阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学I 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説6項目)
解説6項目の分野は化学2項目、熱・統計力学1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 化学工学:円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分
化学工学:円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分の途中式・最終答をPDFで見る第2問 — 有機化学:(R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成
有機化学:(R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成の途中式・最終答をPDFで見る第3問 — 無機化学:分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギー
無機化学:分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギーの途中式・最終答をPDFで見る第4問 — 物理化学:凝固点降下の熱力学的な導出と、電解質水溶液のデバイ長・活量係数
設問(a) 凝固点での固液平衡と式(1)
使う条件と、等置の根拠
一定の温度・圧力で、2つの相の間を物質 が移ったときの全体のギブズエネルギー変化は である。平衡では、どちらの向きの移動でも変化が 0 になるので となる。溶質は固相に含まれないという問題の前提のおかげで、固相の溶媒は純粋になり、化学ポテンシャルが標準値 そのものになる。活量は で定義され、純液体では である。
式の符号の意味と数値
純溶媒の凝固点 では で、 となる。これより低温では なので、式(1)の右辺が負になり、 になる。溶質が溶けると溶媒の活量は 1 より小さくなるので、固相と平衡になる温度は より低くなる。つまり凝固点降下である。数値で確かめると、水(、)が 272 K にあるとき、融解のギブズエネルギーは で、、つまり となる。1 K の降下に、溶媒の活量を約 1\% 下げる量の溶質が要る。
標準化学ポテンシャル同士を等置する誤り
と書くと、溶液でも純溶媒の凝固点のままになり、凝固点降下が出てこない。溶液中の溶媒の化学ポテンシャルは、標準値ではなく である。式(1)の分子 の順序を逆にすると、 の符号が反転し、 という不合理な結論になる。
設問(b) 非電解質溶液の凝固点降下の式(2)
仮定と別の導出
導出は、(i) が温度によらず一定(融解の熱容量の差を無視)、(ii) 固相が純溶媒、(iii) と 、の3つを前提にする。別の導出として、ギブズ--ヘルムホルツの式 を使う方法がある。式(1)の右辺をこの式で について微分すると となる。()から まで積分すると で、上の式と一致する。
近似の大きさと、凝固点降下定数
2つの近似の誤差は小さい。たとえば ((c-3)で現れる値の2倍)の理想溶液では、近似式の に対し、近似なしで解くと で、差は 0.04\% である。式(2)で とおくと、 で、溶質の種類によらず、溶質粒子のモル分率だけで決まる。水では (、)で、 とすると凝固点降下定数 となる。この値は、水の測定値(約 )とよく合う。 に必要な は (非電解質で )である。
活量とモル分率の取り違え
溶媒の活量は、溶質ではなく溶媒のモル分率 を使い とする。 と書くと、 で になり、純溶媒の と合わない。 の符号を落として とすると、 が負になる。凝固点降下は と定義されているので、、 のとき式(2)は正になる。
設問(c-1) 電解質水溶液の凝固点降下
粒子の数で決まる性質
凝固点降下は、溶質の種類ではなく粒子の数で決まる束一的な性質である。電解質が完全に電離すると、粒子数は式量あたり 倍になり、同じ質量モル濃度の非電解質の 倍だけ降下が大きい(ファントホッフ係数 )。 の1:1電解質を で溶かした理想溶液()では、 になる。実在溶液では、イオン間の静電相互作用で溶媒の活量係数が 1 からずれる分が、 の項に入る。
単位と、項の取り違え
を g\,mol のまま()代入すると、 となり、モル分率が 1 を超える。 は kg\,mol に直す。また、 を掛けずに だけにすると、電解質の降下を半分(1:1電解質で)に見積もる。問題は を溶質(式量)の質量モル濃度としているので、イオンの総量は である。 をイオンの濃度と取ると、 を二重に掛けることになる。
設問(c-2) デバイ長の式(3)の導出
の物理的な意味と次元
は、1個のイオンの電荷 のまわりに、反対符号のイオンが集まってつくるイオン雰囲気との静電エネルギーに当たる。雰囲気がつくる電位は、中心で と近似でき、電荷を 0 から まで徐々に充電する仕事を積分すると、その半分の になる。これに を掛け、 を使うと、問題の式の に一致する。次元は、 が で、化学ポテンシャルの単位に合う。
平均活量係数の定義と、中性条件の使い方
平均イオン活量係数は、実測できない単独のイオンの活量係数 、 の代わりに、電気的に中性な組み合わせで定義する量で、 である。 は、1:1電解質(、)で 、CaCl(、、、)で となり、成り立つことが確かめられる。
符号と電荷の取り違え
式の右辺の負号を落とすと、 のとき という不合理な結果になる。 の代わりに を入れると、符号が逆になる。また、 を と書いて を消せなかった場合は、中性条件を使い忘れている。
設問(c-3) デバイ長と、理想溶液・実在溶液の凝固点の差
の読み方と、ギブズ--デュエムの式の使い方
問題は、イオン強度を と与えている。1:1電解質では ()なので、、すなわち ()である。したがって は電離前の溶質(式量)のモル分率で、イオンの総モル分率は になる。この読み方で となり、(c-1)の と整合する。これに対し、 をイオン全体のモル分率と読むと、 と矛盾する( になる)ので、採用しなかった。この別の読み方では、理想溶液 、差 である。式(4)は、 のもとで、組成が変わるときに成分の化学ポテンシャルが互いに独立ではないことを表す。実測しにくい溶媒の活量係数が、測りやすい平均イオン活量係数 から、積分で求められる。
数値の確かめ
2つの値を独立に確かめた。1つは、 の値である。デバイ--ヒュッケルの限界則で、イオン雰囲気の厚さ は、(水の密度を と仮定)で となり、式(3)の と 1\% 以内で一致する。限界則では だからである。もう1つは、浸透係数 で、限界則の と一致する。ただし、 は、限界則が定量的には粗くなる濃度である。
値が大きく変わる誤り
のかわりに を (c-1) の式の に入れると、 となり、 倍の不合理な値になる。 を 298 K にとると、 を与えた 273 K と食い違い、デバイ長がずれる。溶媒の活量係数 を のままにすると、差が 0 になって設問に答えられない。 の符号を負にとると、実在溶液の凝固点が理想溶液より低くなる誤りになる。電解質の溶媒の活量係数は、 から となり、凝固点降下は理想溶液より小さくなる。
解答
設問(a) 凝固点での固液平衡と式(1)
凝固点 では、固相(純溶媒の固体)と、溶液中の溶媒が平衡にある。平衡では、溶媒の化学ポテンシャルが両相で等しい。 固相は純溶媒なので、化学ポテンシャルは標準化学ポテンシャル である。溶液中の溶媒は、活量 を使って と書ける。ここで は純液体の溶媒の標準化学ポテンシャルである。両者を等しくおくと となり、式(1)が成り立つ。
設問(b) 非電解質溶液の凝固点降下の式(2)
溶媒のモル分率は なので、溶媒の活量は で、 である。溶質の濃度が十分に低く なので、 を使うと
一方、式(1)の右辺の分子は、融解のギブズエネルギーの符号を変えたものである。 で、 では なので である。 が一定なので、 も一定として となる。式(1)は と書けるので である。ここで より 、 で、 から なので とできる。よって (A) と (B) を等しくおくと、 で、 が得られ、式(2)が示された。
*[3pt]
自作図:溶媒の化学ポテンシャルの温度変化の模式図(縮尺は実際と異なる)。固体の傾きは小さく、液体は傾きが大きい(傾きは )。溶質で液体の線が だけ下がると、固体の線との交点が から へ移る
設問(c-1) 電解質水溶液の凝固点降下
溶媒(水)1 kg を考える。溶媒の物質量は 、溶質 は mol で、完全に電離すると粒子(イオン)は mol になる。式(2)の は溶質粒子のモル分率なので となる。最後の近似は、 のとき ( で の を に置いたもの)による。ここで は kg\,mol の単位()で使う。これを式(2)に代入すると となる。
設問(c-2) デバイ長の式(3)の導出
理想溶液と実在溶液でのイオン の化学ポテンシャルの差は、活量係数 を使って (1 mol あたり)と書け、これが に等しい。 平均イオン活量係数は で定義されるので、 となる。式量全体は電気的に中性なので である。これを使うと ( なので )で、 となる。したがって で、両辺の が消えて となり、式(3)が示された。
設問(c-3) デバイ長と、理想溶液・実在溶液の凝固点の差
、 とする。ここでは を、電離前の溶質(式量)のモル分率 として使う(理由は解説)。(c-1)の式では になる。( を与えた温度)で計算し、水の純溶媒の凝固点も とおく(問題に数値はなく、 が 273 K の値であることからの仮定)。273.15 K としても結果は 0.2\% しか変わらない。
(i) デバイ長 で、式(5)より 式(3)に代入すると
(ii) 溶媒の活量係数 式(4)をこの系に当てはめる。溶媒 A、陽イオン、陰イオンの物質量を 、、 とする( は溶質の式量数)。各成分の化学ポテンシャルは と書ける。モル分率の項は、()より となって消え、活量係数の項だけが残る。 最後の近似は、()による。式(5)と より ()で、 なので ( で を積分の下端にした。) を代入すると
(iii) 凝固点の差 である。(c-1)の式で、 とすると なので、理想溶液()と実在溶液の凝固点降下は で、差は である。実在溶液のほうが凝固点が 高い。
最終答
設問(a) 凝固点での固液平衡と式(1)
から が得られる(式(1))。
設問(b) 非電解質溶液の凝固点降下の式(2)
(式(2))。、、 を使った。
設問(c-1) 電解質水溶液の凝固点降下
。
設問(c-2) デバイ長の式(3)の導出
(式(3))。中性条件 から を使う。
設問(c-3) デバイ長と、理想溶液・実在溶液の凝固点の差
デバイ長は ()。凝固点降下は理想溶液で 、実在溶液で で、実在溶液の凝固点は理想溶液より約 高い。 をイオン全体のモル分率と読んだ場合は、理想溶液 、差 になる。
第5問 — 量子化学:第2周期の等核2原子分子の分子軌道、結合次数、常磁性
量子化学:第2周期の等核2原子分子の分子軌道、結合次数、常磁性の途中式・最終答をPDFで見る第6問 — 電気化学:溶解度から求める標準電池電位、錯形成による標準電極電位の変化、共存する金属イオンの析出条件
電気化学:溶解度から求める標準電池電位、錯形成による標準電極電位の変化、共存する金属イオンの析出条件の途中式・最終答をPDFで見る年度別の解答例(4年度)
有機化学:反応剤の選択と合成経路の設計 / 無機化学:分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物 / 熱力学:van der Waals気体の内部エネルギー・エントロピー・断熱変化
有機化学:アルケンへの付加、求核置換、合成経路、Robinson 環形成 / 無機化学:八面体錯体の配位子場分裂、d電子配置、ルビーの光吸収 / 熱力学:2成分系の気液平衡と共沸混合物
有機化学:求核置換の立体化学、合成経路、ピリジン、分子内 Michael 反応とアルドール反応 / 無機化学:NO の分子軌道、金属カルボニル、錯イオンの形と色 / 熱力学:連鎖則と Maxwell の関係、水の熱膨張、断熱変化の圧力応答
2023年度(このページ・解説6項目)
化学工学:円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分 / 有機化学:(R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成 / 無機化学:分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギー
2023年度の出題内容
解説6項目
この6問の分野は化学2問・熱・統計力学1問・量子力学1問です。
| 大問 | 分野 | 主題 | 解説の小見出し | 最終答 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分 | — | あり | |
| 第2問 | 化学 | (R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成 | — | あり |
| 第3問 | 化学 | 分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギー | — | あり |
| 第4問 | 熱・統計力学 | 凝固点降下の熱力学的な導出と、電解質水溶液のデバイ長・活量係数 | 使う条件と、等置の根拠 / 式の符号の意味と数値 | あり |
| 第5問 | 量子力学 | 第2周期の等核2原子分子の分子軌道、結合次数、常磁性 | — | あり |
| 第6問 | 溶解度から求める標準電池電位、錯形成による標準電極電位の変化、共存する金属イオンの析出条件 | — | あり |
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