阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学II 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)
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第1問 — 高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性
高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性の途中式・最終答をPDFで見る第2問 — 有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応
有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応の途中式・最終答をPDFで見る第3問 — 無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスター
無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスターの途中式・最終答をPDFで見る第4問 — 物理化学:アセチレンの基準振動と、振動回転スペクトルの強度交替
物理化学:アセチレンの基準振動と、振動回転スペクトルの強度交替の途中式・最終答をPDFで見る第5問 — 物理化学:弱酸 HA の水溶液の平衡、標準 Gibbs エネルギーの温度依存性、緩衝液中の金属電極の酸化溶解
設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー
化学反応の Gibbs エネルギー変化は ( は反応商)で、平衡では かつ なので、 が成り立つ。この は活量で書いた無次元の平衡定数で、標準状態(各溶質が 、水が純液体)を基準にする。問題文が「水の活量は 1」「活量は 」と指定しているのは、 と をこの形で書くための合図である。
式(1)の が の逆数になるのは、式(1)が水の電離の逆反応だからである。 が大きな負の値になることは、中和反応が標準状態から強く自発的に進むことを表す。式(2)の が正なのは、標準状態()から電離する向きが自発的でないことを表し、弱酸であることと整合する。数値の確かめには、 を使う換算が便利である。 なので、()、 で、上の計算と一致する。
符号と対数の扱いで、3つの誤りが出る。(1) 符号を取り違えて とし、 と答える。水ができる方向は自発的なので、負でなければならない。(2) 自然対数と常用対数を混同して とし、 を落とす。(3) とし、式(1)の向きを水の電離と取り違える。この場合も符号が逆になる。
設問(b) 0.100 mol L の HA 水溶液の pH
弱酸の水溶液の pH は、平衡定数の式に、物質収支と電荷収支を加えた3つの関係から決まる。未知数は 、、、 の4つで、式は 、、物質収支、電荷収支の4つなので、解が定まる。導出の根拠を示すよう指定されているので、どの収支をどの近似で使うかを書く。
近似の確かめは3つある。第1に、 で、 に比べて無視できる。 を残して数値で解いた pH は で、無視した場合と、小数第3位まで変わらない。第2に、電離度は で、 の誤差は約 1.8\% である。この大きさなら、近似の と厳密な は 1\% の差で、pH にすると と 、有効数字3桁で 2.75 と同じである。第3に、 と大きく、水の電離の寄与が無視できる条件を満たす。
pH の求め方での誤答は、(1) 強酸と同じ とする。電離度が 1.8\% の弱酸なので、水素イオンの濃度は の 100 分の 1 程度である。(2) とする。この式が使えるのは、HA と の濃度が等しい緩衝液(設問(e))の場合で、HA だけの水溶液には使えない。(3) の近似を使いながら、そのあとで とするなど、電荷収支の根拠を示さない。答案では、電荷収支から とする理由を、1行で書く。
設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー
定温定圧の標準状態では なので、反応の前後の差をとって が成り立つ。この式を について解くと、 になる。問題文が、(a)の結果と の値を連続して与えている点が、この式を使う合図である。
結果の意味は、HA の電離が、エンタルピーとしては大きく有利(発熱、)で、エントロピーが大きく不利()なことである。電離で生じたイオンは、まわりの水分子を強く配向させ、水分子の乱れが減る(電縮)。この項が を正の側へ押し上げ、 になる。数値の確かめは、 と、(a) の値に戻ることである。有効数字は、 が 3 桁なので、答えも 3 桁()で書く。
典型的な誤答は、符号の取り違えで得る とする答えである。 が負なので、 は負の値として足さなければならない。この誤りでは電離が吸熱になり、(d) で温度を上げると pH が下がる、という逆の結論になる。
設問(d) 313 K での pH
平衡定数の温度依存性は、van't Hoff の式 で与えられる。 が温度によらないとして積分すると になる。数値を入れると、、 から、右辺は 、比は になる。この値は、上の を使う経路と一致する(どちらも )。 も一定とする仮定が、2つの経路を同じ結果にする。問題文が指定した「 と が 298 K から 313 K で変わらない」は、この積分形を使う合図で、 を一定とするのは、水の電離の影響を温度で変えないための指定である。
結果の意味は、発熱反応()の電離が、温度を上げると Le Chatelier の原理に従って逆向き(会合)に偏り、 が約 0.29 倍になることである。電離度は 1.76\% から 0.955\% へ下がり、水素イオン濃度が減って、pH が 2.75 から 3.02 に上がる。この数値を、近似式 でも確かめられる。
313 K の値がずれる原因は3つある。(1) の符号を逆にして、 が増える向きに計算する。 となり、 と、298 K より下がる。(2) 298 K の を 313 K でもそのまま使う。、 となり、温度による の変化( と の差、)を落としている。(3) 温度を上げても は変わらないとして、pH を 2.75 のままにする。 が温度で変わることが、この設問の趣旨である。
設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの と の物質量
電気化学の定量関係は、ファラデーの法則で、通じた電気量 と電子の物質量 が対応する。M の 1 原子が になるとき 2 個の電子を出すので、M の物質量は になる。問題文の「総電荷量 」と「 と のみ」が、この物質量の和を使う合図である。
溶解平衡の考え方では、固体の が存在するなら、溶液は に対して飽和で、イオン積が に等しい。 が緩衝液の pH で固定されているので、飽和の が1つに決まり、それを超えた分の M が沈殿する。逆に、 が全部溶けているとすると、 が の 92 倍になって矛盾する。沈殿が生じるのは、このためである。
HA と が 1 : 1 の緩衝液では、Henderson--Hasselbalch の式 の対数の項が 0 になり、 になる。HA の電離で動く量は で、 の 0.06\% にすぎず、 とみなせる。この小さな補正(電荷収支でナトリウムイオンまで含めて厳密に解いた )まで入れると、 と、3桁目だけが変わる。 は変わらない。
溶液の pH 変化を無視してよいという問題文の指定は、数値のうえで重要な前提である。 が 0.198 mol できるときに出る水素イオンは、 から で、緩衝液の塩基 (0.0500 mol)を超える。この緩衝能では pH が保てないので、実際の量関係を厳密に追うと別の値になる。問題の指定に従い、 を一定として解く。
(e) の数値が外れる原因は4つある。(1) ファラデー定数で割るだけで、2 を忘れる。 と、2 倍の値が出る。(2) 緩衝液の に、中性の を使う。 となり、すべてが になるという誤った結論になる。(3) 溶けている を 0.200 mol とする(上で示したとおり、 に合わない)。(4) と、水酸化物イオンの2乗を落とす。 の化学量論から、 は2乗で入る。
解答
設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー
標準反応 Gibbs エネルギーは、平衡定数 から で求める。
式(1) の平衡定数は、水の活量を 1 として である。したがって 式(2) の平衡定数は で
設問(b) 0.100 mol L の HA 水溶液の pH
濃度 の HA の水溶液で、 とおく。
平衡定数:。
物質収支:。
電荷収支:。
水の電離から生じる は、酸性溶液では非常に小さい(後で確かめる)ので、、 と置ける。 解の公式から 、したがって になる。電離がわずかで のとき、 と近似して 、 でも同じ値になる。
設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー
標準反応 Gibbs エネルギー、エンタルピー、エントロピーは、 で結ばれる。(a)の と、与えられた から
設問(d) 313 K での pH
溶液の体積と (さらに、(c)で使った )が 298 K から 313 K で変わらないとして、313 K の標準反応 Gibbs エネルギーを求める。 (b)と同じ式 を解くと、 になる。
設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの と の物質量
次の4段階で求める。
酸化溶解した M の総物質量。M の酸化は で、電子は M 1 mol あたり 2 mol である。
緩衝液の pH。HA と が ずつ、体積 1.00 L なので である。 から ()になる。水のイオン積から
溶液中に残る の上限。 が沈殿している間、溶解度積 が成り立つので
残りが 。生成物が と だけなので、
最終答
設問(a) 式(1)と式(2)の正反応の標準反応 Gibbs エネルギー
、。
設問(b) 0.100 mol L の HA 水溶液の pH
。
設問(c) 式(2)の正反応の標準反応エンタルピー
。
設問(d) 313 K での pH
(298 K の 2.75 から 0.27 上がる)。
設問(e) 緩衝液中で金属 M を酸化溶解したときの と の物質量
、(M の総量は )。
年度別の解答例(4年度)
電気化学と滴定:過マンガン酸カリウムによる COD 測定 / 分子軌道と分光:酸素分子のπ*電子配置と電子状態 / 錯体化学:イリジウム錯体の立体異性とメタロセンの電子構造
錯体化学:Mo錯体の合成・ROMPとNi(II)アンミン錯体 / 有機合成:(±)-Norcaesalpinin MC の合成経路 / 有機化学:アズレンの合成と、ヨウ素・メチルリチウムとの反応
2024年度(このページ・解説5項目)
高分子化学:合成高分子のIRスペクトルと、ポリ酢酸ビニルのNMR・立体規則性 / 有機化学:ジテルペン (+)-cassaine の合成経路における各段階の反応 / 無機化学:コバルト錯体の立体異性と、コバルトカルボニルクラスター
有機化学:硫黄・窒素を含む化合物の反応と機構 / 有機合成:Dynemicin A の合成中間体 10 への経路 / 無機・錯体化学:チタン・ルテニウム・マンガン錯体
2024年度の出題内容
解説5項目
前年度(2023年度)との違い
- 大問数
- 2023年度 5問 → 2024年度 5問
大阪大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
- 公式の解答例
- 解答例の掲載なし
- 英語の扱い
- 受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-26