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京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 会計学 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)

全2問の分野は会計2問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択

答案の組み立て

指定語句を並べるだけでは点が伸びない。「コンバージェンスによる自国基準の接近 → 米国基準の容認 → IFRS の任意適用 → JMIS の追加」という時間の流れに沿わせ,最後に4基準併存という現状へ着地させると,4語句が1本の論理でつながる。分量は解答用紙の1ページ弱が目安で,年号は確実に覚えているものだけを書き,あいまいなら「2000年代後半」のように幅をもたせて書く。

JMIS で押さえる2点

JMIS を「日本版 IFRS」と一言で片づけると,どこをどう修正したのかが示せない。のれんの非償却とその他の包括利益のノンリサイクリングという2点は,日本が最後まで譲らなかった論点であり,収益と費用の対応を重んじる日本の伝統的な考え方に由来する。この考え方は設問2で問われる研究開発費の処理とも通じている。

この設問が試していること

「統合」という言葉を「IFRS への一本化」と短絡せず,コンバージェンス・アドプション・エンドースメントという3つの方式を区別できるかどうかである。日本が選んだのはコンバージェンスとエンドースメントの併用であり,強制適用の判断は留保されたままであるという構図を書けるとよい。

失点しやすい点

(i) コンバージェンスとアドプションの混同。(ii) 米国基準を過去の制度として書くこと。(iii) JMIS を日本基準の一種と説明すること(出発点は IFRS である)。(iv) 削除又は修正の内容を思いつくまま挙げること(2点に限られる)。

設問2 研究開発費の会計処理の相違

答案に書く順序

「日本基準の原則と例外 → IFRS の2区分と認識要件 → 相違点の整理」の3段で書く。相違点は3〜4点に絞り,それぞれに短い見出しを付けると採点者が拾いやすい。6要件をすべて書ければ強いが,思い出せない場合でも,技術上の実行可能性・完成の意図・資源の利用可能性・信頼性ある測定の4つを挙げれば骨格は伝わる。

数値で確かめる

毎期100の研究開発支出があり,IFRS ではその全額が要件を満たして資産計上され,5年で定額償却されるとする。支出額が一定の定常状態では,各期の償却費の合計は 100×15×5=100100\times\frac{1}{5}\times5=100 となり,日本基準の費用100と一致するので,損益計算書の差は消える。一方で貸借対照表には未償却残高 100×4+3+2+15=200 100\times\frac{4+3+2+1}{5}=200 が資産として残り続ける。つまり,損益の差は研究開発投資の伸びによって生じる一時的なものであり,資産と自己資本の差は水準として恒常的に残る。「IFRS のほうが利益が大きい」という理解が常に成り立つわけではない点を,この計算で確認できる。

制度の背景

日本基準の全額費用処理は,1998年の基準制定によって,それ以前に繰延資産として認められていた試験研究費・開発費の任意計上をやめ,一律の費用処理に統一したものである。判断の余地をなくすことを優先した政策的な選択であり,「資産の定義に当てはまるなら資産として認識する」という IFRS の原則主義とは出発点が異なる。設問1の JMIS が守ろうとした考え方とも同じ系譜にある。

失点しやすい点

「IFRS では開発費を資産計上できる」で止めると,要件を満たせば資産計上が強制されるという点が抜ける。日本基準を「全額費用」とだけ書き,ソフトウェアの例外に触れないのも減点されやすい。IFRS でも研究局面の支出は必ず費用であるから,「IFRS は研究開発費を資産計上する基準」という書き方は誤りである。

設問3 IFRS の任意適用が大企業に偏る理由

方針

「なぜだと考えられるか」を問う考察問題であるから,まず論理の骨格(任意適用であるがゆえに,純便益が正の企業だけが選ぶ)を1文で示し,そのうえでベネフィットとコストを分けて並べる。双方の観点からと指定されているので,どちらかに偏らせない。最後に「だから時価総額の上位に偏る」と問いへ戻して締める。

図の読み方

上の図では,横軸に企業の規模・国際性,縦軸に金額をとった。便益 BB は原点から右上がりの直線として,海外売上比率や買収の頻度に応じて増える様子を表している。費用 CC はほぼ水平で,固定費が中心であることを表す。両者が交わる閾値より右側でのみ B>CB>C となり,そこに含まれる企業が適用を選ぶ。企業数は左側に多く分布し,時価総額は右側に集中するため,社数シェアと時価総額シェアが大きく食い違うことになる。

一歩踏み込む

のれんを償却しないことは会計上の見え方の問題であって,企業のキャッシュフローそのものを変えるわけではない。それでも実質的な意味をもつのは,利益が業績連動報酬・財務制限条項・投資家や格付機関の評価に用いられるからである。ここまで書くと,「利益が大きく見えるから」という素朴な説明より一段深い答案になる。

この設問が試していること

会計基準の内容そのものではなく,企業がどのような理由で会計基準を選ぶのかという意思決定の理解である。制度を与件として暗記するのではなく,制度に対する企業の反応を分析できるかが問われている。

失点しやすい点

「大企業だから」と結論を言い換えるだけで理由になっていない答案,コストを監査報酬の増加だけで済ませて固定費であることに触れない答案が多い。逆にコストばかり並べると,「ではなぜ一部の企業は適用するのか」という肝心の問いに答えられなくなる。

国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 管理会計:品質コストマネジメント

答案の組み立て

指定語句がそのまま答案の骨格になっている。「3分類の定義 → 具体的な原価項目 → 適合・不適合という二分法 → 相互依存関係 → 最適品質水準」の順に並べれば,語句をすべて自然に使い切れる。各分類には具体的な原価項目を2〜3個添えると,定義の暗記ではないことが示せる。下線は初出時にだけ引き,同じ語句が再び出てきたときには引かない。

失敗コストを2つに割る理由

内部失敗と外部失敗を分けるのは,同じ不適合でも発見が遅れるほど損失が大きくなるからである。工程内で見つければ手直し費用で済むが,顧客のもとで見つかれば保証修理や回収に加えて信用の失墜が生じる。不適合の発見が1段階遅れるごとに損失が桁で増えるという経験則が語られるのも,この構造による。外部失敗コストの大部分は機会原価であって帳簿には現れず,測定が最も難しい部分でもある。

品質コスト報告書の読み方

相互依存関係は,報告書の構成比の変化として観察できる。たとえば売上高100億円の工場で,改善前の品質コストが予防0.3億円,評価1.2億円,内部失敗1.5億円,外部失敗2.0億円の合計5.0億円(売上高比5.0\%)であったとする。予防活動に投資して1.0億円まで増やした結果,失敗コストの合計が3.5億円から1.0億円へ,工程が安定したことで評価コストも1.2億円から0.8億円へ下がれば,総額は2.8億円(同2.8\%)になる。予防だけが増え,評価と失敗が減って総額が下がるというこの動きが,相互依存関係の実際の現れ方である。総額の水準だけでなく,予防コストの構成比が上がっているかどうかを見る理由もここにある。

この設問が試していること

品質を「作り込むための支出」と「作り込めなかったことによる損失」の対として捉え,原価計算上の分類が管理の道具になることを理解しているかである。分類の暗記ではなく,相互依存関係と最適品質水準という2語が結びついて初めて,設問2以降のモデルにつながる。

失点しやすい点

評価コストを「不良品を直す費用」と書く誤りが多いが,それは内部失敗コストである。評価は「できたものを調べる」,予防は「できないようにする」と区別する。相互依存関係を「予防を増やせば評価も増える」と逆向きに書くのも典型的な誤りである。指定語句の下線を忘れることによる形式面の失点にも注意する。

設問2 品質コストの経済性に関する古典的モデル

方針

発生態様に言及せよという指示があるので,3本の曲線それぞれについて,(i) 増加するか減少するか,(ii) 逓増か逓減か,(iii) 両端でどうなるか,の3点を明示する。「失敗コストは減り,統制コストは増えるので U 字になる」だけでは,逓増と発散という古典的モデルの核心が抜ける。図を添えられるなら,3本の曲線と最小点,そして最小点が100\%より左にあることを描き込む。

数値例で確かめる

適合率を q∈[0,1]q\in[0,1] として,F(q)=3.6(1−q)F(q)=3.6(1-q),C(q)=0.3q2/(1.1−q)C(q)=0.3q^{2}/(1.1-q) と置く。合計 TQC(q)\mathrm{TQC}(q) を最小化すると,一階条件 0.3 (2.2q−q2)(1.1−q)2=3.6 \frac{0.3\,(2.2q-q^{2})}{(1.1-q)^{2}}=3.6 より q∗≃0.795q^{*}\simeq0.795 となり,そのときの合計は 1.361.36(統制 0.620.62,失敗 0.740.74)である。いっぽう q=1q=1 まで押し上げると C(1)=3.0C(1)=3.0,F(1)=0F(1)=0 で合計は 3.03.0 となり,最適点の2倍を超える。最後の2割の不適合を取り除く費用が全体を押し上げるという古典的モデルの主張が,数値でも確かめられる。

失点しやすい点

「一定の不適合を許容する」という結論だけを書き,それが統制コストの逓増と発散という仮定から導かれていることを示さない答案が多い。横軸を不適合品率にとるか適合品質水準にとるかで曲線の向きが逆になるので,どちらを採ったのかを最初に断る。曲線を描くときは,統制コストが原点付近でほぼゼロから始まること,失敗コストが 100%100\% でゼロになることという両端の値も落とさない。

答案の分量

モデルの説明だけなら解答用紙の半ページで足りる。曲線の形と最小点の意味に加えて,「一定の不適合を許容することになる」という規範的な含意まで書くと,設問3の TQM モデルとの対比が際立つ。設問3で反論する材料をここで用意しておくと,2つの解答が1本につながる。

設問3 品質コストの経済性に関する TQM モデル

方針

2つのモデルの違いを網羅的に列挙するのではなく,「統制コストが発散するかしないか」という発生態様の一点に絞り,そこから最適点の位置の違いを導く形にすると論理が明快になる。設問2と設問3を続けて読む採点者を想定し,同じ座標軸で対比できるように書く。

2つのモデルの対比

p55mmp55mm

古典的モデル

TQM モデル

統制コスト

逓増し,100%100\% 手前で発散する

学習効果により頭打ちになる

評価コスト

品質を上げるほど増える

工程が安定すれば減少に転じる

失敗コスト

帳簿上の原価に限る

機会原価を含めるため曲線が上方に位置する

最適品質水準

100%100\% より手前

100%100\% またはその近傍

時間の扱い

技術を所与とした静学的な最適化

曲線自体を下方シフトさせる動学的な改善

数値例で確かめる

設問2と同じ失敗コスト F(q)=3.6(1−q)F(q)=3.6(1-q) のもとで,統制コストだけを C(q)=2.4q/(2q+1)C(q)=2.4q/(2q+1) に置き換える。これは q=1q=1 でも 0.80.8 にとどまる有界な関数である。このとき TQC′(q)=2.4(2q+1)2−3.6<0 \mathrm{TQC}'(q)=\frac{2.4}{(2q+1)^{2}}-3.6<0 が q∈[0,1]q\in[0,1] の全域で成り立つので,合計は単調に減少し,最小値は q=1q=1 における 0.80.8 となる。古典的モデルの最小値 1.361.36 を下回っており,統制コストの発生態様についての想定を変えるだけで,最適点の位置と品質コストの水準の両方が変わることが確かめられる。

この設問が試していること

モデルの結論を覚えているかではなく,結論の違いがどの仮定の違いから生じるのかを説明できるかである。設問2と設問3で同じ「発生態様」という語が使われているのは,比較の軸をそこに置けという指示にほかならない。

失点しやすい点

「TQM では不良ゼロを目指す」という結論だけを書いて,なぜ費用面でそれが正当化されるのかを述べない答案が多い。また,TQM モデルを「古典的モデルが誤りである」という主張と取り違えないこと。古典的モデルは所与の技術のもとでは正しく,TQM モデルはその技術自体を改善できるという前提を追加したものである。両者は仮定の違いによって結論が分かれる関係にある。

管理会計:品質コストマネジメントの途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(全2問)

    財務会計・ガバナンス:役員報酬と業績連動型報酬 / 管理会計:事業部制組織の業績評価

  • 2025年度(全2問)

    財務会計:資産評価の基準と時価の算定 / 管理会計:結果コントロールと行動コントロール

  • 2024年度(全2問)

    財務会計:経営者による利益マネジメント / 管理会計:原価企画

  • 2023年度(このページ・全2問)

    国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択 / 管理会計:品質コストマネジメント

2023年度の出題内容

全2問

この2問の分野は会計2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問会計会計基準の国際的統合と IFRS の選択答案の組み立て / JMIS で押さえる2点あり
第2問会計品質コストマネジメント答案の組み立て / 失敗コストを2つに割る理由—

2023年度の解説には失点しやすい点2件・答案に書く順序1件が付いています。

京都大学の公式過去問

公開年度範囲
2023〜2026(直近4年)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
院試hubの最終確認
2026-09-26
京都大学の公式過去問PDF