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阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学I 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は化学2項目、熱・統計力学1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 有機化学:反応剤の選択と合成経路の設計

有機化学:反応剤の選択と合成経路の設計の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 無機化学:分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物

無機化学:分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 熱力学:van der Waals気体の内部エネルギー・エントロピー・断熱変化

設問(a) 式(2)の導出

使う関係と成立条件

熱力学第一法則と第二法則を合わせた dU=T dS−p dV\mathrm{d}U=T\,\mathrm{d}S-p\,\mathrm{d}V は、組成が変わらない閉じた系で、体積変化以外の仕事がなく、平衡状態を結ぶ可逆変化について成り立つ。U,S,VU,S,V はいずれも状態量なので、この式は経路によらず、状態 (T,V)(T,V) の近傍での変数間の関係を表す。変数を (S,V)(S,V) から (T,V)(T,V) に取り替えるには、TT を独立変数にするルジャンドル変換 A=U−TSA=U-TS を使う。独立変数を (T,V)(T,V) とすると、dA\mathrm{d}A の係数が −S-S と −p-p になる。

完全微分の係数の間には、f(x,y)f(x,y) について ∂2f/∂x∂y=∂2f/∂y∂x\partial^2 f/\partial x\partial y=\partial^2 f/\partial y\partial x が成り立つ(2階偏導関数が連続であれば微分の順序は入れ替えられる)。この性質を A(T,V)A(T,V) に使うと、直接測定しにくい (∂S/∂V)T(\partial S/\partial V)_T が、状態方程式から計算できる (∂p/∂T)V(\partial p/\partial T)_V に置き換わる。これが Maxwell の関係式である。

問題のどこが合図か

式(2)の左辺は「温度一定で体積を変えたときの内部エネルギーの変化」であり、状態方程式 p(T,V)p(T,V) だけから内部エネルギーの体積依存性を決める式になっている。問題文が AA を定義していることは、dA=−S dT−p dV\mathrm{d}A=-S\,\mathrm{d}T-p\,\mathrm{d}V から出発せよという合図と読める。

Joule の法則との整合と符号の誤り

理想気体 p=nRT/Vp=nRT/V では T(∂p/∂T)V=nRT/V=pT(\partial p/\partial T)_V=nRT/V=p となり、右辺は −p+p=0-p+p=0 になる。これは Joule の法則(理想気体の内部エネルギーは体積によらない)に一致する。

Maxwell の関係式の符号を取り違え、(∂S/∂V)T=−(∂p/∂T)V(\partial S/\partial V)_T=-(\partial p/\partial T)_V とすると、理想気体でも (∂U/∂V)T=−2p(\partial U/\partial V)_T=-2p となり Joule の法則に反する。−(∂V/∂T)p-(\partial V/\partial T)_p が現れる関係式 (∂S/∂p)T=−(∂V/∂T)p(\partial S/\partial p)_T=-(\partial V/\partial T)_p はギブズエネルギー GG から得られるもので、体積で微分する本問では使えない。独立変数が (T,V)(T,V) の対応は AA、(T,p)(T,p) の対応は GG と整理しておくと取り違えない。また、第1項だけを残して (∂U/∂V)T=−p(\partial U/\partial V)_T=-p とするのは、熱の出入りがない断熱過程での関係 dU=−p dV\mathrm{d}U=-p\,\mathrm{d}V と混同した誤りである。

設問(b) van der Waals気体での式(3)

偏微分で固定する量

(∂p/∂T)V(\partial p/\partial T)_V では VV と nn を固定し、式(1)の TT を含む項だけを微分する。aa と bb は問題で「p,T,Vp,T,V に依存しない定数」と指定されているので、−an2/V2-an^2/V^2 は TT について定数として消える。この指定がなければ、たとえば aa が温度の関数のときは −T da/dT⋅n2/V2-T\,\mathrm{d}a/\mathrm{d}T\cdot n^2/V^2 のような項が残る。

次元と極限

次元を見ると、an2/V2an^2/V^2 は圧力の次元であり、aa の単位は Pa\,m6^6\,mol−2^{-2} である。(∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T の単位 J\,m−3^{-3} は Pa に等しいので整合する。a→0a\to0 とすると (∂U/∂V)T→0(\partial U/\partial V)_T\to0 となり、排除体積 bb だけをもつ気体では内部エネルギーが体積によらないことが分かる。つまり体積依存性は引力の項 aa だけが担っている。b→0b\to0 でも結果は変わらない。

数値で確かめると、n=1.0n=1.0 mol、a=0.14a=0.14 Pa\,m6^6\,mol−2^{-2}、b=3.2×10−5b=3.2\times10^{-5} m3^3\,mol−1^{-1}、T=300T=300 K、V=1.0×10−4V=1.0\times10^{-4} m3^3 で、p=2.27×107p=2.27\times10^{7} Pa、T(∂p/∂T)V=nRT/(V−nb)=3.67×107T(\partial p/\partial T)_V=nRT/(V-nb)=3.67\times10^{7} Pa なので、−p+T(∂p/∂T)V=1.40×107-p+T(\partial p/\partial T)_V=1.40\times10^{7} Pa となる。これは an2/V2=0.14/(1.0×10−4)2=1.40×107an^2/V^2=0.14/(1.0\times10^{-4})^2=1.40\times10^{7} Pa に一致する。

T(∂p/∂T)VT(\partial p/\partial T)_V を取り違えたとき

T(∂p/∂T)VT(\partial p/\partial T)_V を nRT/VnRT/V と書き、理想気体の T(∂p/∂T)V=pT(\partial p/\partial T)_V=p をそのまま使うと (∂U∂V)T=−nRTV−nb+an2V2+nRTV=an2V2−n2bRTV(V−nb) \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T =-\frac{nRT}{V-nb}+\frac{an^2}{V^2}+\frac{nRT}{V} =\frac{an^2}{V^2}-\frac{n^2bRT}{V(V-nb)} となり、右辺が TT に依存する誤った式が出る。nbnb を引くべき分母を忘れた結果である。理想気体の pp との対応は nRT/(V−nb)nRT/(V-nb) のまま保つ。

設問(c) 体積増加で内部エネルギーが増える理由

式(3)の物理的な意味

式(3)を VV で積分すると、CVC_V が一定の仮定のもとで U(T,V)=CVT−an2V+U0 U(T,V)=C_VT-a\frac{n^2}{V}+U_0 の形になる。CVTC_VT は並進などの運動に由来する項、−an2/V-an^2/V は引力による位置エネルギーである。分子数密度 n/Vn/V を平均場として各分子が感じる引力ポテンシャルは n/Vn/V に比例し、それを全分子について足すと n⋅(n/V)n\cdot(n/V) に比例する。この平均場の見積りから −an2/V-an^2/V という形が出る。V→∞V\to\infty では位置エネルギーの項が 00 に近づき、理想気体の内部エネルギーに戻る。

「引力」を使った説明の組み立て

問題が求めているのは、a>0a>0 という引力の強さを表す定数が (∂U/∂V)T>0(\partial U/\partial V)_T>0 を与えることの説明である。「体積が増える」→「平均距離が増える」→「引力に逆らう仕事で位置エネルギーが増える」→「温度一定なら運動エネルギーは同じ」という順に書くと筋が通る。an2/V2an^2/V^2 は内部圧力(引力による凝集圧)と呼ばれ、気体を膨張させる際の分子間の引力の強さを圧力の単位で測ったものである。

斥力や圧力で説明したとき

「体積が増えると圧力が下がるので内部エネルギーが増える」という説明は、圧力は状態量 p(T,V)p(T,V) であって内部エネルギーの原因ではないので誤りである。また、斥力の寄与を使って「分子が近づくと斥力で位置エネルギーが上がる」と書くと、(∂U/∂V)T(\partial U/\partial V)_T の符号が逆になる。式(3)に bb が現れないことが示すように、体積の増加で内部エネルギーが増えることに関わるのは引力であり、排除体積ではない。

設問(d) 等温変化での ΔU\Delta U と ΔS\Delta S

積分できる理由

U(T,V)U(T,V) について dU=CV dT+(∂U/∂V)T dV\mathrm{d}U=C_V\,\mathrm{d}T+(\partial U/\partial V)_T\,\mathrm{d}V が成り立つ。等温では第1項が消え、残る被積分関数 (∂U/∂V)T=an2/V2(\partial U/\partial V)_T=an^2/V^2 が TT を含まないので、積分は VV だけの積分になる。エントロピーも同様に dS=(CV/T) dT+(∂p/∂T)V dV\mathrm{d}S=(C_V/T)\,\mathrm{d}T+(\partial p/\partial T)_V\,\mathrm{d}V で等温ならば第2項だけが残り、(∂p/∂T)V=nR/(V−nb)(\partial p/\partial T)_V=nR/(V-nb) は TT を含まない。このため結果に温度が現れない。問題の「必要なものを用いて」という指定は、各式に実際に現れる量を答えることを求めている。

数値例

仮に n=1.0n=1.0 mol、a=0.14a=0.14 Pa\,m6^6\,mol−2^{-2}、b=3.2×10−5b=3.2\times10^{-5} m3^3\,mol−1^{-1}(アルゴンに近い値)、Vi=1.0×10−4V_{\mathrm i}=1.0\times10^{-4} m3^3、Vf=2.0×10−4V_{\mathrm f}=2.0\times10^{-4} m3^3 とすると、 ΔU=0.14×(104−5×103)=7.0×102 J,ΔS=8.314ln⁡16868=7.52 J K−1 \Delta U=0.14\times\left(10^{4}-5\times10^{3}\right)=7.0\times10^{2}\ \mathrm{J},\qquad \Delta S=8.314\ln\frac{168}{68}=7.52\ \mathrm{J\,K^{-1}} である(R=8.314R=8.314 J\,K−1^{-1}\,mol−1^{-1})。極限では、a→0a\to0 で ΔU→0\Delta U\to0、b→0b\to0 で ΔS→nRln⁡(Vf/Vi)\Delta S\to nR\ln(V_{\mathrm f}/V_{\mathrm i}) となり、後者は理想気体の等温膨張のエントロピー変化に一致する。Vf=ViV_{\mathrm f}=V_{\mathrm i} では両方が 00 になる。

第一法則による確かめもできる。可逆等温変化で系が吸収する熱は Q=TΔS=nRTln⁡Vf−nbVi−nbQ=T\Delta S=nRT\ln\dfrac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}、系がされる仕事は W=−∫p dV=−nRTln⁡Vf−nbVi−nb+an2(1Vi−1Vf)W=-\displaystyle\int p\,\mathrm{d}V=-nRT\ln\dfrac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}+an^2\left(\dfrac1{V_{\mathrm i}}-\dfrac1{V_{\mathrm f}}\right) である。Q+W=an2(1/Vi−1/Vf)Q+W=an^2(1/V_{\mathrm i}-1/V_{\mathrm f}) となり、ΔU\Delta U と一致する。数値例では T=300T=300 K として Q=2.26×103Q=2.26\times10^{3} J、W=−1.56×103W=-1.56\times10^{3} J、Q+W=7.0×102Q+W=7.0\times10^{2} J である。

積分の向きと bb の扱い

積分の上限と下限を逆にして ΔU=an2(1/Vf−1/Vi)\Delta U=an^2(1/V_{\mathrm f}-1/V_{\mathrm i}) とすると、上の数値例で −7.0×102-7.0\times10^{2} J となり、(c)の結論(膨張で内部エネルギーが増える)に反する。また ΔS=nRln⁡(Vf/Vi)\Delta S=nR\ln(V_{\mathrm f}/V_{\mathrm i}) と書くと 5.765.76 J\,K−1^{-1} となり、bb を無視した理想気体の値である。nbnb の nn を落として V−bV-b と書くと、n≠1n\ne1 の気体で次元が合わない(bb は物質量あたりの体積)。

設問(e) 等温膨張でのエントロピー変化の比較

理由の述べ方

エントロピーの体積依存性は (∂S/∂V)T=nR/(V−nb)(\partial S/\partial V)_T=nR/(V-nb) で、分子が実際に動ける体積 V−nbV-nb(自由体積)で決まる。排除体積があると、同じ絶対量 Vf−ViV_{\mathrm f}-V_{\mathrm i} の膨張が、自由体積の相対的な増加としては大きくなる。実際、(Vf−nb)/(Vi−nb)(V_{\mathrm f}-nb)/(V_{\mathrm i}-nb) は Vf/ViV_{\mathrm f}/V_{\mathrm i} より大きい。統計力学では S=kBln⁡WS=k_{\mathrm B}\ln W の WW が自由体積の NN 乗に比例するので、自由体積の比が効く、と読める。

引力の項は効かない

(∂S/∂V)T=(∂p/∂T)V(\partial S/\partial V)_T=(\partial p/\partial T)_V に引力の項 −an2/V2-an^2/V^2 は現れない(温度に依存しない)ので、ΔS\Delta S は aa に依存しない(∂ΔS/∂a=0\partial\Delta S/\partial a=0)。「分子間引力で動きが制限され、エントロピーの増加が小さくなる」という説明は誤りである。引力は内部エネルギーの体積依存性((c))に入るが、等温変化のエントロピーには入らない。

数値と極限

(d)と同じ数値例では ΔSvdW=7.52\Delta S_{\mathrm{vdW}}=7.52 J\,K−1^{-1}、ΔSid=8.314ln⁡2=5.76\Delta S_{\mathrm{id}}=8.314\ln2=5.76 J\,K−1^{-1} で、前者のほうが約 1.761.76 J\,K−1^{-1} 大きい。nb→0nb\to0 では差が 00 に近づき、Vi→nbV_{\mathrm i}\to nb では ln⁡[(Vf−nb)/(Vi−nb)]→∞\ln[(V_{\mathrm f}-nb)/(V_{\mathrm i}-nb)]\to\infty となって差が大きくなる。分子がほとんど動けないほど詰まった状態から膨張させると、エントロピー増加が大きいことを表している。

設問(f) 断熱可逆変化で (V−nb)Tc=(V-nb)T^{c}= 一定

使う式と条件

断熱可逆変化は、系が熱を出入りさせず、かつ平衡を保って進む変化である。ここで δQ=T dS=0\delta Q=T\,\mathrm{d}S=0 から、エントロピーは一定に保たれる。この変化では熱の項が消えるので、dU=δW=−p dV\mathrm{d}U=\delta W=-p\,\mathrm{d}V と書ける。内部エネルギーの全微分 dU=CV dT+(∂U/∂V)T dV\mathrm{d}U=C_V\,\mathrm{d}T+(\partial U/\partial V)_T\,\mathrm{d}V は、UU が (T,V)(T,V) の状態関数であることだけで成り立つ。

本問の CVC_V は一定という仮定がある。この仮定は van der Waals 気体で矛盾しない。式(2)から (∂CV/∂V)T=T(∂2p/∂T2)V(\partial C_V/\partial V)_T=T(\partial^2p/\partial T^2)_V が導かれ、式(1)の pp は TT の1次式なので、右辺は 00 になる。

エントロピーによる別解

dS=(CV/T) dT+(∂p/∂T)V dV=(CV/T) dT+nR dV/(V−nb)\mathrm{d}S=(C_V/T)\,\mathrm{d}T+(\partial p/\partial T)_V\,\mathrm{d}V=(C_V/T)\,\mathrm{d}T+nR\,\mathrm{d}V/(V-nb) で dS=0\mathrm{d}S=0 とおいても、同じ微分方程式が得られる。引力の項 aa はどちらの方法でも消えるので、断熱可逆変化の不変量は aa によらない。

ポアソンの式との対応と、dU\mathrm{d}U の取り違え

b→0b\to0 とすると VTc=VT^{c}= 一定となり、c=1/(γ−1)c=1/(\gamma-1) より TVγ−1=TV^{\gamma-1}= 一定という理想気体のポアソンの式に戻る。単原子分子では c=3/2c=3/2 である。

誤りとして多いのは、CV dT=−p dVC_V\,\mathrm{d}T=-p\,\mathrm{d}V と書き、dU=CV dT\mathrm{d}U=C_V\,\mathrm{d}T とみなしてしまうことである。この式では pp の中の −an2/V2-an^2/V^2 が残り、TT と VV が分離できず、aa を含む複雑な式になってしまう。dU\mathrm{d}U に (∂U/∂V)T dV(\partial U/\partial V)_T\,\mathrm{d}V の項があることを忘れない。

設問(g) 断熱可逆膨張後の温度

使う関係と条件

断熱可逆膨張は等エントロピー変化であり、(f)の不変量は ΔS=0\Delta S=0 の結果である。Ti,Vi,Vf,CVT_{\mathrm i},V_{\mathrm i},V_{\mathrm f},C_V が両気体で同じという指定により、2つの終端温度の違いはすべて因子 [(Vi−nb)/(Vf−nb)]1/c[(V_{\mathrm i}-nb)/(V_{\mathrm f}-nb)]^{1/c} と (Vi/Vf)1/c(V_{\mathrm i}/V_{\mathrm f})^{1/c} の大小に帰着する。Vi>nbV_{\mathrm i}>nb であれば両辺は正で、1/c>01/c>0 なので不等式の向きは保たれる。

数値例:断熱膨張後の温度

(d)の数値例に Ti=300T_{\mathrm i}=300 K、単原子分子 c=3/2c=3/2、Vf=2ViV_{\mathrm f}=2V_{\mathrm i} を加えると TfvdW=300(68168)2/3=164 K,Tfid=300(12)2/3=189 K T_{\mathrm f}^{\mathrm{vdW}}=300\left(\frac{68}{168}\right)^{2/3}=164\ \mathrm K,\qquad T_{\mathrm f}^{\mathrm{id}}=300\left(\frac12\right)^{2/3}=189\ \mathrm K である。温度が約 2525 K 異なる。上の ΔS=0\Delta S=0 の式に代入すると、温度項は CVln⁡(Tf/Ti)=1.5 nRln⁡(0.547)=−0.905 nRC_V\ln(T_{\mathrm f}/T_{\mathrm i})=1.5\,nR\ln(0.547)=-0.905\,nR、体積項は nRln⁡(168/68)=+0.905 nRnR\ln(168/68)=+0.905\,nR となり、確かに打ち消し合う。

TfT_{\mathrm f} が aa によらない点

(f)の式に aa は現れないので、断熱可逆変化の終端温度は引力の強さによらない。引力に逆らう仕事のため内部エネルギーが増えること((c))と、引力で圧力が下がり外にする仕事が減ることが、TT の変化に対して打ち消し合うからである。したがって冷え方に差を生むのは排除体積 bb だけであり、これは(e)で ΔS\Delta S の差の原因が bb だけだったことに対応する。

引力が冷却に効くのは、外部に仕事をしない断熱自由膨張(Joule 膨張)である。この場合は ΔU=0\Delta U=0 で、CVΔT=−an2(1/Vi−1/Vf)C_V\Delta T=-an^2(1/V_{\mathrm i}-1/V_{\mathrm f}) から、数値例では ΔT=−700/(1.5×8.314)=−56\Delta T=-700/(1.5\times8.314)=-56 K となり、冷却の原因は aa だけで、理想気体では ΔT=0\Delta T=0 である。同じ Vi→VfV_{\mathrm i}\to V_{\mathrm f} でも、可逆断熱膨張(−136-136 K、理想気体は −111-111 K)と自由膨張(−56-56 K)で、温度変化の大きさも原因も異なる。

断熱可逆変化で体積を増やしたときの温度Tと体積比V/Viの関係。nb/Vi=0.32、c=3/2の場合で、van der Waals気体(実線)は理想気体(破線)より温度が大きく下がる。


*[3pt] 自作図:始状態から VV を増やしたときの断熱可逆変化の温度。nb/Vi=0.32nb/V_{\mathrm i}=0.32、c=3/2c=3/2 の場合

nbnb を落とした式と aa を含めた式

(V−nb)Tc(V-nb)T^{c} の nbnb を落とし、van der Waals 気体にも理想気体の式 Tf=Ti(Vi/Vf)1/cT_{\mathrm f}=T_{\mathrm i}(V_{\mathrm i}/V_{\mathrm f})^{1/c} を使うと、両者が同じ 189189 K となり差が出ない。反対に、引力が冷却を大きくすると考えて aa を含む式を立てても、(f)で aa が消えているので正しくない。

解答

設問(a) 式(2)の導出

閉じた1成分系で、仕事が体積変化の仕事だけの可逆変化を考える。 dU=T dS−p dV \mathrm{d}U=T\,\mathrm{d}S-p\,\mathrm{d}V を TT 一定で VV について偏微分すると (∂U∂V)T=T(∂S∂V)T−p. \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=T\left(\frac{\partial S}{\partial V}\right)_T-p. ヘルムホルツエネルギー A=U−TSA=U-TS の全微分は dA=−S dT−p dV \mathrm{d}A=-S\,\mathrm{d}T-p\,\mathrm{d}V であり、AA は状態関数なので dA\mathrm{d}A は完全微分である。したがって (∂A∂T)V=−S,(∂A∂V)T=−p \left(\frac{\partial A}{\partial T}\right)_V=-S,\qquad \left(\frac{\partial A}{\partial V}\right)_T=-p であり、混合2階偏導関数が等しいことから −(∂S∂V)T=−(∂p∂T)V⟹(∂S∂V)T=(∂p∂T)V. -\left(\frac{\partial S}{\partial V}\right)_T=-\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V \quad\Longrightarrow\quad \left(\frac{\partial S}{\partial V}\right)_T=\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V. これを最初の式に代入して (∂U∂V)T=−p+T(∂p∂T)V \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=-p+T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V を得る。

設問(b) van der Waals気体での式(3)

式(1)を VV と nn を一定にして TT で偏微分する。a,ba,b は TT によらないので、第2項は消える。 (∂p∂T)V=nRV−nb. \left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\frac{nR}{V-nb}. したがって T(∂p∂T)V=nRTV−nb=p+an2V2. T\left(\frac{\partial p}{\partial T}\right)_V=\frac{nRT}{V-nb}=p+a\frac{n^2}{V^2}. 最後の等号は、式(1)を nRT/(V−nb)=p+an2/V2nRT/(V-nb)=p+an^2/V^2 と書き換えたものである。式(2)に代入すると (∂U∂V)T=−p+(p+an2V2)=an2V2. \left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=-p+\left(p+a\frac{n^2}{V^2}\right)=a\frac{n^2}{V^2}.

設問(c) 体積増加で内部エネルギーが増える理由

分子間に引力が働くと、分子同士が近いほど相互作用の位置エネルギーは低い(負で大きい)。等温で体積を増やすと分子間の平均距離が大きくなり、分子を引力に逆らって引き離すことになるので、分子間の位置エネルギーは増える。温度一定なら分子の運動エネルギーの総和は変わらない。内部エネルギーは運動エネルギーと分子間の位置エネルギーの和なので、体積の増加によって増える。

設問(d) 等温変化での ΔU\Delta U と ΔS\Delta S

UU と SS は状態量なので、TT 一定のまま ViV_{\mathrm i} から VfV_{\mathrm f} まで積分した値が変化量になる。式(3)から ΔU=∫ViVfan2V2 dV=an2(1Vi−1Vf). \Delta U=\int_{V_{\mathrm i}}^{V_{\mathrm f}}a\frac{n^2}{V^2}\,\mathrm{d}V =an^2\left(\frac1{V_{\mathrm i}}-\frac1{V_{\mathrm f}}\right). (a)の関係 (∂S/∂V)T=(∂p/∂T)V=nR/(V−nb)(\partial S/\partial V)_T=(\partial p/\partial T)_V=nR/(V-nb) を使うと ΔS=∫ViVfnRV−nb dV=nRln⁡Vf−nbVi−nb. \Delta S=\int_{V_{\mathrm i}}^{V_{\mathrm f}}\frac{nR}{V-nb}\,\mathrm{d}V =nR\ln\frac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}.

設問(e) 等温膨張でのエントロピー変化の比較

van der Waals 気体と理想気体の ΔS\Delta S の差は、(d)の結果から ΔSvdW−ΔSid=nRln⁡Vf−nbVi−nb−nRln⁡VfVi=nRln⁡(Vf−nb)Vi(Vi−nb)Vf. \Delta S_{\mathrm{vdW}}-\Delta S_{\mathrm{id}} =nR\ln\frac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}-nR\ln\frac{V_{\mathrm f}}{V_{\mathrm i}} =nR\ln\frac{(V_{\mathrm f}-nb)V_{\mathrm i}}{(V_{\mathrm i}-nb)V_{\mathrm f}}. 対数の中の分子と分母の差は (Vf−nb)Vi−(Vi−nb)Vf=nb (Vf−Vi)>0 (V_{\mathrm f}-nb)V_{\mathrm i}-(V_{\mathrm i}-nb)V_{\mathrm f}=nb\,(V_{\mathrm f}-V_{\mathrm i})>0 である(b>0b>0、Vf>ViV_{\mathrm f}>V_{\mathrm i})。分母は正なので対数の中は1より大きく、差は正になる。

設問(f) 断熱可逆変化で (V−nb)Tc=(V-nb)T^{c}= 一定

断熱可逆変化では δQ=0\delta Q=0 なので dU=−p dV\mathrm{d}U=-p\,\mathrm{d}V である。一方、van der Waals 気体では(b)の結果と CVC_V の仮定から dU=CV dT+(∂U∂V)TdV=CV dT+an2V2 dV. \mathrm{d}U=C_V\,\mathrm{d}T+\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T\mathrm{d}V =C_V\,\mathrm{d}T+a\frac{n^2}{V^2}\,\mathrm{d}V. 両者を等しいとおき、式(1)の pp を代入すると CV dT+an2V2 dV=−(nRTV−nb−an2V2)dV. C_V\,\mathrm{d}T+a\frac{n^2}{V^2}\,\mathrm{d}V=-\left(\frac{nRT}{V-nb}-a\frac{n^2}{V^2}\right)\mathrm{d}V. an2/V2an^2/V^2 の項が両辺で打ち消され、 CV dT=−nRTV−nb dV⟹c dTT=−dVV−nb(c=CV/nR). C_V\,\mathrm{d}T=-\frac{nRT}{V-nb}\,\mathrm{d}V \quad\Longrightarrow\quad c\,\frac{\mathrm{d}T}{T}=-\frac{\mathrm{d}V}{V-nb}\qquad(c=C_V/nR). 積分すると cln⁡T+ln⁡(V−nb)=c\ln T+\ln(V-nb)= 一定、すなわち (V−nb) Tc=一定. (V-nb)\,T^{c}=\text{一定}.

設問(g) 断熱可逆膨張後の温度

(f)の不変量を始状態 (Ti,Vi)(T_{\mathrm i},V_{\mathrm i}) と終状態 (Tf,Vf)(T_{\mathrm f},V_{\mathrm f}) に使う。 (Vi−nb)Tic=(Vf−nb)Tfc⟹TfvdW=Ti(Vi−nbVf−nb)1/c. (V_{\mathrm i}-nb)T_{\mathrm i}^{c}=(V_{\mathrm f}-nb)T_{\mathrm f}^{c} \quad\Longrightarrow\quad T_{\mathrm f}^{\mathrm{vdW}}=T_{\mathrm i}\left(\frac{V_{\mathrm i}-nb}{V_{\mathrm f}-nb}\right)^{1/c}. 理想気体では b=0b=0 なので Tfid=Ti(Vi/Vf)1/cT_{\mathrm f}^{\mathrm{id}}=T_{\mathrm i}(V_{\mathrm i}/V_{\mathrm f})^{1/c} である。(e)の結果 (Vf−nb)/(Vi−nb)>Vf/Vi(V_{\mathrm f}-nb)/(V_{\mathrm i}-nb)>V_{\mathrm f}/V_{\mathrm i} から Vi−nbVf−nb<ViVf⟹TfvdW<Tfid. \frac{V_{\mathrm i}-nb}{V_{\mathrm f}-nb}<\frac{V_{\mathrm i}}{V_{\mathrm f}} \quad\Longrightarrow\quad T_{\mathrm f}^{\mathrm{vdW}}<T_{\mathrm f}^{\mathrm{id}}. 理由はエントロピー保存で説明できる。断熱可逆変化では ΔS=CVln⁡TfTi+nRln⁡Vf−nbVi−nb=0 \Delta S=C_V\ln\frac{T_{\mathrm f}}{T_{\mathrm i}}+nR\ln\frac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}=0 である。(e)より、同じ Vi→VfV_{\mathrm i}\to V_{\mathrm f} の膨張でも van der Waals 気体の体積項のエントロピー増加が大きいので、これを打ち消すため温度項の減少が大きくなる必要があり、TfT_{\mathrm f} が低くなる。

最終答

設問(a) 式(2)の導出

式(2)が成り立つ。途中で (∂S/∂V)T=(∂p/∂T)V(\partial S/\partial V)_T=(\partial p/\partial T)_V を使った。

設問(b) van der Waals気体での式(3)

(∂U∂V)T=an2V2\displaystyle\left(\frac{\partial U}{\partial V}\right)_T=a\frac{n^2}{V^2} が成り立つ。

設問(c) 体積増加で内部エネルギーが増える理由

体積が増えると、引力に逆らって分子が引き離され位置エネルギーが上がる。温度が同じなら運動エネルギーは変わらないので、内部エネルギーが増える。

設問(d) 等温変化での ΔU\Delta U と ΔS\Delta S

ΔU=an2(1Vi−1Vf)\displaystyle\Delta U=an^2\left(\frac1{V_{\mathrm i}}-\frac1{V_{\mathrm f}}\right)、 ΔS=nRln⁡Vf−nbVi−nb\displaystyle\Delta S=nR\ln\frac{V_{\mathrm f}-nb}{V_{\mathrm i}-nb}。ΔU\Delta U に T,R,bT,R,b は現れず、ΔS\Delta S に T,aT,a は現れない。

設問(e) 等温膨張でのエントロピー変化の比較

ΔSvdW>ΔSid\Delta S_{\mathrm{vdW}}>\Delta S_{\mathrm{id}} で、van der Waals 気体のほうが大きい。差は nRln⁡(Vf−nb)Vi(Vi−nb)VfnR\ln\dfrac{(V_{\mathrm f}-nb)V_{\mathrm i}}{(V_{\mathrm i}-nb)V_{\mathrm f}} で、原因は排除体積 bb である。

設問(f) 断熱可逆変化で (V−nb)Tc=(V-nb)T^{c}= 一定

断熱可逆過程では (V−nb)Tc=(V-nb)T^{c}= 一定(c=CV/nRc=C_V/nR)が成り立つ。

設問(g) 断熱可逆膨張後の温度

TfvdW<TfidT_{\mathrm f}^{\mathrm{vdW}}<T_{\mathrm f}^{\mathrm{id}}。van der Waals 気体のほうが低温になる。

第4問 — 量子化学:アリルラジカルのHückel分子軌道法

量子化学:アリルラジカルのHückel分子軌道法の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 電気化学:ダニエル電池の電極電位と定電流放電

電気化学:ダニエル電池の電極電位と定電流放電の途中式・最終答をPDFで見る

化学工学Iの解答・解説PDF

2023〜2026年度(4年度) · ¥2,580

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年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(このページ・解説5項目)

    有機化学:反応剤の選択と合成経路の設計 / 無機化学:分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物 / 熱力学:van der Waals気体の内部エネルギー・エントロピー・断熱変化

  • 2025年度(解説5項目)

    有機化学:アルケンへの付加、求核置換、合成経路、Robinson 環形成 / 無機化学:八面体錯体の配位子場分裂、d電子配置、ルビーの光吸収 / 熱力学:2成分系の気液平衡と共沸混合物

  • 2024年度(解説5項目)

    有機化学:求核置換の立体化学、合成経路、ピリジン、分子内 Michael 反応とアルドール反応 / 無機化学:NO の分子軌道、金属カルボニル、錯イオンの形と色 / 熱力学:連鎖則と Maxwell の関係、水の熱膨張、断熱変化の圧力応答

  • 2023年度(解説6項目)

    化学工学:円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分 / 有機化学:(R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成 / 無機化学:分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギー

2026年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は化学2問・熱・統計力学1問・量子力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問化学反応剤の選択と合成経路の設計—あり
第2問化学分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物—あり
第3問熱・統計力学van der Waals気体の内部エネルギー・エントロピー・断熱変化使う関係と成立条件 / 問題のどこが合図かあり
第4問量子力学アリルラジカルのHückel分子軌道法—あり
第5問ダニエル電池の電極電位と定電流放電—あり

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 5問 → 2026年度 5問
2025年度の解答例

大阪大学の公式過去問

公開年度範囲
領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
院試hubの最終確認
2026-10-26
大阪大学の公式過去問PDF