阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学I 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)
解説5項目の分野は化学2項目、熱・統計力学1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 有機化学:アルケンへの付加、求核置換、合成経路、Robinson 環形成
有機化学:アルケンへの付加、求核置換、合成経路、Robinson 環形成の途中式・最終答をPDFで見る第2問 — 無機化学:八面体錯体の配位子場分裂、d電子配置、ルビーの光吸収
無機化学:八面体錯体の配位子場分裂、d電子配置、ルビーの光吸収の途中式・最終答をPDFで見る第3問 — 熱力学:2成分系の気液平衡と共沸混合物
設問(a) 可変度
相律の数え方は次の通りである。系の示強変数は、、 と、各相の成分の組成( と 。、 は従属)の合計 個である。これに対して、成分ごとに「液相の化学ポテンシャル = 気相の化学ポテンシャル」の式(成分 A と B で2本、一般に 本)が成り立つので、独立な変数は 個になる。一般式で書けば である。
2個の選び方は一通りではないが、選んだ2つで残りが決まる必要がある。 と を決めれば、沸点図・気液平衡図の点が定まり、 と が決まる(ただし、その と で2相が共存できる範囲に限る)。 を固定して を変える(b)以降の議論は、残りの可変度1を に使うことに当たる。可変度を3や1と答える誤りは、2相共存で化学ポテンシャルの等式が2本あることを忘れるか、純物質の相律 と混同した結果である。
設問(b) 式(3)の導出
使う関係と条件
出発点は、相平衡の条件「各成分の化学ポテンシャルが両相で等しい」である。式(1)の は、 における純物質 A の気液平衡(圧力 )での化学ポテンシャルを、基準として使う量である。 は だけで決まるので、 一定の微分では定数として扱える。この点が、式(3)の導出で と が消える理由になる。
が現れるのは、液体の純物質の化学ポテンシャルが圧力とともに増える割合が、モル体積に等しいからである。これは純物質の をモル量で書いた式から出る。偏微分で を固定するのは、左辺の量(、、)が 固定の気液平衡では だけの関数(可変度1)になるからである。
検算と誤り
理想気体では の圧力依存は なので、 が になる。もし を気体のモル体積 と取り違えると右辺は になり、式(3)にならない。 の微分を と書く誤りや、 の偏微分を (エントロピー)とする誤り( での微分と混同)もある。
設問(c) 式(4)の導出
近似の意味と大きさ
式(3)を から まで厳密に積分すると、 となり、右辺の第2項が省略した補正(Poynting 補正)である。 が圧力によらない(非圧縮性)とすると、この項は に等しい。圧力が 1 bar 程度で液体のモル体積が (仮定。有機液体ほどの大きさ)、 K とすると、補正は で、式(4)の誤差は約 0.4\% にとどまる。同じ仮定で気相の理想気体の体積は なので、 で近似の条件が成り立っている。圧力が 100 bar のように高くなると、補正は約 、つまり 倍になり、無視できない。
積分定数の決め方
活量係数の定義式(2)から、(純成分)では になる。この規格化が積分定数を決める唯一の根拠である。積分路は、 一定のまま、純物質 A の端から目的の組成まで気液平衡の曲線に沿う。式(2)は純液体を基準にした定義なので、定数は になる。活量係数を で とする基準(Henry 則基準)で定義し直すと、定数が から Henry 定数に変わり、式(4)の形ではなくなる。基準の取り違えが、この設問での誤りの主な原因である。
設問(d) 理想溶液は共沸混合物にならない
別の見方
式(4)と式(5)の比をとると、 となる(理想溶液)。左辺は成分 A の B に対する比揮発度で、一定値 をとる。共沸では なので比揮発度が 1 になるが、理想溶液では のままで、組成によらない。つまり気相はいつも揮発しやすい成分に富み、液相と等しい組成にならない。
全圧も確かめられる。 は の1次式で、傾き は 0 でない。気液平衡の圧力に極値がないことが共沸のない理由である(共沸点は全圧が組成に対して極大か極小になる点で、Konovalov の法則と呼ばれる)。仮に kPa、 kPa とすると、 kPa の範囲で は より大きく より小さい(たとえば kPa で )ので、1 にならない。
証明で外せない条件
と の確認が要る。 や は純物質で、混合物ではないので、そこで が成り立つことは共沸の定義に当たらない。割り算の前に と が 0 でないことを書かないと、証明に穴が残る。また、(c) の近似()のもとで成り立つ式(4)(5)を使う証明であることも、答案に書いておく。
設問(e) 共沸組成
モデルと使う条件
式(6)(7)は、過剰 Gibbs エネルギーを (1定数の Margules 式)とおいたときの活量係数で、 は同種分子どうしの引力が強く、混ぜると蒸気圧が上がる正のずれ、 は異種分子どうしの引力が強い負のずれを表す。共沸の条件は、液相と気相の組成が等しいことで、これを(c)で導いた式(4)(5)に入れると、 と が と純物質の蒸気圧だけで決まる。共通の を消去する(比をとる)のが、組成だけの式を得る鍵である。
図と数値で確かめる
仮に kPa、 kPa、 とすると、 になる。このとき 、 で、 kPa(共沸圧力)と一致する。全圧 を の関数として数値的に微分すると、 で (極大)になり、そこで である。
*[3pt]
自作図: kPa、 kPa、 の場合の 一定の圧力・組成図(これらの数値は説明用の仮定)。液相線と気相線が極大の共沸点で接する
符号と対称性の確認
なら対数が 0 で、 によらず になる(A と B を入れ替えても同じ式なので当然である)。 でも である。一方、 の中を と取り違えて符号を逆にすると、上の例で になり、A と B を取り違えた位置に共沸点が出る。 を使わずに を残すのも、解けなくなる原因である。
設問(f) 共沸が起こる の範囲
不等式の読み方
なら、 から が出る。 では、 で割ると不等号が反転するが、結果は と同じ形になる。共沸の有無は、 の大きさ(相互作用の強さ)と、純物質の蒸気圧の比の対数(揮発性の差)の比べ合いで決まる。2成分の揮発性が近い( が小さい)ほど、小さな でも共沸が起こる。 の境界では、共沸組成が純物質の端( か )に達し、 が を下回ると共沸点は消える。
符号と数値例
では全圧が組成に対して極大(最大蒸気圧、最低沸点の共沸)、 では極小(最低蒸気圧、最高沸点の共沸)になる。(e) の数値例( kPa、 kPa)では で、 や では 、 と範囲外になって共沸はなく、 で 、 で と範囲に入って共沸が現れる。 では で、最低蒸気圧の共沸が純成分 A の側に現れる。いずれも、圧力の極値を数値的に探した結果と一致する。
対数の落とし穴と範囲の端
の側だけを答えて、 の場合(最高沸点型の共沸)を落とす誤りが多い。また、 のように対数をとらずに書く誤りは、(e) の式に が現れることを見落とした結果である。等号を含める()と、 や の純物質が共沸組成になり、混合物の条件に反する。
解答
設問(a) 可変度
Gibbs の相律は、成分数 、相の数 のとき、可変度 が で与えられる。2成分()の気液平衡は2相()なので、 になる。独立に設定できる示強変数は2個で、たとえば と 、あるいは と である。残りの変数( と 、あるいは と )は、気液平衡の条件から決まる。
設問(b) 式(3)の導出
成分 A の化学ポテンシャルは、液相と気相で等しい。式(1)と式(2)を等しいとおくと と を左右に集めて整理すると 一定のまま で偏微分する。純物質 A の蒸気圧 と、そこでの化学ポテンシャル は だけの関数なので、 で微分すると になる。純物質のモル Gibbs エネルギーについて が成り立つので、 である。したがって となり、式(3)が得られる。
設問(c) 式(4)の導出
が に比べて無視できるとき、式(3)は となる。 一定で について積分すると である。積分定数 は、純物質 A の点(、)で決める。式(2)から、 のとき で なので、左辺は になり、 から である。したがって
設問(d) 理想溶液は共沸混合物にならない
理想溶液では である。式(4)と式(5)は となる。共沸混合物とは、液相と気相の組成が等しい混合物(、)で、混合物なので (、 はともに 0 でない)とする。第1式に を入れ、 で割ると になる。第2式に を入れ、 で割ると になる。したがって が必要だが、これは仮定 に反する。よって理想溶液は共沸混合物にならない。
設問(e) 共沸組成
共沸では 、 である。式(4)と式(5)から となり、辺々の比をとると 式(6)(7)を代入し、 を使うと である。これを について解くと
設問(f) 共沸が起こる の範囲
共沸混合物が実際に存在するには、(e)で得た が を満たす必要がある。 とおくと、 なので である。したがって 、すなわち のときに共沸が起こる。
最終答
設問(a) 可変度
可変度は 2。独立に設定できるのは、たとえば と (または と )の2つ。
設問(b) 式(3)の導出
式(3)が成り立つ。左辺の 、、 は、 一定の気液平衡で とともに変わる量である。
設問(c) 式(4)の導出
のとき、式(4) が成り立つ。
設問(d) 理想溶液は共沸混合物にならない
理想溶液で共沸するには が必要で、 とは両立しない。よって共沸混合物にならない。
設問(e) 共沸組成
()。共沸圧力は 。
設問(f) 共沸が起こる の範囲
共沸しうる範囲は ( または )。
第4問 — 量子化学:一次元の箱の中の電子と共役 π 電子系
量子化学:一次元の箱の中の電子と共役 π 電子系の途中式・最終答をPDFで見る第5問 — 電気化学:水素電極と銀・塩化銀電極からなる電池
電気化学:水素電極と銀・塩化銀電極からなる電池の途中式・最終答をPDFで見る年度別の解答例(4年度)
有機化学:反応剤の選択と合成経路の設計 / 無機化学:分子構造・Lewis酸塩基・配位化合物 / 熱力学:van der Waals気体の内部エネルギー・エントロピー・断熱変化
2025年度(このページ・解説5項目)
有機化学:アルケンへの付加、求核置換、合成経路、Robinson 環形成 / 無機化学:八面体錯体の配位子場分裂、d電子配置、ルビーの光吸収 / 熱力学:2成分系の気液平衡と共沸混合物
有機化学:求核置換の立体化学、合成経路、ピリジン、分子内 Michael 反応とアルドール反応 / 無機化学:NO の分子軌道、金属カルボニル、錯イオンの形と色 / 熱力学:連鎖則と Maxwell の関係、水の熱膨張、断熱変化の圧力応答
化学工学:円管の Hagen--Poiseuille 流れと、管径の等しい配管網の流量配分 / 有機化学:(R)-2-オクタノールの SN2 反応、置換ベンゼンとシス-ジオールなどの合成経路、シクロヘキセンとベンゼンの反応性、Robinson 環形成 / 無機化学:分子の電子構造と点群、鉄(II)錯体のスピン状態と配位子場安定化エネルギー
2025年度の出題内容
解説5項目
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 5問 → 2025年度 5問
大阪大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
- 公式の解答例
- 解答例の掲載なし
- 英語の扱い
- 受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-26