるので,答案ではこの4段だけを残す。構造的空隙なら制約度の式を1本入れると定義の精度が上がるが,10行の制約下では言葉で「相手どうしがつながっていないほど空隙に富む」と書いても同じ点数になる。式で書くか言葉で書くかは,残り行数で決めてよい。
3語句を貫く筋
3つの概念は,いずれも「行為者の意図や合理的計算だけでは結果を説明できない」という組織論の共通の関心を,別の水準で切り取っている。構造的空隙は関係の配置が機会を決めること,回顧的センスメイキングは意味が事後に構成されること,経路依存性は履歴の累積が選択肢を狭めることを扱う。この設問が試しているのは個々の用語の暗記ではなく,こうした現象を記述する語彙を持っているかどうかである。最後に1行,3つに共通する視点を書き添えると,並列の羅列より印象がよい。
失点しやすい点
構造的空隙を弱い紐帯と同一視する答案が多い。Burt の主張は,効くのは紐帯の強さではなく,重複しない情報源をまたぐという位置である。回顧的センスメイキングを「反省」や「事後評価」と訳して済ませると,意味が行為に先立たないという理論の核心が落ちる。経路依存性を「過去の慣行が続くこと」とだけ書くと,なぜ抜け出せないのかが説明できない。収穫逓増という自己強化の仕組みを必ず添える。
設問2への橋渡し
経路依存性で述べた中核硬直性は,そのまま設問2の「深化が探索を締め出す」という話につながる。答案では設問1の3)の末尾に一言だけ触れておき,設問2の冒頭で受けると,第1問全体が一本の議論に見える。
設問2 組織の両利きと単一ユニット内での両立
論述の骨格
前半と後半を独立の作文にしないことが最も重要である。前半で理由に (i)〜(iv) と番号を振り,後半の各条件・各例で「これは (i) を解除する」と対応づけると,前半を受けて後半を論じるという設問の構成に正面から答えたことになる。分量は前半4割,後半6割が目安で,例は2つに絞って深く書く方が,5つ並べるより評価される。
図の使い方
3つの型を1枚に並べると,設問が問うているのが (C) であることが一目で示せ,(A) や (B) を答えてしまう誤りを自分でも避けられる。答案で図を描く場合は,箱と矢印だけの簡素なもので十分で,各パネルに「何を分離しているか」を1語添えるとよい。
失点しやすい点
第1に,探索を研究開発部門,深化を製造部門と部門名に置き換える誤り。March の区別は活動の性質についてのものであって,部門の名前ではない。研究開発部門の中にも既存技術の微調整という深化があり,製造現場にも工法の探索がある。第2に,「両利き=新規事業の分社化」と答える誤り。これは (A) の説明であって,設問後半には答えていない。第3に,例が「イノベーションを促す風土をつくる」といった抽象論にとどまる誤り。誰が,何を,どの制度のもとで行うのかまで書く。
(A) と (C) の使い分け
どの型が適するかは,探索の対象が既存事業からどれだけ遠いかで決まる。既存の顧客・技術・販路から遠い探索(従来と原理の異なる技術の開発,新しい事業モデルの立ち上げ)は,既存事業の評価基準と意思決定手続きの中に置けば必ず淘汰されるので,(A) の構造的分離が必要になる。この場合,分離したユニットを既存の資産や販路と結びつける経営陣の統合能力が成否を決める。反対に,既存の技術基盤と顧客接点の延長線上にある探索(工法の改良,隣接する用途の開拓)は,(C) で足りるだけでなく,分離するとかえって現場の知識から切り離されて探索の質が落ちる。答案で単一ユニット内の両立を論じるときは,この適用範囲の限定を一言添えておくと,前半で述べた両立の困難さと矛盾しない。なお (C) は,成員が自分の時間配分を自ら判断できることを前提とするので,経験の浅い成員が多い職場や,人の入れ替わりが激しい職場では機能しにくい。
背景
March (1991) の元のモデルは,個人が組織コードから学び,組織コードも個人から学ぶという相互学習の設定である。社会化を速めると短期の知識水準は上がるが,個人の信念の多様性が失われるため,長期の均衡における知識水準はかえって下がる。両利きの議論は,この「多様性を保つための費用」を,組織設計と管理会計の問題として引き受けたものだと位置づけられる。設問が試しているのは,探索と深化という対概念を暗記しているかではなく,それが資源配分・学習・組織設計・評価という具体的な仕組みを通じて衝突することを説明できるかである。
第2問 — リーダーシップ論:定義と資質論・行動論,分散型リーダーシップ,LMX
答案の骨格
2つのアプローチを明確に区別することが求められているので,並べて書くだけでなく,同じ3つの観点で対比する。すなわち,(i) 何を説明変数に置くか(属性か行動か),(ii) 実務的関心はどこか(選抜か育成か),(iii) どこで行き詰まったか(いずれも状況の無視),である。この3点が揃うと,資質論から行動論,さらに条件適合理論へという研究史の連続が示せ,暗記の羅列とは差がつく。
定義で押さえること
定義は1文でよいが,「過程」「影響」「集団」「共通目標」の4語を必ず入れる。「地位に基づく指揮命令」とだけ書くと,設問2で扱うシェアド・リーダーシップやサーバント・リーダーシップがリーダーシップに含まれなくなり,大問全体の議論が破綻する。定義の広さと後続の設問の整合をとることが,この設問の隠れた要求である。
失点しやすい点
第1に,資質論を「古く,実証的に否定された説」と切り捨てる答案。Stogdill による批判とメタ分析による復権の両方に触れる必要がある。第2に,行動論を専制的と民主的の一次元で説明する誤り。オハイオ研究の核心は,課題面と関係面が独立の2次元であるという発見であり,だからこそ両方が高い型がありうる。第3に,PM 理論やマネジリアル・グリッドを行動論とは別系統のものとして扱う誤り。いずれも同じ2次元の枠組みである。
設問2・3へのつなぎ
資質論も行動論も,分析単位をリーダー個人に置く点では同じである。設問2はその分析単位をチームへ移し(シェアド),あるいは影響の目的をフォロワーへ向け直す(サーバント)。設問3は分析単位をリーダーと個々のメンバーの関係に置く。この移り方を答案の最後に1行書いておくと,設問1が独立した知識問題ではなく大問の導入として機能する。
設問2 シェアド・リーダーシップとサーバント・リーダーシップ
答案の構成
2つの概念それぞれの特徴,両者の共通点,従来型との相違点という3点が求められているので,答案も3つに区切って見出しを立てる。よくある失敗は,2つの概念の説明に紙幅を使い切り,共通点と相違点が数行で終わることである。配点は3等分と考え,比較の部分に全体の半分を割く。
比較の軸を先に決める
書き始める前に,影響の方向,影響の源泉,分析単位,目的の順序,有効な状況の5軸を決めておく。各軸について「従来型 シェアド サーバント」を1行ずつ埋めれば,取りこぼしがなく,共通点と相違点が同じ枠組みから機械的に出てくる。時間が足りないときは,この表をそのまま箇条書きに直せばよい。
失点しやすい点
第1に,シェアド・リーダーシップを「全員がリーダー」「リーダー不在」と説明する誤り。分散するのは影響力であって,公式の責任や権限が消えるわけではない。第2に,サーバント・リーダーシップを「部下に甘い」「御用聞き」と理解する誤り。Greenleaf の議論では,高い要求水準や厳しい判断は排除されず,むしろ部下の成長のために必要とされる。第3に,両者を「どちらも従来型より優れている」と価値評価で締める答案。有効性は状況に依存し,緊急時や成員の専門性が低い場面では垂直型が優る。
この設問が試していること
新しい概念名を暗記しているかではなく,リーダーシップ研究の分析単位が「個人 関係 チーム」と移動してきたことを理解しているかである。導入文が従来型の限界に触れているので,最後に「どの型が最善かではなく,仕事の性質と環境の変化速度が有効な型を決める」という条件適合的な立場で締めると,設問1の限界の議論とも整合する。
設問3 LMX 理論と部下の態度・パフォーマンス
答案の骨格
説明を求める部分と論述を求める部分が並んでいるので,前半と後半の分量を1対1にする。前半は分析単位がダイアドであること,交換の内容,形成過程の3点で足り,尺度名は余裕があれば添える程度でよい。後半は結果変数を列挙するだけでは論じたことにならないので,媒介の道筋を最低1本,できれば互恵の経路と動機づけの経路の2本を明示する。最後に調整要因を1つ挙げて条件つきの結論にすると,論述として締まる。
因果の向きに注意
報告されている相関の多くは横断的な質問票調査に基づく。高い LMX が業績を高めるのか,業績の高いメンバーが高い LMX を得るのかは,相関だけからは決まらない。答案でこの点に一言触れ,双方向の自己強化として書くと,メタ分析の数値を並べるだけの答案と差がつく。
規範的な含意を取り違えない
LMX は,リーダーが部下を差別的に扱っているという事実を記述する理論であって,差異化を推奨する理論ではない。Graen and Uhl-Bien のリーダーシップ・メイキングは,むしろ全員に高質な関係の構築を提案し,外集団を作らないことを実務的な処方としている。「内集団を作るとよい」と結論すると,理論の趣旨と逆になる。
大問全体の締め方
資質論と行動論はリーダーの属性と行動を,シェアドとサーバントは影響の所在と目的を,LMX は関係の質を,それぞれ説明変数に置く。第2問が通して問うているのは,リーダーシップをリーダー個人の性質として説明する枠組みからどう離れてきたかである。設問3の末尾に,LMX が関係を分析単位に据えたことでシェアド・リーダーシップのようなチームレベルの議論への道が開かれた,と1行書くと,3設問が一つの筋にまとまる。
年度別の解答例(4年度)
経営組織・マーケティング:組織文化と顧客ロイヤルティ / 経営戦略:ペンローズの企業成長理論と資源ベース論
経営戦略:競争戦略の財務的特徴と経営資源・多角化 / 組織論:組織学習・アンラーニングとダイバーシティ
経営学:競争戦略・オープン・イノベーション・サービス・ESG / 経営組織:事業部制組織と組織文化
2023年度(このページ・全2問)
経営組織論:ネットワーク・センスメイキング・経路依存性・組織の両利き / リーダーシップ論:定義と資質論・行動論,分散型リーダーシップ,LMX
2023年度の出題内容
全2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26