設問(a-1) MnOX4X− によるグルコースの完全酸化
酸化還元反応式は、授受する電子の数を決め、半反応式を原子数と電荷で釣り合わせ、電子の数をそろえて足す順で作る。グルコース CX6HX12OX6 では H が +1、O が −2 なので、炭素の酸化数の平均は 0 である。COX2 の炭素は +4 だから、炭素6個で 4×6=24 個の電子が出る。一方、Mn は MnOX4X− の +7 から MnX2+ の +2 へ変わり、1個あたり5個の電子を受け取る。「完全酸化」はグルコン酸などの途中の酸化段階で止まらず、炭素がすべて COX2 まで進むという条件である。
酸性溶液では、酸素原子の過不足を HX2O、水素原子の過不足を HX+、最後に電荷を電子で調整する。この順を守ると、半反応式のどの項が足りないかを機械的に見つけられる。グルコース側は水を6個左辺へ足して酸素を合わせ、残った水素24個を HX+ として右辺へ出す。MnOX4X− 側は酸素4個を HX2O 4個として右辺へ出し、水素8個を HX+ として左辺に足す。
総括式では、グルコース1個に MnOX4X− が 24/5 個対応して整数にならないため、グルコースを5個にして係数をそろえる。右辺の HX+ を相殺した後も左辺に 72 個残り、反応が HX+ を消費することを表している。この性質は(a-3)で硫酸を加える理由につながる。
誤りやすいのは、塩基性条件の式(OHX− を含む式)を使うこと、生成物を COX3X2− や HX2COX3 にすること、右辺の HX2O の係数を 96 のまま残して整理を忘れることである。原子数と電荷の両方を最後に数えれば、これらは見つかる。
設問(a-2) MnOX4X−/MnX2+ の標準電極電位
電池の起電力 E は、電子 1 mol が電位差 E を移動するときの仕事 FE に当たり、可逆な過程でこの仕事は −ΔG に等しい。反応で電子が n 個移るなら ΔG=−nFE となる。標準電極電位は、標準水素電極 2HX++2eX−HX2 の電位を 0 と決めた相対値なので、この反応の ΔG∘ が 0 であり、HX+ と電子の ΔfG∘ を 0 とおいてよい。反応式に HX+ が8個あっても、標準状態(a(HX+)=1、pH 0)では ΔrG∘ に寄与しない。
得た値は、標準電極電位表の MnOX4X−/MnX2+ の 1.51 V と一致する。単位は kJ を J に直してから F で割る。電位が正で大きいことは、MnOX4X− が強い酸化剤であることを示す。
誤答としては、HX2O の係数 4 を落として ΔrG∘=−228.0−237.1+447.3=−17.8 kJmol−1、E∘=0.037 V とするもの、n=1 として 7.56 V とするものがある。水溶液中の標準電極電位は、最も高いフッ素でも 2.87 V であり、7.56 V は桁から誤りと分かる。n は反応式で数えた電子の数であり、Mn の酸化数の変化 +7→+2 の 5 と一致する。
設問(a-3) pH 7 での電極電位と硫酸を加える理由
Nernst の式の対数の中では、反応式の係数が活量の指数になる。HX+ は還元側(左辺)に係数 8 で現れるので、a(HX+) が小さいほど E は低くなる。傾き 58×0.0591=0.0946 V は、HX+ の係数 8 を電子数 5 で割った値である。MnX2+ と MnOX4X− の濃度比も電位に影響するが、比が 103 違っても 0.035 V しか動かない。HX+ の効果(pH 7 で 0.66 V)のほうがはるかに大きい。
電位差 0.66 V は、MnOX4X− 1 mol あたりの反応 Gibbs エネルギーで −5×96485×0.662=−319 kJ の違いに当たる。硫酸を加える理由は、この差に加えて次の二つがある。一つは、中性付近では MnOX4X− が MnOX2(褐色の沈殿)まで3電子で還元されやすいことである。この場合、問題が前提とする「すべて MnX2+ まで還元される」5電子の化学量論が成り立たず、消費した MnOX4X− の量から COD を決められない。もう一つは、(a-1)の式が HX+ を消費して進むことである。酸が十分あれば反応が右へ進み続ける。
酸に硫酸を選ぶ理由もある。塩酸では ClX− が MnOX4X− に酸化される(ClX2/ClX− の標準電極電位は約 1.36 V で、MnOX4X− のほうが高い)ため、MnOX4X− の消費量が試料中の被酸化性物質の量を表さなくなる。硝酸は硝酸自身が酸化剤になる。硫酸イオンは酸化も還元もされにくいので、酸性にするだけの役割で済む。
なお、グルコースの COX2 への酸化の標準電位は、熱力学表の値から計算すると約 −0.01 V で、この電位も pH が上がると下がる(24 個の HX+ と 24 個の電子なので 0.0591 V ごとの pH)。pH 7 でも MnOX4X− との電位差は正で、熱力学的には反応は進む向きにある。したがって、硫酸の主な役割は、反応の向きを変えることよりも、生成物を MnX2+ にそろえて定量性を保つことにある。誤りとして、pH 7 の電位を E∘ のまま 1.51 V と答えるもの、HX+ の係数を 1 にして E=1.43 V と答えるものがある。係数は(a-2)の半反応式から読む。
設問(b-1) MnOX4X− による (COOH)X2 の完全酸化
(COOH)X2 の炭素は、H が +1、O が −2 から求めると +3 である。1分子の2個の炭素がともに +4(COX2)になるので、授受する電子は2個になる。MnOX4X− は5個の電子を受け取るため、物質量の比は (COOH)X2:MnOX4X−=5:2 になる。この比は(b-2)の物質収支でそのまま使う。
(a-1)と同じく電子の数を最小公倍数にそろえて足せばよく、(a-1)の半反応式をそのまま使える。シュウ酸を酸化剤の滴定に使うのは、標準物質として高純度のものが得られ、酸化生成物が気体の COX2 だけで後の分析を邪魔しないためである。
誤答には、HX+ を右辺に残して 2MnOX4X−+5(COOH)X2… と書くもの、2MnOX4X− に対して (COOH)X2 を 2 個としてしまうものがある。後者は、電子数の違い(5と2)を使わずに係数を決めている。(b-2)で、(COOH)X2 と MnOX4X− を 1:1 として計算すると、COD が約 −25 mgL−1 の負の値になって矛盾する。
設問(b-2) COD の計算
この操作は逆滴定である。グルコースと反応させる MnOX4X− を過剰に加え、余った分を、既知量の (COOH)X2 で還元してから、残った (COOH)X2 を MnOX4X− で滴定する。直接の定量対象は、グルコースと反応した MnOX4X− の量である。加えた MnOX4X− の全量(最初の 5.00×10−2 と終点までの 1.25×10−2 の合計 6.25×10−2 mmol)が、グルコースと (COOH)X2 の2種類の還元剤に使われると考えてもよい。電子で勘定すると、MnOX4X− が受け取った電子は 6.25×10−2×5=0.3125 mmol、(COOH)X2 が出した電子は 0.125×2=0.250 mmol で、残りの 0.0625 mmol がグルコースの出した電子になる。OX2 は電子を4個受け取るから 0.0625/4=0.015625 mmol となり、上の計算と一致する。
終点は、(COOH)X2 がなくなった後に加えた最初の過剰な MnOX4X− が紅色を呈する点である。問題文では 2.50 mL を加えたところで紅色になったので、2.50 mL を終点の滴下量として使う。
結果の確かめとして、グルコースの量に直す。グルコース1分子が24個の電子を出すので、0.0625/24=2.604×10−3 mmol が 0.100 L に含まれる。濃度は 26.0 μmolL−1(M=180.16 とすると 4.69 mgL−1)である。グルコース 1 mg の酸化に必要な OX2 は、CX6HX12OX6+6OX26COX2+6HX2O より 6×32.00/180.16=1.066 mg なので、4.69×1.066=5.00 mgL−1 となって COD の値と一致する。有効数字は、与えられた数値がいずれも3桁なので 5.00 と書く。
誤答では、試料を 100 mL のまま OX2 の質量 0.500 mg を COD とし、1 L への換算 ×10 を忘れて 0.500 mgL−1 とするもの、MnOX4X− 1個を OX2 1分子に対応させて 4.00 mgL−1 とするもの、OX2 のかわりに O の原子量 16.00 を使って 2.50 mgL−1 とするものがある。OX2 の質量を使うこと、電子数が MnOX4X− で5、OX2 で4であることを、換算の前に書いておく。
解答
設問(a-1) MnOX4X− によるグルコースの完全酸化
酸性水溶液なので、半反応式は HX+、HX2O、電子で釣り合わせる。グルコースは炭素がすべて COX2 になる。
CX6HX12OX6+6HX2OMnOX4X−+8HX++5eX−6COX2+24HX++24eX−MnX2++4HX2O
電子の数 24 と 5 の最小公倍数 120 にそろえるため、上の式を5倍、下の式を24倍して足す。
5CX6HX12OX6+30HX2O+24MnOX4X−+192HX+30COX2+120HX++24MnX2++96HX2O
両辺の HX+ と HX2O を整理すると、HX+ は 192−120=72、HX2O は 96−30=66 になる。
5CX6HX12OX6+24MnOX4X−+72HX+30COX2+24MnX2++66HX2O
原子数は C が30、H が132、O が126で左右一致し、電荷も左辺が −24+72=+48、右辺が 24×2=+48 で一致する。
設問(a-2) MnOX4X−/MnX2+ の標準電極電位
還元の半反応は MnOX4X−+8HX++5eX−MnX2++4HX2O で、n=5 である。標準水素電極の基準に従って ΔfG∘(HX+)=0、電子の標準生成 Gibbs エネルギーも 0 とする。
ΔrG∘=ΔfG∘(MnX2+)+4ΔfG∘(HX2O)−ΔfG∘(MnOX4X−)=−228.0+4×(−237.1)−(−447.3) kJmol−1=−729.1 kJmol−1
電気的な仕事と Gibbs エネルギーの関係 ΔrG∘=−nFE∘ より
E∘=−nFΔrG∘=5×96485 Cmol−1729.1×103 Jmol−1=1.51 V.
設問(a-3) pH 7 での電極電位と硫酸を加える理由
Nernst の式は
E=E∘−5FRTlna(MnOX4X−)a(HX+)8a(MnX2+)
である。濃度が与えられていないので c(MnOX4X−)=c(MnX2+)=1 molL−1(活量 1)とすると、a(HX+)=10−pH だけが残り
E=E∘−58⋅FRTln10pH.
T=298 K では RTln10/F=8.31×298×2.303/96485=0.0591 V なので、pH が 1 増えるごとに 0.0946 V 下がる。pH 7 では
E=1.511−0.0946×7=0.849 V≈0.85 V.
硫酸を加える理由:MnOX4X− の還元には HX+ が8個必要で、電位は pH が上がるほど大きく下がる。中性(pH 7)では電位が 0.85 V と、酸性(pH 0)の 1.51 V より 0.66 V 低く、酸化力が弱い。硫酸で酸性にすると電位が 1.5 V 近くまで上がり、MnOX4X− が MnX2+ まで完全に還元される強い酸化剤として働く。
自作図:MnOX4X−/MnX2+ の電位と pH の関係(298 K、MnOX4X− と MnX2+ の濃度は 1 molL−1)。傾きは −0.0946 V ごとの pH。
設問(b-1) MnOX4X− による (COOH)X2 の完全酸化
シュウ酸の酸化は、炭素の酸化数が +3 から +4 になるので1分子あたり2個の電子を出す。
(COOH)X2MnOX4X−+8HX++5eX−2COX2+2HX++2eX−MnX2++4HX2O
電子の数を 10 にそろえ、上の式を5倍、下の式を2倍して足す。
5(COOH)X2+2MnOX4X−+16HX+10COX2+10HX++2MnX2++8HX2O
HX+ を整理して
2MnOX4X−+5(COOH)X2+6HX+2MnX2++10COX2+8HX2O.
原子数は Mn が2、C が10、H が16、O が28で、電荷は左辺 −2+6=+4、右辺 +4 で一致する。
設問(b-2) COD の計算
各段階の MnOX4X− と (COOH)X2 の物質量を求める。
最初に加えた MnOX4X−:5.00 mmolL−1×10.0×10−3 L=5.00×10−2 mmol。
加えた (COOH)X2:12.5 mmolL−1×10.0×10−3 L=0.125 mmol。
滴定で加えた MnOX4X−(終点まで):5.00×2.50×10−3=1.25×10−2 mmol。(b-1)より (COOH)X2:MnOX4X−=5:2 なので、滴定で消費された未反応の (COOH)X2 は 25×1.25×10−2=3.125×10−2 mmol。
残留した MnOX4X− を還元した (COOH)X2:0.125−0.03125=0.09375 mmol。これと反応した MnOX4X− は 52×0.09375=3.75×10−2 mmol で、グルコースの酸化に使われずに残った分である。
グルコースの酸化に消費された MnOX4X−:5.00×10−2−3.75×10−2=1.25×10−2 mmol。
COD は、同じ量の電子を受け取る OX2 の質量で表す。OX2+4HX++4eX−2HX2O より、MnOX4X− 1 mol(5 mol の電子)は OX2 5/4 mol に相当する。
n(OX2)m=1.25×10−2 mmol×45=1.5625×10−2 mmol,=1.5625×10−2 mmol×32.00 mgmmol−1=0.500 mg.
試料は 1.00×102 mL=0.100 L であり、COD は試料 1 L あたりの質量なので
COD=0.100 L0.500 mg=5.00 mgL−1.
最終答
設問(a-1) MnOX4X− によるグルコースの完全酸化
5CX6HX12OX6+24MnOX4X−+72HX+30COX2+24MnX2++66HX2O(グルコース 1 mol に対して MnOX4X− は 24/5=4.8 mol)
設問(a-2) MnOX4X−/MnX2+ の標準電極電位
E∘=1.51 V(標準水素電極基準)
設問(a-3) pH 7 での電極電位と硫酸を加える理由
pH 7 で E=0.85 V。pH が上がると電位が下がるので、硫酸で酸性にして酸化力を高め、MnOX4X− を MnX2+ まで還元させる。
設問(b-1) MnOX4X− による (COOH)X2 の完全酸化
2MnOX4X−+5(COOH)X2+6HX+2MnX2++10COX2+8HX2O
設問(b-2) COD の計算
COD=5.00 mgL−1