院試hub

阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学II 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は化学3項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性

高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応

有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスター

無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスターの途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 物理化学:アセチレンの基準振動と、振動回転スペクトルの強度交替

物理化学:アセチレンの基準振動と、振動回転スペクトルの強度交替の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 物理化学:弱酸 HA の水溶液の平衡、標準 Gibbs エネルギーの温度依存性、緩衝液中の金属電極の酸化溶解

設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー

化学反応の Gibbs エネルギー変化は ΔG=ΔG∘+RTln⁡Q\Delta G=\Delta G^\circ+RT\ln Q(QQ は反応商)で、平衡では ΔG=0\Delta G=0 かつ Q=KQ=K なので、ΔG∘=−RTln⁡K\Delta G^\circ=-RT\ln K が成り立つ。この KK は活量で書いた無次元の平衡定数で、標準状態(各溶質が 1 mol L−11\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、水が純液体)を基準にする。問題文が「水の活量は 1」「活量は ci/c∘c_i/c^\circ」と指定しているのは、K1K_1 と K2K_2 をこの形で書くための合図である。

式(1)の K1K_1 が KwK_\mathrm{w} の逆数になるのは、式(1)が水の電離の逆反応だからである。ΔG1∘\Delta G^\circ_1 が大きな負の値になることは、中和反応が標準状態から強く自発的に進むことを表す。式(2)の ΔG2∘\Delta G^\circ_2 が正なのは、標準状態([HA]=[H+]=[A−]=1 mol L−1[\mathrm{HA}]=[\mathrm{H^+}]=[\mathrm{A^-}]=1\ \mathrm{mol\,L^{-1}})から電離する向きが自発的でないことを表し、弱酸であることと整合する。数値の確かめには、ln⁡10=2.303\ln10=2.303 を使う換算が便利である。2.303 RT=5.70 kJ mol−12.303\,RT=5.70\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} なので、ΔG1∘=−14×5.70=−79.8 kJ mol−1\Delta G^\circ_1=-14\times5.70=-79.8\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}(pKw=14.00\mathrm{p}K_\mathrm{w}=14.00)、ΔG2∘=4.50×5.70=25.7 kJ mol−1\Delta G^\circ_2=4.50\times5.70=25.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} で、上の計算と一致する。

符号と対数の扱いで、3つの誤りが出る。(1) 符号を取り違えて ΔG∘=+RTln⁡K\Delta G^\circ=+RT\ln K とし、ΔG1∘=+79.8 kJ mol−1\Delta G^\circ_1=+79.8\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} と答える。水ができる方向は自発的なので、負でなければならない。(2) 自然対数と常用対数を混同して ΔG2∘=RT pKa=11.1 kJ mol−1\Delta G^\circ_2=RT\,\mathrm{p}K_\mathrm{a}=11.1\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} とし、2.3032.303 を落とす。(3) K1=KwK_1=K_\mathrm{w} とし、式(1)の向きを水の電離と取り違える。この場合も符号が逆になる。

設問(b) 0.100 mol L−1^{-1} の HA 水溶液の pH

弱酸の水溶液の pH は、平衡定数の式に、物質収支と電荷収支を加えた3つの関係から決まる。未知数は [H+][\mathrm{H^+}]、[A−][\mathrm{A^-}]、[HA][\mathrm{HA}]、[OH−][\mathrm{OH^-}] の4つで、式は KaK_\mathrm{a}、KwK_\mathrm{w}、物質収支、電荷収支の4つなので、解が定まる。導出の根拠を示すよう指定されているので、どの収支をどの近似で使うかを書く。

近似の確かめは3つある。第1に、[OH−]=Kw/x=5.7×10−12 mol L−1[\mathrm{OH^-}]=K_\mathrm{w}/x=5.7\times10^{-12}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} で、[A−]=1.76×10−3 mol L−1[\mathrm{A^-}]=1.76\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} に比べて無視できる。KwK_\mathrm{w} を残して数値で解いた pH は 2.75392.7539 で、無視した場合と、小数第3位まで変わらない。第2に、電離度は x/c=1.76%x/c=1.76\% で、c−x≈cc-x\approx c の誤差は約 1.8\% である。この大きさなら、近似の x=1.78×10−3x=1.78\times10^{-3} と厳密な x=1.76×10−3x=1.76\times10^{-3} は 1\% の差で、pH にすると 2.75002.7500 と 2.75392.7539、有効数字3桁で 2.75 と同じである。第3に、Kac/Kw=3×108K_\mathrm{a}c/K_\mathrm{w}=3\times10^{8} と大きく、水の電離の寄与が無視できる条件を満たす。

pH の求め方での誤答は、(1) 強酸と同じ pH=−log⁡c=1.00\mathrm{pH}=-\log c=1.00 とする。電離度が 1.8\% の弱酸なので、水素イオンの濃度は cc の 100 分の 1 程度である。(2) pH=pKa=4.50\mathrm{pH}=\mathrm{p}K_\mathrm{a}=4.50 とする。この式が使えるのは、HA と A−\mathrm{A^-} の濃度が等しい緩衝液(設問(e))の場合で、HA だけの水溶液には使えない。(3) Ka=x2/cK_\mathrm{a}=x^{2}/c の近似を使いながら、そのあとで [A−]≠x[\mathrm{A^-}]\ne x とするなど、電荷収支の根拠を示さない。答案では、電荷収支から [A−]=[H+][\mathrm{A^-}]=[\mathrm{H^+}] とする理由を、1行で書く。

設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー

定温定圧の標準状態では G=H−TSG=H-TS なので、反応の前後の差をとって ΔG∘=ΔH∘−TΔS∘\Delta G^\circ=\Delta H^\circ-T\Delta S^\circ が成り立つ。この式を ΔH∘\Delta H^\circ について解くと、ΔH∘=ΔG∘+TΔS∘\Delta H^\circ=\Delta G^\circ+T\Delta S^\circ になる。問題文が、(a)の結果と ΔS∘\Delta S^\circ の値を連続して与えている点が、この式を使う合図である。

結果の意味は、HA の電離が、エンタルピーとしては大きく有利(発熱、−63.7 kJ mol−1-63.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}})で、エントロピーが大きく不利(TΔS∘=−89.4 kJ mol−1T\Delta S^\circ=-89.4\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}})なことである。電離で生じたイオンは、まわりの水分子を強く配向させ、水分子の乱れが減る(電縮)。この項が ΔG∘\Delta G^\circ を正の側へ押し上げ、ΔG2∘=+25.7 kJ mol−1\Delta G^\circ_2=+25.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} になる。数値の確かめは、−63.7−(298)(−0.300)=+25.7 kJ mol−1-63.7-(298)(-0.300)=+25.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} と、(a) の値に戻ることである。有効数字は、ΔS∘\Delta S^\circ が 3 桁なので、答えも 3 桁(−6.37×104 J mol−1-6.37\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}})で書く。

典型的な誤答は、符号の取り違えで得る ΔH∘=ΔG∘−TΔS∘=2.57×104+8.94×104=+1.15×105 J mol−1\Delta H^\circ=\Delta G^\circ-T\Delta S^\circ=2.57\times10^{4}+8.94\times10^{4}=+1.15\times10^{5}\ \mathrm{J\,mol^{-1}} とする答えである。ΔS∘\Delta S^\circ が負なので、TΔS∘T\Delta S^\circ は負の値として足さなければならない。この誤りでは電離が吸熱になり、(d) で温度を上げると pH が下がる、という逆の結論になる。

設問(d) 313 K での pH

平衡定数の温度依存性は、van't Hoff の式 dln⁡KdT=ΔH∘RT2\dfrac{\mathrm d\ln K}{\mathrm dT}=\dfrac{\Delta H^\circ}{RT^{2}} で与えられる。ΔH∘\Delta H^\circ が温度によらないとして積分すると ln⁡Ka(T2)Ka(T1)=−ΔH∘R(1T2−1T1) \ln\frac{K_\mathrm{a}(T_2)}{K_\mathrm{a}(T_1)}=-\frac{\Delta H^\circ}{R}\Bigl(\frac1{T_2}-\frac1{T_1}\Bigr) になる。数値を入れると、−ΔH∘/R=7.67×103 K-\Delta H^\circ/R=7.67\times10^{3}\ \mathrm K、1/313−1/298=−1.608×10−4 K−11/313-1/298=-1.608\times10^{-4}\ \mathrm K^{-1} から、右辺は −1.234-1.234、比は Ka(313)/Ka(298)=0.291K_\mathrm{a}(313)/K_\mathrm{a}(298)=0.291 になる。この値は、上の ΔG∘(T)=ΔH∘−TΔS∘\Delta G^\circ(T)=\Delta H^\circ-T\Delta S^\circ を使う経路と一致する(どちらも Ka(313)=9.21×10−6K_\mathrm{a}(313)=9.21\times10^{-6})。ΔS∘\Delta S^\circ も一定とする仮定が、2つの経路を同じ結果にする。問題文が指定した「ΔH∘\Delta H^\circ と KwK_\mathrm{w} が 298 K から 313 K で変わらない」は、この積分形を使う合図で、KwK_\mathrm{w} を一定とするのは、水の電離の影響を温度で変えないための指定である。

結果の意味は、発熱反応(ΔH∘<0\Delta H^\circ<0)の電離が、温度を上げると Le Chatelier の原理に従って逆向き(会合)に偏り、KaK_\mathrm{a} が約 0.29 倍になることである。電離度は 1.76\% から 0.955\% へ下がり、水素イオン濃度が減って、pH が 2.75 から 3.02 に上がる。この数値を、近似式 pH=12(pKa+1.00)=3.02\mathrm{pH}=\tfrac12(\mathrm{p}K_\mathrm{a}+1.00)=3.02 でも確かめられる。

313 K の値がずれる原因は3つある。(1) ΔH∘\Delta H^\circ の符号を逆にして、KaK_\mathrm{a} が増える向きに計算する。Ka=1.09×10−4K_\mathrm{a}=1.09\times10^{-4} となり、pH=2.49\mathrm{pH}=2.49 と、298 K より下がる。(2) 298 K の ΔG2∘=+25.7 kJ mol−1\Delta G^\circ_2=+25.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} を 313 K でもそのまま使う。Ka=5.20×10−5K_\mathrm{a}=5.20\times10^{-5}、pH=2.65\mathrm{pH}=2.65 となり、温度による −TΔS∘-T\Delta S^\circ の変化(313ΔS∘313\Delta S^\circ と 298ΔS∘298\Delta S^\circ の差、4.5 kJ mol−14.5\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}})を落としている。(3) 温度を上げても KaK_\mathrm{a} は変わらないとして、pH を 2.75 のままにする。KaK_\mathrm{a} が温度で変わることが、この設問の趣旨である。

設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの M2+\mathrm{M^{2+}} と M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} の物質量

電気化学の定量関係は、ファラデーの法則で、通じた電気量 QQ と電子の物質量 Q/FQ/F が対応する。M の 1 原子が M2+\mathrm{M^{2+}} になるとき 2 個の電子を出すので、M の物質量は Q/(2F)Q/(2F) になる。問題文の「総電荷量 3.86×104 C3.86\times10^{4}\ \mathrm C」と「M2+\mathrm{M^{2+}} と M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} のみ」が、この物質量の和を使う合図である。

溶解平衡の考え方では、固体の M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} が存在するなら、溶液は M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} に対して飽和で、イオン積が KspK_\mathrm{sp} に等しい。[OH−][\mathrm{OH^-}] が緩衝液の pH で固定されているので、飽和の [M2+][\mathrm{M^{2+}}] が1つに決まり、それを超えた分の M が沈殿する。逆に、M2+\mathrm{M^{2+}} が全部溶けているとすると、[M2+][OH−]2=0.200×1.00×10−19=2.0×10−20[\mathrm{M^{2+}}][\mathrm{OH^-}]^{2}=0.200\times1.00\times10^{-19}=2.0\times10^{-20} が KspK_\mathrm{sp} の 92 倍になって矛盾する。沈殿が生じるのは、このためである。

HA と A−\mathrm{A^-} が 1 : 1 の緩衝液では、Henderson--Hasselbalch の式 pH=pKa+log⁡([A−]/[HA])\mathrm{pH}=\mathrm{p}K_\mathrm a+\log([\mathrm{A^-}]/[\mathrm{HA}]) の対数の項が 0 になり、pH=pKa=4.50\mathrm{pH}=\mathrm{p}K_\mathrm a=4.50 になる。HA の電離で動く量は [H+]=3.2×10−5 mol L−1[\mathrm{H^+}]=3.2\times10^{-5}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} で、5.00×10−2 mol L−15.00\times10^{-2}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} の 0.06\% にすぎず、[HA]=[A−][\mathrm{HA}]=[\mathrm{A^-}] とみなせる。この小さな補正(電荷収支でナトリウムイオンまで含めて厳密に解いた [H+]=3.158×10−5 mol L−1[\mathrm{H^+}]=3.158\times10^{-5}\ \mathrm{mol\,L^{-1}})まで入れると、[M2+]=2.16×10−3 mol L−1[\mathrm{M^{2+}}]=2.16\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} と、3桁目だけが変わる。n(M(OH)2)=0.198 moln(\mathrm{M(OH)_2})=0.198\ \mathrm{mol} は変わらない。

溶液の pH 変化を無視してよいという問題文の指定は、数値のうえで重要な前提である。M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} が 0.198 mol できるときに出る水素イオンは、M2++2H2O→M(OH)2+2H+\mathrm{M^{2+}+2H_2O\to M(OH)_2+2H^+} から 2×0.198=0.396 mol2\times0.198=0.396\ \mathrm{mol} で、緩衝液の塩基 A−\mathrm{A^-}(0.0500 mol)を超える。この緩衝能では pH が保てないので、実際の量関係を厳密に追うと別の値になる。問題の指定に従い、[OH−][\mathrm{OH^-}] を一定として解く。

(e) の数値が外れる原因は4つある。(1) ファラデー定数で割るだけで、2 を忘れる。nM=Q/F=0.400 moln_\mathrm{M}=Q/F=0.400\ \mathrm{mol} と、2 倍の値が出る。(2) 緩衝液の [OH−][\mathrm{OH^-}] に、中性の 1×10−7 mol L−11\times10^{-7}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} を使う。[M2+]=2.17×10−8 mol L−1[\mathrm{M^{2+}}]=2.17\times10^{-8}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} となり、すべてが M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} になるという誤った結論になる。(3) 溶けている M2+\mathrm{M^{2+}} を 0.200 mol とする(上で示したとおり、KspK_\mathrm{sp} に合わない)。(4) Ksp=[M2+][OH−]K_\mathrm{sp}=[\mathrm{M^{2+}}][\mathrm{OH^-}] と、水酸化物イオンの2乗を落とす。M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} の化学量論から、[OH−][\mathrm{OH^-}] は2乗で入る。

解答

設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー

標準反応 Gibbs エネルギーは、平衡定数 KK から ΔG∘=−RTln⁡K\Delta G^\circ=-RT\ln K で求める。

式(1) H++OH−⇌H2O\mathrm{H^++OH^-\rightleftharpoons H_2O} の平衡定数は、水の活量を 1 として K1=aH2OaH+ aOH−=1Kw=1.00×1014 K_1=\frac{a_{\mathrm{H_2O}}}{a_{\mathrm{H^+}}\,a_{\mathrm{OH^-}}}=\frac{1}{K_\mathrm{w}}=1.00\times10^{14} である。したがって ΔG1∘=−RTln⁡K1=RTln⁡Kw=8.31×298×ln⁡(1.00×10−14)=−7.98×104 J mol−1. \Delta G^\circ_1=-RT\ln K_1=RT\ln K_\mathrm{w}=8.31\times298\times\ln(1.00\times10^{-14})=-7.98\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}}. 式(2) HA⇌H++A−\mathrm{HA\rightleftharpoons H^++A^-} の平衡定数は Ka=10−4.50=3.16×10−5K_\mathrm{a}=10^{-4.50}=3.16\times10^{-5} で ΔG2∘=−RTln⁡Ka=2.303 RT pKa=2.303×8.31×298×4.50=2.57×104 J mol−1. \Delta G^\circ_2=-RT\ln K_\mathrm{a}=2.303\,RT\,\mathrm{p}K_\mathrm{a}=2.303\times8.31\times298\times4.50=2.57\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}}.

設問(b) 0.100 mol L−1^{-1} の HA 水溶液の pH

濃度 c=0.100 mol L−1c=0.100\ \mathrm{mol\,L^{-1}} の HA の水溶液で、x=[H+]x=[\mathrm{H^+}] とおく。

  • 平衡定数:Ka=[H+][A−][HA]K_\mathrm{a}=\dfrac{[\mathrm{H^+}][\mathrm{A^-}]}{[\mathrm{HA}]}。

  • 物質収支:[HA]+[A−]=c[\mathrm{HA}]+[\mathrm{A^-}]=c。

  • 電荷収支:[H+]=[A−]+[OH−][\mathrm{H^+}]=[\mathrm{A^-}]+[\mathrm{OH^-}]。

水の電離から生じる [OH−]=Kw/x[\mathrm{OH^-}]=K_\mathrm{w}/x は、酸性溶液では非常に小さい(後で確かめる)ので、[A−]=x[\mathrm{A^-}]=x、[HA]=c−x[\mathrm{HA}]=c-x と置ける。 Ka=x2c−x⟹x2+Kax−Kac=0. K_\mathrm{a}=\frac{x^{2}}{c-x}\quad\Longrightarrow\quad x^{2}+K_\mathrm{a}x-K_\mathrm{a}c=0. 解の公式から x=−Ka+Ka2+4Kac2=1.76×10−3 mol L−1x=\dfrac{-K_\mathrm{a}+\sqrt{K_\mathrm{a}^{2}+4K_\mathrm{a}c}}{2}=1.76\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、したがって pH=−log⁡x=2.75\mathrm{pH}=-\log x=2.75 になる。電離がわずかで x≪cx\ll c のとき、c−x≈cc-x\approx c と近似して x=Kac=1.78×10−3 mol L−1x=\sqrt{K_\mathrm{a}c}=1.78\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}、pH=12(pKa−log⁡c)=12(4.50+1.00)=2.75\mathrm{pH}=\tfrac12(\mathrm{p}K_\mathrm{a}-\log c)=\tfrac12(4.50+1.00)=2.75 でも同じ値になる。

設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー

標準反応 Gibbs エネルギー、エンタルピー、エントロピーは、ΔG∘=ΔH∘−TΔS∘\Delta G^\circ=\Delta H^\circ-T\Delta S^\circ で結ばれる。(a)の ΔG2∘=2.57×104 J mol−1\Delta G^\circ_2=2.57\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}} と、与えられた ΔS∘=−3.00×102 J K−1 mol−1\Delta S^\circ=-3.00\times10^{2}\ \mathrm{J\,K^{-1}\,mol^{-1}} から ΔH∘=ΔG∘+TΔS∘=2.57×104−298×3.00×102=−6.37×104 J mol−1. \Delta H^\circ=\Delta G^\circ+T\Delta S^\circ=2.57\times10^{4}-298\times3.00\times10^{2}=-6.37\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}}.

設問(d) 313 K での pH

溶液の体積と ΔH∘\Delta H^\circ(さらに、(c)で使った ΔS∘\Delta S^\circ)が 298 K から 313 K で変わらないとして、313 K の標準反応 Gibbs エネルギーを求める。 ΔG2∘(313 K)=ΔH∘−TΔS∘=−6.37×104−313×(−3.00×102)=+3.02×104 J mol−1. \Delta G^\circ_2(313\ \mathrm K)=\Delta H^\circ-T\Delta S^\circ=-6.37\times10^{4}-313\times(-3.00\times10^{2})=+3.02\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}}. Ka(313 K)=exp⁡ ⁣(−ΔG2∘RT)=exp⁡ ⁣(−3.016×1048.31×313)=9.21×10−6,pKa=5.04. K_\mathrm{a}(313\ \mathrm K)=\exp\!\Bigl(-\frac{\Delta G^\circ_2}{RT}\Bigr)=\exp\!\Bigl(-\frac{3.016\times10^{4}}{8.31\times313}\Bigr)=9.21\times10^{-6},\qquad \mathrm{p}K_\mathrm{a}=5.04. (b)と同じ式 x2+Kax−Kac=0x^{2}+K_\mathrm{a}x-K_\mathrm{a}c=0 を解くと、x=[H+]=9.55×10−4 mol L−1x=[\mathrm{H^+}]=9.55\times10^{-4}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} になる。

設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの M2+\mathrm{M^{2+}} と M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} の物質量

次の4段階で求める。

  1. 酸化溶解した M の総物質量。M の酸化は M→M2++2e−\mathrm M\to\mathrm{M^{2+}}+2\mathrm e^- で、電子は M 1 mol あたり 2 mol である。 nM=Q2F=3.86×104 C2×9.65×104 C mol−1=0.200 mol. n_\mathrm{M}=\frac{Q}{2F}=\frac{3.86\times10^{4}\ \mathrm C}{2\times9.65\times10^{4}\ \mathrm{C\,mol^{-1}}}=0.200\ \mathrm{mol}.

  2. 緩衝液の pH。HA と A−\mathrm{A^-} が 5.00×10−2 mol5.00\times10^{-2}\ \mathrm{mol} ずつ、体積 1.00 L なので [HA]=[A−]=5.00×10−2 mol L−1[\mathrm{HA}]=[\mathrm{A^-}]=5.00\times10^{-2}\ \mathrm{mol\,L^{-1}} である。Ka=[H+][A−]/[HA]K_\mathrm a=[\mathrm{H^+}][\mathrm{A^-}]/[\mathrm{HA}] から [H+]=Ka=3.16×10−5 mol L−1[\mathrm{H^+}]=K_\mathrm a=3.16\times10^{-5}\ \mathrm{mol\,L^{-1}}(pH=4.50\mathrm{pH}=4.50)になる。水のイオン積から [OH−]=Kw[H+]=3.16×10−10 mol L−1,[OH−]2=1.00×10−19. [\mathrm{OH^-}]=\frac{K_\mathrm w}{[\mathrm{H^+}]}=3.16\times10^{-10}\ \mathrm{mol\,L^{-1}},\qquad [\mathrm{OH^-}]^{2}=1.00\times10^{-19}.

  3. 溶液中に残る M2+\mathrm{M^{2+}} の上限。M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} が沈殿している間、溶解度積 Ksp=[M2+][OH−]2=2.17×10−22K_\mathrm{sp}=[\mathrm{M^{2+}}][\mathrm{OH^-}]^{2}=2.17\times10^{-22} が成り立つので [M2+]=Ksp[OH−]2=2.17×10−221.00×10−19=2.17×10−3 mol L−1,n(M2+)=2.17×10−3 mol. [\mathrm{M^{2+}}]=\frac{K_\mathrm{sp}}{[\mathrm{OH^-}]^{2}}=\frac{2.17\times10^{-22}}{1.00\times10^{-19}}=2.17\times10^{-3}\ \mathrm{mol\,L^{-1}},\qquad n(\mathrm{M^{2+}})=2.17\times10^{-3}\ \mathrm{mol}.

  4. 残りが M(OH)2\mathrm{M(OH)_2}。生成物が M2+\mathrm{M^{2+}} と M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} だけなので、 n(M(OH)2)=nM−n(M2+)=0.200−0.00217=0.198 mol. n(\mathrm{M(OH)_2})=n_\mathrm{M}-n(\mathrm{M^{2+}})=0.200-0.00217=0.198\ \mathrm{mol}.

最終答

設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー

ΔG1∘=−79.8 kJ mol−1\Delta G^\circ_1=-79.8\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}、 ΔG2∘=+25.7 kJ mol−1\ \Delta G^\circ_2=+25.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}。

設問(b) 0.100 mol L−1^{-1} の HA 水溶液の pH

pH=2.75\mathrm{pH}=2.75。

設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー

ΔH∘=−6.37×104 J mol−1=−63.7 kJ mol−1\Delta H^\circ=-6.37\times10^{4}\ \mathrm{J\,mol^{-1}}=-63.7\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}}。

設問(d) 313 K での pH

pH=3.02\mathrm{pH}=3.02(298 K の 2.75 から 0.27 上がる)。

設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの M2+\mathrm{M^{2+}} と M(OH)2\mathrm{M(OH)_2} の物質量

n(M2+)=2.17×10−3 moln(\mathrm{M^{2+}})=2.17\times10^{-3}\ \mathrm{mol}、 n(M(OH)2)=0.198 mol\ n(\mathrm{M(OH)_2})=0.198\ \mathrm{mol}(M の総量は 0.200 mol0.200\ \mathrm{mol})。

化学IIの解答・解説PDF

2023〜2026年度(4年度) · ¥2,580

解答PDFの商品ページへ

年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(解説5項目)

    電気化学と滴定:過マンガン酸カリウムによる COD 測定 / 分子軌道と分光:酸素分子のπ*電子配置と電子状態 / 錯体化学:イリジウム錯体の立体異性とメタロセンの電子構造

  • 2025年度(解説5項目)

    錯体化学:Mo錯体の合成・ROMPとNi(II)アンミン錯体 / 有機合成:(±)-Norcaesalpinin MC の合成経路 / 有機化学:アズレンの合成と、ヨウ素・メチルリチウムとの反応

  • 2024年度(このページ・解説5項目)

    高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性 / 有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応 / 無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスター

  • 2023年度(解説5項目)

    有機化学:硫黄・窒素を含む化合物の反応と機構 / 有機合成:Dynemicin A の合成中間体 10 への経路 / 無機・錯体化学:チタン・ルテニウム・マンガン錯体

2024年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は化学3問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性—あり
第2問化学ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応—あり
第3問化学コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスター—あり
第4問—物理化学:アセチレンの基準振動と、振動回転スペクトルの強度交替—あり
第5問化学弱酸 HA の水溶液の平衡、標準 Gibbs エネルギーの温度依存性、緩衝液中の金属電極の酸化溶解—あり

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 5問 → 2024年度 5問
2023年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF