京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 経済学 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野はマクロ経済学1問、ミクロ経済学1問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — ミクロ経済学:消費者理論・複占・外国独占企業
答案の分量
「簡単に説明」と指示があるので,各語句は定義を1文,記号や式を1本,補足を1文の3点で足りる。5語句で解答用紙の半ページ程度が目安である。
失点しやすい点
補償需要は「効用を一定に保つ需要」と書くだけでは支出最小化の定式化が伝わらない。スルツキー方程式かシェパードの補題のどちらかを添えると,代替効果との関係まで理解していることが示せる。契約曲線は「無差別曲線の接点の集まり」と書くだけでなく,MRS の一致という条件式で書く。サンク・コストは「固定費用」と混同しやすいが,固定費用でも回収可能なら埋没費用ではない。混合戦略は,ナッシュの存在定理と「相手を無差別にする」という均衡の性質のどちらかに触れると,単なる定義以上の理解を示せる。
設問2 認知バイアス下の需要関数
方針
効用関数が 型(準線形)なので,複合財 の限界効用が1で一定になり,財Aの需要は所得に依存しない。予算制約を代入して1変数の最大化に落とすのが最短で,ラグランジュ乗数を立てる必要はない。誤認している効用関数で最大化させる,という問題設定を読み違えて真の効用関数で解くと, が消えて 2) が成り立たなくなる。
2) の読み方
と の関係を「導きなさい」とあるので,式 を出すだけでなく, が「バイアスがないときの効用減少」であることを一言添える必要がある。これは間接効用関数を価格で微分すると需要量の符号を変えたものになる(準線形効用ではロワの恒等式がこの形になる)という性質で,答案では を実際に微分して示すのが確実である。
内点解の条件
の制約があるので, なら消費者は所得をすべて財Aに使い,需要は になる。問題文は「 は0以上の実数」と明示しているので, という条件を書いておくと減点されにくい。
経済的な意味
は財Aへの過大評価の度合いである。需要は で真の最適 より多く,価格が上がったときの「損」も大きく感じる。行動経済学でいう投影バイアスや現在志向の議論と同じ構造で,価格規制や課税の効果を評価するときに,消費者の主観的な厚生と真の厚生を区別する必要があることを示す設問である。
設問3 複占市場と結託の持続条件
方針
1) と 2) は線形需要・限界費用0の標準的な計算で,答えの と は暗記していてもよいが,答案には反応関数と一階条件を書く。3) は「結託の利得の現在価値 逸脱の利得の現在価値」という不等式を立てることがすべてで,逸脱時の一期利潤 を求める部分が計算の山場になる。
逸脱利潤の求め方
逸脱する企業は「その期だけ」最適反応をとるので,相手の を所与とした反応関数の値 を使う。相手の生産量を (クールノー)と取り違えると になり,不等式が意味をなさない。逸脱期の利潤は と,残余需要の切片 の半分の2乗として覚えると検算が速い。
検算
を代入すると,, で一致する。また では結託が必ず持続し, では一期限りの利得比較 で逸脱が有利になるので,境界が の内側にあることも整合的である。線形需要・限界費用一定のクールノー複占でトリガー戦略が維持される臨界値 は,繰り返しゲームの教科書的な結果として知られている。
答案に書く順序
(i) 結託継続の現在価値,(ii) 逸脱期の最適生産量と利潤,(iii) 逸脱後の利潤(クールノー),(iv) 不等式と整理,の4段で書くと採点者が追いやすい。 の利用が許されているので,等比級数の導出は不要である。
設問4 外国独占企業と国内企業の参入
方針
図示問題なので,面積を塗り分けて記号を付け,各面積が何を表すかを1行ずつ書く。図1は独占の標準的な余剰図で,限界費用が一定だから生産者余剰が長方形になる点を明示する。図2で問われているのは「独占企業が認識する需要曲線」が残余需要 に変わることの理解で,太線がなぜ折れ線になるか( の切片より低い価格では国内企業が供給しないので に一致する)を説明できると差がつく。
図2で押さえること
独占企業の意思決定は残余需要に対して行われるので,限界収入も残余需要から導く。上の数値例では残余需要 の限界収入 を に等しいとおいて , となり,参入前の より低くなる。問題の図2でも が図1より低い位置に点線で示されており,参入によって価格が下がり,独占企業の供給量が減ることを図で確かめられる。
国内厚生の見方
B国企業の生産者余剰は国外に移転するので,A国の厚生は消費者余剰と国内企業の生産者余剰の和 である。参入前は だけであったから,参入は A国の厚生を確実に高める。独占企業の利潤 は小さくなるが,これはA国の厚生には数えない。問題文の「利潤をB国に移動させる費用は無視する」は,この移転を単純に扱ってよいという指示である。設問は図示までだが,解説として一言添えると答案の理解の深さが伝わる。
失点しやすい点
図2で消費者余剰を「残余需要の下」にとる誤りが多い。消費者は国内需要曲線 に沿って購入しているので,消費者余剰は と価格線の間である。逆に独占企業の限界収入は残余需要から導くので, の限界収入を使うと供給量が過大になる。国内企業の生産者余剰は供給曲線の上・価格の下であり, が縦軸と交わる価格から始まる三角形になる。
第2問 — マクロ経済学:用語・金融政策の効果・ソロー・モデル
答案の分量
「簡潔に」とあるので各用語3〜4行で十分である。GNI は GDP との関係式,摩擦的失業は自然失業率との関係,ランダムウォーク仮説は式 と「合理的期待+恒常所得仮説」という前提を書くと,定義だけの答案と差がつく。
失点しやすい点
GNI を「GDP+貿易収支」と書く誤りがある。加えるのは財・サービスの純輸出ではなく要素所得の純受取である。摩擦的失業を「景気が悪いために生じる失業」と書くと循環的失業との混同になる。ランダムウォーク仮説は「消費は所得に依存しない」という意味ではなく,「消費の変化は予想外の所得変化にだけ反応する」という意味である。
設問2 拡張的な金融政策の効果
方針
3つのモデルを別々に説明するのではなく,「予期されない場合は短期に実質変数が動き,長期には物価だけが動く。予期された場合は短期を飛ばして長期の結果になる」という一つの筋で書く。1) で短期と長期の両方を書いておくと,2) は「期待が最初から調整されるので 1) の長期均衡に直ちに到達する」と短く書けて,対比が明確になる。
3つのモデルのつなぎ方
IS-LM は物価一定の下で総需要(AD 曲線上の1点)を決める。AD-AS は物価を内生化し,SRAS の位置が期待物価で決まる。フィリップス曲線は AD-AS の産出量ギャップをオークンの法則で失業率に読み替え,物価水準の変化をインフレ率に読み替えたものである。答案でこの対応(, の上昇 )を一言書くと,3つの説明が同じ現象の3つの表現であることが伝わる。
図の使い方
図を使ってよいので,1) は各モデルで2点( と )を示すだけで足りる。2) は から真上の点への移動になる。3枚とも自然産出量・自然失業率の垂直線(LRAS,LRPC)を描いておくと,短期の逸脱と長期の復帰が同じ図で説明できる。
失点しやすい点
予期された場合でも「LM 曲線が右にシフトする」と書いてしまう答案が多い。名目貨幣量は増えているが物価も上がるので,実質貨幣残高は変わらない,という点が核心である。また,予期されない場合の長期の説明を省くと,「一時的な効果」であることが示せず,2) との対比が弱くなる。フィリップス曲線では,曲線上の移動(予期されない)と曲線のシフト(期待の調整)を区別して書く。
背景
この設問はルーカスの合理的期待に基づく政策無効命題(Sargent--Wallace)の内容を,学部レベルのモデルで説明させるものである。系統的で予期される金融政策は実質変数に影響せず,予期されないショックだけが短期の変動を生む,という結論を最後に一文で書くと締まる。
設問3 ソロー・モデル
方針
1) は という対数微分の関係を使うのが最短である。商の微分 から出発しても同じ結果になるが,式が長くなる。 の変形で生産関数の1次同次性()を使う。
黄金律の2通りの導き方
本解答は「定常状態の消費を の関数として最大化し,その を実現する を求める」という順で書いた。 を で直接微分してもよく,対数をとって から が出る。どちらでも答えは で,「資本分配率に等しい貯蓄率」という解釈を添える。
4) の書き方
「示しなさい」なので, という恒等式と「定常状態で が一定」の2点を明示すれば十分である。成長率で示す別解( と がともに率 で成長)を添えると,定常状態が均斉成長経路であることの理解も示せる。
検算
,,, とすると , で,資本産出比率が に一致する。黄金律では で,このとき は の場合より大きくなることを数値で確かめられる。
失点しやすい点
1) で人口成長率 を落として と書く誤りが最も多い。1人当たりに直すと,人口増加が資本を「薄める」効果 が入る。3) で黄金律の条件を と書いた後,それが「貯蓄率」の条件 に対応することまで書かないと設問に答えたことにならない。
年度別の解答例(4年度)
2026年度(このページ・全2問)
ミクロ経済学:消費者理論・複占・外国独占企業 / マクロ経済学:用語・金融政策の効果・ソロー・モデル
ミクロ経済学:語句説明・2期間消費・長期均衡と課税 / マクロ経済学:国民経済計算・IS-LM モデル・ソロー・モデル
ミクロ経済学:独占の等利潤曲線・労働供給・逆選択 / マクロ経済学:国際収支・小国開放経済・AD-AS
ミクロ経済学:独占・限界効用・差別化財市場 / マクロ経済学:マンデル=フレミング・成長モデル
2026年度の出題内容
全2問
前年度(2025年度)との違い
- 大問数
- 2025年度 2問 → 2026年度 2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26