京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 会計学 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野は会計2問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 財務会計・ガバナンス:役員報酬と業績連動型報酬
答案の組み立て
指定語句が4つあるので,「会社法上の位置づけ(会社法・職務執行の対価) 会計上の費用概念 実態の同一性(経済的実態・業績連動型) 具体的な処理(引当金)」の順に置くと,語句が自然な順序で1回ずつ現れ,論理が一本になる。分量は解答用紙で半ページから1ページが目安である。小見出しを付けず4段落で書いてもよいが,段落の先頭に「第1に」「第2に」と番号を振ると採点者が論拠の数を数えやすい。
指定語句のつなぎ方
指定語句は「使えばよい」ものではなく,語句どうしの関係を書かせるための誘導である。ここでは,会社法が賞与を職務執行の対価と位置づけたという法的な形式面と,賞与が業績連動型報酬と経済的実態を同じくするという会計的な実質面が,同じ結論を別の側面から支えている,という構造を明示する。片方だけでは論拠が半分になる。会社法の改正は費用処理の直接の原因ではなく,従来の処理の前提を失わせた事情であり,会計処理を決めるのは経済的実態のほうである,という順序で書くと理解の深さが伝わる。
失点しやすい点
第1に,「会社法が費用処理を要求したから」と書くのは誤りである。会社法は報酬等の決定手続を定めるにとどまり,会計処理そのものを定めていない。第2に,「利益処分では利益が減らないから費用にすべきだ」という説明は結論の言い換えであって論拠にならない。減るか減らないかではなく,株主との資本取引か損益取引かという区別で論じる。第3に,引当金処理に触れずに終える答案が多い。決議前の期末に負債を認識してはじめて発生主義の主張が完結するので,一文でよいので加える。
この設問が試していること
基準の結論を覚えているかではなく,法制度の変更と会計上の概念のどちらが会計処理の根拠になるのかを区別できるか,そして実質優先(形式ではなく取引の実態に従って処理する)という考え方を具体例に当てはめられるかを試している。
設問2 業績連動型報酬とエージェンシー問題
論述の順序
指定語句が「プリンシパル・エージェント・モラル・ハザード・インセンティブ」と並んでおり,これはそのまま論理の順序でもある。すなわち,(i) 誰が依頼人で誰が代理人かという関係の設定,(ii) 行動が観察できないという情報の非対称性,(iii) そこから生じるモラル・ハザード,(iv) 報酬契約による解決としてのインセンティブ,という4段で書けば指定語句を自然に消化できる。逆に語句を最初にまとめて定義してから本論に入る書き方は,字数を使うわりに論理が見えにくい。
式を書くかどうか
会計学の答案として式は必須ではない。ただし という1本の式を置くと,「固定給 と連動部分 の組み合わせ」という報酬構造が明確になり, を大きくすることの利点と欠点を短く対比できる。時間に余裕がなければ,「連動を強めるほど努力は増えるが,役員は自分で制御できない業績変動まで負わされるので,その分だけ高い報酬を要求する」と言葉で書けば足りる。
業績連動型報酬の負の側面
意義を問われた設問だが,一方向の礼賛で終えると評価されにくい。連動を強めると,会計方針や見積りを通じた利益マネジメント,研究開発費や修繕費の削減による短期利益の作り込み,株式報酬の下での過度なリスクテイクといった逆効果が生じる。単一の指標に強く連動させるほどこの歪みは大きくなる,という一文を置くと,設問3の「2つの指標を組み合わせる意義」へ自然につながる。
失点しやすい点
モラル・ハザードを保険の文脈の説明(加入者が注意を怠る)だけで済ませると,役員報酬の議論につながらない。ここでは「株主が役員の行動を観察できないこと」に必ず結びつける。また,インセンティブを「やる気」と言い換えるだけでは不十分で,報酬関数の傾き が役員の最適な努力水準を変えるという機構まで書く。プリンシパルとエージェントを単なる訳語の言い換えとして使い,誰が誰なのかを明示しない答案も減点されやすい。
設問3 会計利益と株価を組み合わせる意義
方針
指定語句がないので,答案の設計そのものが問われている。「2つの指標の性質の違いを整理する 違いがあるからこそ組み合わせに意味がある,という論点を複数示す まとめる」という構成が最も書きやすい。性質の違いは,時間軸(過去と将来),撹乱の源(会計上の見積りと市場要因),操作可能性(内部の測定と外部の評価)の三つの軸で対比すると,そのまま意義の三点に対応する。
数値による確認
,, とすると , となり,利益だけを用いたときの より小さい。一方 では となり,頂点が にあるので 上では単調に減少し,最小値は における ,すなわち利益だけを用いる場合に一致する。撹乱が強く相関していれば組み合わせの利得は消える,という境界の挙動が確かめられる。組み合わせが有効なのは指標が独立な情報をもつ場合だ,という条件をこの計算が示している。
背景
の最適化は,Holmström (1979) の情報性の原理を線形契約の枠組みで表したものである。時間軸の議論は Holmström and Milgrom (1991) のマルチタスク・モデルに対応し,複数の職務のうち測定しやすいものだけに報酬を連動させると,測定しにくい職務への努力が減ることを示す。答案でこれらの名前を挙げる必要はないが,「測られるものだけに努力が向かう」という一般命題として書けると説得力が増す。
失点しやすい点
「利益は短期,株価は長期を表すので両方使う」とだけ書いて終える答案が多い。なぜ両方使うと良いのかを,撹乱の低減か努力配分の歪みの是正のどちらかで説明しないと,理由になっていない。また,「市場は効率的で株価が正しいのだから株価を重視すべきだ」と一方に軍配を上げる書き方は,設問の趣旨(組み合わせの意義)から外れる。株価に含まれるマクロ要因は役員に管理できない撹乱であり,管理可能性の観点からはむしろ減点要因になる,という点に触れると,議論が一面的にならない。
第2問 — 管理会計:事業部制組織の業績評価
論述の設計
指定語句が5つあるが,並べる順序を「責任会計(枠組み) 管理可能性原則(事業部長の側) 貢献利益・収益性(事業部の側) 共通費(両者に共通の除外項目)」とすると,対比の構造がそのまま語句の順序になる。答案の骨格は「目的が違うから測る利益が違う」の一文で,その目的の違い(動機づけ対資源配分)を最初に書いてしまうと,後の説明がすべてその帰結として読める。
段階損益を書く効果
上の表のような段階区分を答案に書くと,どの段階までを誰の評価に使うのかが一目で示せる。字数の節約になるうえ,「管理可能利益」と「事業部貢献利益」という二つの利益概念を答案の中で明確に区別できる。表を書く時間がなければ,「売上高 変動費 管理可能個別固定費 管理可能利益(事業部長),さらに管理不能個別固定費を控除して事業部貢献利益(事業部)」と一行で書けばよい。
共通費を配賦する側の言い分
実務では,共通費を配賦すべきだという主張も根強い。共通費が最終的には事業部の活動によって回収されるべきものであること,配賦しなければ事業部長が本社サービスを無償の資源とみなして過剰に要求すること,全社の損益と事業部損益の合計を一致させたいこと,などが理由である。この点に一言触れたうえで,「それでも評価と意思決定の基準は貢献利益であるべきだ」と結ぶと,論述に厚みが出る。
失点しやすい点
第1に,「事業部長は管理可能利益,事業部は事業部純利益」と書く誤りが多い。共通費の配賦額は事業部の存廃によって変わらないので,事業部の評価にも使えない。第2に,管理可能性原則を「事業部長に都合の悪い費用を除く原則」のように書くと,動機づけと責任の対応という趣旨が伝わらない。第3に,事業部が投資センターであることに触れないと,設問2の投下資本利益率の議論へつながらない。事業部長は利益だけでなく投下資本にも責任を負う,という一文を入れておく。
設問2 投下資本利益率を用いることの問題点
数値例の使い方
論述問題だが, と の大小関係だけで説明すると抽象的になる。上のように4つの数値(利益,投下資本,追加投資の収益率,資本コスト)を置けば,ROI が下がる一方で残余利益が上がることを3行で示せる。数値は ,, のように計算しやすいものを選ぶ。
検算
実行後の ROI は で,現行の より低い。残余利益は で,現行の より だけ大きく,これは投資案単独の残余利益 に一致する。境界の確認として,投資案の収益率がちょうど ()なら ROI は で不変となり, が事業部長にとっての採否の分岐点であることが確かめられる。同様に,収益率が なら残余利益の増分が になる。
それでも ROI が使われる理由
問題点だけを列挙すると,なぜ実務で広く使われているのかが説明できない。ROI は比率なので規模の異なる事業部や他社との比較が可能であり,売上高利益率と資本回転率への分解によって改善の方向を示せる。残余利益は金額なので規模の大きい事業部が有利になり,事業部ごとに資本コストを設定する手間もかかる。両者を併用し,ROI で効率を,残余利益で価値の増分を見るのが実務的な解である。この一文があると,批判が一面的でなくなる。
失点しやすい点
過小投資の説明で,「ROI が下がるから棄却する」と結論だけを書き, という条件を示さない答案が多い。ここは不等式を一つ書けば済むので必ず示す。また,資本コストを「借入金利」と狭く捉えると,株主資本のコストを含む加重平均という点が抜ける。部分最適化については,「事業部間の対立」といった一般論ではなく,分母を減らす行動という ROI 特有の歪みを具体的に挙げる。目標整合性は「指標と全社目的が一致すること」と定義したうえで,ROI がそれを満たさない理由を過小投資の議論に結びつける。
設問3 非財務指標を用いる意義
方針
「論じなさい」とあるので,意義を列挙するだけでなく,なぜ財務指標だけでは足りないのかという出発点と,非財務指標にも限界があるという留保を置いて,議論の形にする。構成は「財務指標の限界 非財務指標が果たす役割を3〜4点 留意点 結論(併用すべき)」が書きやすい。分量は解答用紙1ページ程度で,役割の一つひとつに具体的な指標名を添えると説得力が増す。
具体例の選び方
抽象的な「顧客満足」だけでなく,事業部制の文脈に合う指標を挙げる。製造事業部なら不良率,歩留り,段取り時間,設備稼働率。販売事業部なら新規顧客獲得数,解約率,顧客あたり売上。指標が4つの視点のどこに位置づくかまで書ければ,枠組みの理解が伝わる。
第1問との関係
第1問の設問3で扱った「複数の指標を組み合わせる意義」と,本設問は同じ構造をもつ。撹乱の源が異なる指標を加えると評価の精度が上がること,測られない活動から努力が逃げること,という二つの論点は,役員報酬でも事業部評価でも共通である。二つの設問を同じ枠組みで理解しておくと,論拠を組み立てやすい。
失点しやすい点
第1に,「数字に表れない大切なものを測る」という価値観の話にすると,業績評価の議論にならない。将来の財務成果との因果関係か,管理可能性という評価上の理由に落とす。第2に,バランスト・スコアカードを4つの視点の羅列として書くだけでは,因果連鎖という核心が抜ける。第3に,留意点に触れず無条件に推す答案は,「論じなさい」という指示に対して一面的である。第4に,設問1・設問2との接続を欠いた知識の羅列は,大問全体の一貫性を損なう。
年度別の解答例(4年度)
2026年度(このページ・全2問)
財務会計・ガバナンス:役員報酬と業績連動型報酬 / 管理会計:事業部制組織の業績評価
財務会計:資産評価の基準と時価の算定 / 管理会計:結果コントロールと行動コントロール
財務会計:経営者による利益マネジメント / 管理会計:原価企画
国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択 / 管理会計:品質コストマネジメント
2026年度の出題内容
全2問
前年度(2025年度)との違い
- 大問数
- 2025年度 2問 → 2026年度 2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26