京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 数学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野は確率・統計1問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 微分積分・線形代数:基本計算7題
方針
既知の級数を代入する方法と,導関数を順に計算する方法の2通りがある。本問は2次までなので後者でも手間は同じだが,3次以上まで求める場合は前者が圧倒的に速い。 を先に展開して にしておくと, の最低次が2次であることがすぐ見え,2次の項の係数が から1, から0で合わせて1だと分かる。
検算
とすると より である。近似式の値は で,差は である。3次の項は上の計算から で,差の大きさと符号がよく一致している。展開の符号を取り違えていないことの確認になる。
失点しやすい点
第一に,マクローリン級数は のまわりのテイラー展開なので,展開の中心を書き添えると誤解がない。第二に, を としてしまう誤りが多い。交差項 が1次の係数2を生む主役である。第三に,「2次の項まで」と指定されているので,打ち切りの意味で または「」を付けておく。
設問2 曲面の接平面
方針
の形に書けている曲面なので,全微分 を接点で評価する標準の公式をそのまま使う。陰関数 とみて法線ベクトル を求めてもよく,接点では となって,上の対称形がそのまま出てくる。答案では公式に代入する1行を必ず残す。
検算
接点 を代入すると で成り立つ。また とすると接点は ,接平面は となり, という傾きと整合する。整理の途中で を掛け忘れると定数項が3にならないので,この代入は有効な確認になる。
幾何的な意味
, とすると,接平面が座標軸を切る点は ,, である。これらと原点が作る四面体の体積は で,接点の位置によらず一定である。 型の曲面がもつ古典的な性質で,答案に書く必要はないが,計算結果の妥当性を感じ取る目安になる。
失点しやすい点
「曲面上の点 」は 平面上の位置を指しており,接点の 座標は自分で と補う必要がある。定数項を のままにして にし損ねる誤りが最も多い。, という定義域の条件も一言添える。
設問3 1階線形微分方程式
方針
を見た瞬間に と気付けるかどうかで所要時間が変わる。気付かなくても標準形に直して積分因子を作れば必ず解けるので,答案では積分因子 を明示してから進めるのが安全である。 は部分積分で, を微分する側, を積分する側に取る。
検算
得られた を微分すると であるから となり,もとの方程式を満たす。 を含む項が打ち消し合うことまで確かめると,同次解 の形も正しいと確認できる。
解の構造
一般解は同次方程式 の解 と,特殊解 の和になっている。1階線形方程式の一般解が「同次解+特殊解」であるという構造を答案で一言示すと,任意定数が1つだけであることの説明にもなる。
失点しやすい点
積分定数を付ける位置を誤り, の段階で を落として最後に付けると が にならない。また の項は部分積分の第2項から出るもので,ここを落とすと検算が合わない。 という条件は の定義域と, で割る操作の正当化の両方に効いているので明記する。
設問4 半円板上の二重積分
直交座標による別解
を固定すると は から まで動くので となり同じ値を得る。被積分関数が の1次式だけなので,実は直交座標のほうが手数が少ない。答案ではどちらか一方を丁寧に書けばよい。
検算と意味
の面積は であるから,この積分は半円板の重心の 座標を与え, となる。半径1の半円板の重心が中心から の高さにあるという既知の結果と一致する。値が の範囲に入っていること,また上半分に限ったので正の値になることの2点で,符号と大きさの妥当性を確かめられる。
失点しやすい点
極座標に直すときヤコビアン を落とすと となって答えが になってしまう。また の条件を落として を から まで動かすと,対称性から積分値が になる。領域を図示して積分範囲を確定してから計算に入ると,この2つの誤りは避けられる。
設問5 3本のベクトルの1次独立性
答案の書き方
「その理由もあわせて具体的に述べよ」とあるので,行列式が であるという判定だけでは答え切っていない。 でない係数の組を1つ提示して等式を書くところまでが求められている。逆に,係数の組さえ示せば行列式の計算を省いても論理は閉じるが,判定の根拠として行列式も添えるほうが読み手に親切である。
別の示し方
掃き出し法で階数を求めてもよい。3本を列に並べた行列を簡約すると階数は2になり, 本のベクトルが張る空間が2次元であること,つまり1本が他の2本の1次結合で書けることが分かる。階数2という値は, と が平行でない(比が一定でない)ことから確認できる。
検算
で,3成分すべてが一致する。連立方程式を2式だけで解いた場合,残りの1式で必ず確認する。ここで合わなければ,そもそも1次従属ではない(行列式が でない)ことを意味する。
失点しやすい点
「行列式が だから従属」で止める答案,符号を1か所間違えて としてしまう答案が典型である。また「1次従属」と「どれか1本が である」ことを混同しないよう,定義(自明でない係数の組が存在する)に沿って書く。
設問6 正規直交基底の構成
方針
まず内積を計算して直交しているかを確かめるのが第一手である。直交していればグラム・シュミットの計算は不要になり,外積1回と正規化で終わる。もし直交していなければ, と直交化してから同じ手順に進む。本問は が仕込まれており,そこに気付けるかを試している。
外積以外の作り方
とおいて と を連立させても求まる。第1式から を第2式に代入すると より ,このとき となるので,解は という1次元の自由度をもち, の定数倍と一致する。外積を使うほうが速いが,公式を忘れても連立方程式で必ず作れる。
検算
内積を確かめると , で,どちらも直交している。さらに を確かめると, を列にもつ行列は直交行列になる。外積の向きの規約から,この順で並べた行列の行列式は である。
失点しやすい点
「正規直交基底」なので,直交させただけで正規化を忘れると減点される。外積の第2成分は の形で符号が入れ替わるため,計算をそのまま公式に当てはめると の符号を落としやすい。 で割って簡単なベクトルにしてから正規化すると,根号の中身が となり計算が軽くなる。
設問7 実対称行列の直交対角化
方針
実対称行列は必ず直交行列で対角化できる。手順は,固有多項式を因数分解する,各固有値の固有ベクトルを求める,正規化して列に並べる,の3段である。本問は固有値が相異なるので,固有ベクトルの直交性を自分で作る必要がなく,正規化だけで直交行列になる。固有値に重複がある場合は,重複固有値の固有空間の中でグラム・シュミットの直交化が必要になる。
検算
固有値の和は で, に一致する。固有値の積は で, に一致する。トレースと行列式の2つで確認すれば,固有多項式の係数の誤りはほぼ排除できる。個々の固有ベクトルも に代入して確かめられる。たとえば である。
答案の書く順序
「直交行列を求めよ」「その結果を用いて対角化せよ」と2段階で問われているので, を書いたあとに の形の等式まで書いて締める。対角成分の並びは の列の並びと対応させる必要があり, の第1列を の固有ベクトルにしたなら対角行列の 成分は である。この対応を崩すと誤答になる。
失点しやすい点
を と書く向きの誤り,正規化を忘れて直交行列でない行列を答えてしまう誤り, の固有ベクトルを と符号を取り違える誤りが多い。 が直交行列であることは を1行示せば足りるので,時間があれば添える。
第2問 — 確率統計・数理計画:確率変数,線形計画の双対,凸計画
方針
連続型確率変数の問題は,(i) 正規化条件 で未知定数を決める,(ii) 対称性を使って平均を出す,(iii) を計算して に入れる,という3段で必ず片付く。奇関数・偶関数の判定を先に済ませておくと,積分の手数が半分になる。
検算
同じ区間 上の一様分布の分散は である。本問の密度は上図のように中央が高く両端が なので,質量が原点近くに集まる分だけ分散は小さくなるはずで, は整合する。また より という上限とも矛盾しない。 については を暗算で確かめられる。
背景
()はカーネル密度推定で使われるエパネチニコフ核と同じ形で,平均 ,分散 という値もそこで標準的に現れる。滑らかな山型で台がコンパクトという扱いやすさから,教科書の例題によく採用される密度である。
失点しやすい点
分散を のまま答えてしまう(本問は なので偶然一致するが,定義式は書く),積分範囲を のままにして発散させる, を と誤る,といった誤りが典型である。 が正であること(密度が非負であること)にも一言触れておくと丁寧である。
設問2 線形計画問題の双対と単体法
別解:主問題を解いて読み取る
双対問題の双対は主問題であり,主問題は最大化・・右辺非負なのでスラック変数 を入れるだけで初期実行可能基底が得られる。通常の単体法を適用すると, から出発し, を入れて を出す, を入れて を出す,という2回の枢軸演算で という最適表に達する。最終表の目的関数行でスラック変数の列に現れる値 がそのまま双対問題の最適解であり,上の結果と一致する。2つの表は互いに転置の関係にあり,主問題の最適解 は双対単体法の最終表の 列から読み取れる。
双対定理と相補性の確認
主問題の最適値は で,双対問題の最適値 と一致する(強双対定理)。相補性条件も次のように整合する。双対の第1制約は と余裕があり,対応する 。, なので主問題の第1・第2制約は等号で成立し,実際 , である。 に対応する主問題の第3制約は で余裕がある。答案の最後にこの確認を1行入れると,計算ミスがないことを示せる。
2段階法を使う場合
双対単体法を使わずに通常の単体法だけで解くなら,双対問題の3本の 制約それぞれに余剰変数と人為変数を入れ,第1段階で人為変数の和を最小化して実行可能基底を作り,第2段階で を最小化する。手順としては正しいが,変数が9個に増えて表が大きくなり,試験時間内では割に合わない。 の符号条件から出発点が定まらない形の問題では,双対単体法か,主問題を解いて読み取る方法を選ぶのが実務的である。
失点しやすい点
双対問題を作るとき,最大化・ の主問題に対して双対は最小化・ になり,係数行列は転置,目的関数の係数と右辺が入れ替わる,という対応を1つでも取り違えると以降がすべて崩れる。また双対変数の非負条件 を書き忘れる答案が多い。単体表では,出す行を右辺の負値で選ぶ(双対単体法)のと,入れる列を目的関数行で選ぶ(通常の単体法)のとで基準が逆であることを意識する。
この設問が試していること
双対問題を機械的に書けるかどうかに加え,「双対問題の最適解は主問題の最適表の中にすでに入っている」という双対定理の意味を理解しているかを試している。経営科学の文脈では は第 制約の資源1単位あたりの限界価値(シャドープライス)であり,本問なら第1の資源を1単位増やすと最適値が 増え,第3の資源は余っているので価値が である,と読める。
設問3 凸計画問題とKuhn--Tucker条件
方針
1) で凸計画問題の定義を書き,2) でヘッセ行列の正定値性から凸性を示し,3) でKuhn--Tucker条件を並べ,4) でそれを解く,という流れが問題文にそのまま用意されている。したがって4)を解くときに,2)で示した凸性を根拠として「Kuhn--Tucker点が大域最適解である」と結論づけることが,設問どうしをつなぐ要点になる。ここを書かずに「Kuhn--Tucker点を求めた」で終えると,最適解であることの論証が抜ける。
凸性の示し方
2変数の関数の凸性は,ヘッセ行列が半正定値であることと同値である。判定は首座小行列式( かつ ,狭義なら )を書けばよく,固有値を求める必要はない。固有値で示すなら の固有値は と でともに正である。制約側は「凸関数の劣位集合 は凸集合」という定理を引用する形が最短である。
検算
目的関数を平方完成すると で,等号は かつ のとき,すなわち原点だけである。原点は実行可能なので,制約を考えるまでもなく原点が最小点だと分かる。Kuhn--Tucker条件から得た答えがこの直接の議論と一致することが確認になる。平方完成は凸性(正定値性)の別証明にもなっている。
制約が効く場合との対比
同じ問題を最大化に変えると事情が変わる。 の等高線は 方向に対する係数が , 方向に対する係数が の楕円なので,単位円上での の値は から まで動き,最大値 は とその反対点で達成される。このとき制約は有効になり乗数は正になる。最小化では制約が効かず,最大化では効くという対比を押さえておくと,相補性条件の使い方が身につく。
失点しやすい点
最小化問題のラグランジュ関数を と符号を逆に置くと, の向きが合わなくなる。 の最小化では , が正しい向きである。また,はじめから制約が有効()と決めつけてラグランジュの未定乗数法で解くと, という条件違反の解しか出てこない。相補性条件のもとで「制約が有効な場合」と「有効でない場合」を分けて調べる姿勢が求められている。
年度別の解答例(4年度)
確率統計・線形代数:二項分布のポアソン近似と定数係数線形微分方程式 / 数理計画・空間ベクトル:凸2次計画のKuhn--Tucker条件と平面への直交射影
確率・統計と最適化:ポアソン過程,最小二乗法,ラグランジュ乗数法 / 線形代数と微分積分:逆行列,行列のべき乗,積分,微分方程式
微分積分・線形代数・確率の基本6題 / 確率統計・積分・線形計画法の5題
2023年度(このページ・全2問)
微分積分・線形代数:基本計算7題 / 確率統計・数理計画:確率変数,線形計画の双対,凸計画
2023年度の出題内容
全2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26