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京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 経済学 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)

全2問の分野はマクロ経済学1問、ミクロ経済学1問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — ミクロ経済学:独占の等利潤曲線・労働供給・逆選択

答案の分量

「簡単に説明」との指示なので,1語につき定義1文,記号または式1本,補足1文の3点で足りる。5語で解答用紙の半ページから2/3ページが目安である。式を1本添えるだけで,定義を文章で述べただけの答案と明確に差がつく。

失点しやすい点

期待効用関数は「効用の期待値」と書くだけでなく,独立性公理と危険回避(uu の凹性)の対応まで書く。レオンチェフ型は「min⁡\min で書ける」ことに加え,代替の弾力性が 00 である点を落とさない。公共財は非競合性と非排除性の2つをともに述べ,サミュエルソン条件が限界代替率の和であることを強調する。部分ゲーム完全均衡を「後ろ向き帰納法で解いた均衡」とだけ書くと,不完全情報を含む一般の定義を落とすことになる。コースの定理では「取引費用ゼロ」という前提を明記しないと,定理を無条件に成り立つ主張として誤読した答案に見える。

設問2 独占の等利潤曲線とパレート優位な領域

方針

3つの小問はすべて「(p,Q)(p,Q) 平面に描いた曲線の傾きと曲がり方」を問うている。したがって,どの小問でも曲線を式で表し,1階微分と2階微分の符号を確かめてから図に落とす,という手順を答案に残す。1) は p=c+Πˉ/Qp=c+\bar{\Pi}/Q,2) は dp/dQ=(u′(Q)−p)/Qdp/dQ=(u'(Q)-p)/Q,3) はこの2つの傾きの比較,という順で一本につながっている。

1) で「注意深く」と書かれている理由

問題文は Πˉ2>Πˉ1≥0\bar{\Pi}_{2}>\bar{\Pi}_{1}\ge0 とわざわざ等号を許している。Πˉ1=0\bar{\Pi}_{1}=0 のとき等利潤曲線は直線 p=cp=c に退化し,凸性が失われる。「双曲線だから原点に対して凸」とだけ書くと,この境界の場合を落とすことになる。凸か否かを問う設問で等号つきの条件が与えられているときは,退化する場合を必ず1文添える。

3) の検算

数値例で Q=8Q=8 を代入すると,等利潤曲線は p=2+25/8=5.125p=2+25/8=5.125,無差別曲線は p=12−4−1.5625=6.4375p=12-4-1.5625=6.4375 となり,確かに無差別曲線が上にある。逆に Q=4Q=4 では 8.258.25 と 6.8756.875 で上下が入れ替わり,Q<Q∗Q<Q^{*} 側に領域がないことが確かめられる。さらに (p∗,Q∗)=(7,5)(p^{*},Q^{*})=(7,5) での等利潤曲線の傾きは −25/25=−1-25/25=-1 で,需要曲線 p=12−Qp=12-Q の傾き −1-1 に一致する。接していることが数値でも確認できる。

経済的な意味

この領域が空でないことは,独占均衡がパレート効率的でないこと,すなわち死荷重が生じていることを意味する。総余剰を最大にする数量は限界評価が限界費用に等しくなる u′(Q)=cu'(Q)=c,数値例では 12−Q=212-Q=2 より Q=10Q=10 であり,これはレンズの内側にある。企業は単一価格しか提示できないためこの領域に到達できないが,二部料金や数量割引のように価格と数量の組を直接提示できれば,両者ともに得をする取引に移れる。この設問は,独占の非効率を「需要曲線と限界収入」ではなく「等利潤曲線と無差別曲線」という2つの目的の表現で読み替えられるかを試している。

失点しやすい点

3) で領域を「等利潤曲線の上側」だけ,あるいは「無差別曲線の下側」だけで答えてしまう答案が多い。パレート優位は両者が同時に悪化しないことなので,2つの条件の共通部分をとる。また,無差別曲線の頂点が (p∗,Q∗)(p^{*},Q^{*}) にあることを示さずに図を描くと,領域が Q<Q∗Q<Q^{*} 側にも広がる誤った図になる。頂点であることは 2) の結論をそのまま使えばよい。

設問3 累進的な労働所得税と労働供給

方針

「増えるか減るか」ではなく「どのような特性が関わるか」を問う設問なので,結論を断定せず,スルツキー分解の2つの効果と,それぞれを支配する選好の性質を対応づけて書くのが本筋である。答案の骨格は,(i) 予算線が折れることの確認,(ii) 仮想的な線形予算との差を代替効果と所得効果に分ける,(iii) 各効果の向きと大きさを決める選好の性質を挙げる,の3段でよい。

仮想所得を使った別の見方

l<l∗l<l^{*} の線分を延長すると,切片は c=(1−τ−Δτ)wTˉ+Δτ y∗c=(1-\tau-\Delta\tau)w\bar{T}+\Delta\tau\,y^{*} になる。つまりこの労働者は,手取り賃金率 w(1−τ−Δτ)w(1-\tau-\Delta\tau) と非勤労所得 Δτ y∗\Delta\tau\,y^{*} からなる線形予算に直面しているのと同じである。数値例では 0.5×10+0.3×2=5.60.5\times10+0.3\times2=5.6 で,図の切片と一致する。この「仮想所得」の考え方は,非線形税制の労働供給を線形の枠組みに戻す標準的な道具で,答案に1文添えると理解の深さが伝わる。

税率の読み方

問題文を「所得が y∗y^{*} を超えたら所得全体に τ+Δτ\tau+\Delta\tau が課される」と読むと,予算線は y=y∗y=y^{*} で下向きに不連続に飛び,予算集合は非凸になる。このとき y∗y^{*} をわずかに超える労働時間は選ばれず,労働者はキンク直下に集積するか,飛びを越えて大きく働くかのどちらかになる。ただし内点解どうしの比較であれば,代替効果と所得効果の分解という議論の構造は変わらない。答案では超過累進として解き,読み方の但し書きを1行添えれば十分である。

失点しやすい点

「税率が上がるから働かなくなる」とだけ書くと,代替効果しか見ていない答案になる。逆に「手取りが減るから生活のためにより働く」とだけ書くと所得効果しか見ていない。両方を挙げ,どちらが勝つかは選好次第だと結論するのが正しい。また,図で仮想的な予算線を描き忘れると比較の基準が示せない。l≥l∗l\ge l^{*} の区間では両者が完全に一致することも図に反映させる。この設問は,非線形な税制を予算制約に翻訳し,比較静学を2つの効果に分解できるかを試している。

設問4 中古車市場における逆選択

方針

逆選択の問題は,(i) どのタイプが売るかを価格の関数として書く,(ii) 売りに出される財の質の期待値を求める,(iii) 買い手の支払意思額と売り手の留保価格を比べる,という3段で機械的に処理できる。本問では留保価格が 00 と 1010 の2点しかないので,両タイプが参加する状況は p≥10p\ge10 に限られ,あとは買い手の参加条件を1本立てるだけで済む。

等号の扱い

α=(k−1)/k\alpha=(k-1)/k のとき p=10p=10 で買い手の期待効用がちょうど支払額に等しく,v=10v=10 の売り手も価格が価値にちょうど等しい。どちらも無差別なので,取引が成立するかどうかは「無差別なら取引する」という仮定に依存する。問題文が「pp が vv 以上である時には売ろうとする」と等号を含めて書いているので,買い手側も同じ規約とみて等号を含めるのが自然である。答案では境界の扱いを1行書き添えておけば,どちらでも減点されない。

検算

k=2k=2 なら α≤1/2\alpha\le1/2 で,低品質車が半分までなら市場は成立する。k→1+k\to1^{+} では α→0\alpha\to0 となり,買い手の評価が売り手とほとんど変わらないときは,わずかな低品質車の混入でも高品質車が市場から消える。k→∞k\to\infty では α→1\alpha\to1 となり,買い手の評価が十分に高ければどれほど低品質車が多くても取引が成り立つ。いずれも直感と整合的である。

条件が破れた場合

α>(k−1)/k\alpha>(k-1)/k のとき,p≥10p\ge10 では買い手が損をするので価格は 1010 未満になり,v=10v=10 の売り手は市場から退出する。すると売られるのは v=0v=0 の車だけになり,買い手の期待評価も 00 に下がって,価格 00 の低品質車のみの市場に縮小する。取引の利益(k>1k>1 なので v=10v=10 の車には 10(k−1)>010(k-1)>0 の余剰がある)が実現しないという意味で非効率であり,これがアカロフのレモン市場である。この設問は,逆選択の均衡条件を「買い手の期待評価」と「売り手の参加条件」という2本の不等式に落とせるかを試している。

失点しやすい点

買い手の期待評価を k⋅E[v]k\cdot E[v] ではなく E[v]=10(1−α)E[v]=10(1-\alpha) としてしまうと,kk が答えに入らず α\alpha の範囲が求まらない。また,v=0v=0 の売り手の参加条件を忘れて p=10p=10 だけを扱うと,「両タイプが参加している」という設問の条件を使い切れない。v=0v=0 の売り手は p≥10>0p\ge10>0 で必ず売るので,実際に効いている制約は買い手側だけである,という整理を明示すると論理が通る。

ミクロ経済学:独占の等利潤曲線・労働供給・逆選択の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — マクロ経済学:国際収支・小国開放経済・AD-AS

答案の分量

「いずれも簡潔に解答すること」とあるので,1項目につき定義2〜3行,式1本,日本の動き2〜3行が目安である。近年の動きは方向(上昇・下落,黒字・赤字)と背景の要因を1つずつ挙げれば足り,年月や数値は自信のあるものだけを書く。

失点しやすい点

実質為替レートで ε=EP∗/P\varepsilon=EP^{*}/P の分子と分母を取り違えると,減価と増価が逆になる。EE を円/ドルで定義したのだから,EE が上がる(円安)ときに ε\varepsilon も上がる向きに式を組む,と覚えるとよい。名目長期金利は「短期金利との関係に触れること」と明示されているので,期待仮説の式かイールドカーブのどちらかを必ず書く。サービス収支を貿易収支に含めたり,第一次所得収支(対外資産からの利子・配当)と混同したりする誤りも多い。旅行収支はサービス収支の一部である。

設問2 小国開放経済における金利平価とマンデル=フレミング・モデル

方針

1) は誘導が丁寧に付いているので,1◯\raisebox{0.1ex}{\textcircled{\scriptsize 1}},2◯\raisebox{0.1ex}{\textcircled{\scriptsize 2}} の答えを式で書き,等置するだけでよい。大事なのは「EE は自国通貨/外国通貨」という単位の指定で,xx[円]÷ EE[円/ドル]=[ドル]と単位で確かめる習慣をつける。2) と 3) はどちらも1) の式を IS-LM に接続する問題であり,EeE^{e} を固定するか Ee=EE^{e}=E とするかの違いだけで結論が大きく変わる。

2) の要点

標準的なマンデル=フレミング・モデルでは r=r∗r=r^{*} が課され,変動相場制での金融引締めは YY を減らすが rr は動かない,という結論になる。本問はあえて Ee≠EE^{e}\ne E かつ EeE^{e} 外生としているので rr が内生化される。rr が上がると期待減価率 (Ee−E)/E(E^{e}-E)/E が上がるように EE が下がって裁定条件が回復する,という調整過程を1文書いておくと,rr が r∗r^{*} から離れられる理由が伝わる。

NXNX を不確定と答えてよい理由

YY と EE が逆方向に NXNX を動かすので,与えられた仮定だけでは符号は決まらない。「不確定」と答えたうえで,どの経路がどちら向きに効くかを分けて書くのが満点の答案である。なお,r=r∗r=r^{*} が課される標準モデルであれば II が不変になり,Y=C+I+G+NXY=C+I+G+NX から NXNX の減少が確定する。仮定の違いで結論が変わることを意識したい。

3) の別の説明

マネタリーベースは国内信用と外貨準備の和である。固定相場を守るための介入は外貨準備を変化させ,不胎化しない限りマネタリーベースを同額だけ動かすので,国内信用を絞っても外貨準備の増加で相殺される。この設問は,金利平価という1本の裁定条件が,為替制度の選択と金融政策の自由度を同時に規定していることを理解しているかを試している。

設問3 AD-AS モデルと IS-LM モデルによる短期・長期分析

方針

2つの図を並べて描き,同じ点 A,B,CA,B,C に同じ記号を付けるのが要点である。AD-AS図で YY と PP を決め,決まった PP をIS-LM図に持ち込んで rr を読む,という順序を守れば混乱しない。IS-LM図でLM曲線が動く理由は貨幣供給量ではなく物価水準の変化である,という点を必ず書く。なお 1) は需要ショック,2) は供給ショックで,短期に YY と PP が同方向に動くか逆方向に動くかで見分けられる。利子率はどちらの場合も物価と同方向に動く。

短期と長期の区別

短期と長期を分けているのは期待物価 EPEP の調整だけである。「長期には Y=YˉY=\bar{Y}」は,SRASの式に EP=PEP=P を代入すれば a(Y−Yˉ)=0a(Y-\bar{Y})=0 から直ちに出る。2) では Yˉ\bar{Y} 自体が下がっているので,戻る先は当初の Yˉ0\bar{Y}_{0} ではなく新しい Yˉ1\bar{Y}_{1} である。

現実への接続

実際の感染症下では,供給制約と同時に外出の抑制による需要の落ち込みも生じた。AD曲線も左にシフトする場合,YY の減少は確実だが物価への影響は不確定になる。答案は供給ショックとして解いたうえで,需要側の縮小が同時に起これば物価の効果は弱まる,と1行添えるとよい。この設問は,物価の変化がLM曲線を通じて利子率に跳ね返る経路を追えるかを試している。

失点しやすい点

1) で長期の追加的な物価下落に触れないと指示に答えていない。3変数それぞれについて当初・短期・長期の大小を並べて締める。2) では,短期の Y1Y_{1} が新しい自然産出量 Yˉ1\bar{Y}_{1} より大きいことを見落とす誤りが多い。SRASが右上がりなので,需要が支える分だけ YY は Yˉ1\bar{Y}_{1} を上回る。

マクロ経済学:国際収支・小国開放経済・AD-ASの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(全2問)

    ミクロ経済学:消費者理論・複占・外国独占企業 / マクロ経済学:用語・金融政策の効果・ソロー・モデル

  • 2025年度(全2問)

    ミクロ経済学:語句説明・2期間消費・長期均衡と課税 / マクロ経済学:国民経済計算・IS-LM モデル・ソロー・モデル

  • 2024年度(このページ・全2問)

    ミクロ経済学:独占の等利潤曲線・労働供給・逆選択 / マクロ経済学:国際収支・小国開放経済・AD-AS

  • 2023年度(全2問)

    ミクロ経済学:独占・限界効用・差別化財市場 / マクロ経済学:マンデル=フレミング・成長モデル

2024年度の出題内容

全2問

この2問の分野はマクロ経済学1問・ミクロ経済学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問ミクロ経済学独占の等利潤曲線・労働供給・逆選択1) で「注意深く」と書かれている理由 / 3) の検算あり
第2問マクロ経済学国際収支・小国開放経済・AD-AS2) の要点 / NX を不確定と答えてよい理由あり

2024年度の解説には失点しやすい点2件・検算1件が付いています。

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 2問 → 2024年度 2問
2023年度の解答例

京都大学の公式過去問

公開年度範囲
2023〜2026(直近4年)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
院試hubの最終確認
2026-09-26
京都大学の公式過去問PDF