京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 会計学 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)
全2問の分野は会計2問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。
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第1問 — 財務会計:資産評価の基準と時価の算定
答案の組み立て
指定語句が5つあるので,語句を軸に段落を切ると書き落としを防げる。すなわち,(i) 混合的測定という結論を先に置く,(ii) 取得原価と時価の定義を並べる,(iii) 事業用資産に取得原価を割り当てる理由,(iv) 金融資産に時価を割り当てる理由,(v) 両者を分ける基準(投資の性質)で締める,という5段構成である。冒頭に結論を置くことで,語句の羅列ではなく一つの主張として読ませられる。
この設問が試していること
問われているのは基準の暗記ではなく,「なぜ資産によって測定基礎が違うのか」を一貫した原理で説明できるかである。したがって,どの資産がどの基準かという対応表だけを書いた答案は上位にならない。事業投資と金融投資の区別,あるいは投資のリスクからの解放という概念を一言でも入れると,個別基準の背後にある論理を理解していることが伝わる。
失点しやすい点
第一に,「日本基準は取得原価主義である」と断定して終える答案は,設問が指定語句として時価と混合的測定を挙げていることと矛盾する。第二に,その他有価証券の評価差額を当期の損益に入れると書く誤りが多い。純資産の部への直入が原則である。第三に,減損会計や棚卸資産の簿価切下げを「時価評価の一種」と説明すると不正確になる。これらは取得原価を上限とし,回収可能価額まで切り下げるだけの一方向の処理であって,時価への洗替えではない。第四に,事業用資産と固定資産を同義に扱うと棚卸資産が抜け落ちる。
補足しておくとよい論点
時価を用いる範囲は,認識(貸借対照表計上額)だけではない。賃貸等不動産のように,貸借対照表では取得原価を基礎としつつ時価を注記で開示する扱いもある(企業会計基準第20号)。認識と開示を切り分けられることを一言添えると,混合的測定の実像がより正確に描ける。
設問2 時価の算定の枠組み
語句のつなぎ方
5つの指定語句は互いに独立ではなく,「秩序ある取引(前提) 評価技法(手段) インプット(材料)」という階層をなし,マーケット・アプローチとインカム・アプローチは評価技法の下位分類である。この階層を明示すれば,語句の羅列にならずに一つの説明として通る。図1のような3層の関係図を答案に書ければ,文章量を節約しつつ理解を示せる。
混同しやすい区別
評価技法の3分類(マーケット・インカム・コスト)と,インプットの3レベル(1・2・3)は別の軸である。マーケット・アプローチだからレベル1,インカム・アプローチだからレベル3と決まるわけではない。類似資産の市場価格を用いるマーケット・アプローチはレベル2になりうるし,観察可能な金利とイールドカーブだけで割り引くインカム・アプローチはレベル2になりうる。答案でこの2軸を混同すると,階層の意味を理解していないと判断される。
出口価格であることの含意
時価が売却価格であるため,取得直後であっても取得価額と時価は一致しないことがある。また,企業が実際に売却するつもりがなくても時価は算定される。「自社なら高く使えるから高い」という企業固有の価値は反映されず,市場参加者にとっての価値が用いられる。この点を一言書くと,定義の丸暗記でないことが伝わる。
背景
この枠組みは国際的に共通で,IFRS第13号「公正価値測定」および米国基準の公正価値測定の規定と実質的に同じ構成をとる。企業会計基準第30号は,国際的な整合性を確保するために2019年に公表されたもので,それ以前は金融商品会計基準の中に時価の定義が置かれていた。答案では基準の沿革まで書く必要はないが,用語が国際的に統一された概念であることを押さえておくと,設問3の会計基準設定主体の論点につながる。
設問3 時価評価のメリットとデメリット
三者を書き分ける視点
同じ「コストがかかる」「信頼性が下がる」を三回書くと点が伸びない。作成者は測定コストと報告利益の変動という自らの負担,利用者は情報の有用性と検証可能性という受け手の便益,基準設定主体は基準体系の一貫性・国際的整合性・エンフォースメント可能性という制度設計の視点,というように,論点の抽象度を意識的に変えるとよい。三者の利害が一致しない点,たとえば「利用者が求める目的適合性は作成者のコストと監査可能性を犠牲にする」という緊張関係を1文で示すと,論述としてまとまる。
答案の分量と書く順序
配点上,設問3は第1問の中で最も重い可能性が高い。取得原価と時価の対立軸(目的適合性 対 表現の忠実性・検証可能性)を最初に1段落で示してから,三者それぞれにメリットとデメリットを2点ずつ挙げる構成が読みやすい。最後に,現行基準が混合的測定を採っていることと結びつけて締めると,設問1との一貫性も示せる。
具体性を出す工夫
抽象的な長所短所の列挙で終わらないよう,会計処理の具体で裏づけたい。たとえば「取得原価では含み益のある資産を選んで売却すれば利益を計上できる」という利益調整の余地,「デリバティブは取得原価がほぼゼロなので取得原価主義では貸借対照表に表れない」というオフバランスの問題は,時価評価が導入された歴史的な理由そのものであり,短く書けて説得力がある。
失点しやすい点
時価評価のメリットを「客観的である」と書くのは危うい。活発な市場がある資産に限れば客観的だが,レベル3では逆に主観性が問題になる。むしろ検証可能性は取得原価の方が高い,と整理するのが正確である。また,デメリットとして「実現していない利益を分配してしまう」と書く場合は,その他有価証券の評価差額が純資産直入とされ,分配可能額の計算でも調整されることに触れないと,現行基準の理解として不正確になる。
第2問 — 管理会計:結果コントロールと行動コントロール
答案の書き方
「簡潔に説明しなさい」であるから,定義2文,運用の4段階を1文にまとめ,具体例を1つ厚めに書く,という配分でよい。具体例は列挙するより,事業部制のように「何を測り」「何を委ね」「どう報いるか」が全部言える例を1つ選んで書き切る方が理解を示せる。数値を1組入れると,指標が実際にどう計算されるかまで押さえていることが伝わる。
結果コントロールの本質
本質は,行動を直接指示せずに結果だけを問うことで,現場がもつ情報と判断力を活かす点にある。本社が最適な行動を知らない状況でも,結果を測れさえすれば統制できる。これは権限委譲の裏づけであり,事業部制やカンパニー制といった分権的な組織構造は,結果コントロールが利用可能であることを前提に成立している。
指標設計が結果を左右する例
上の数値例を使うと,指標の選び方が行動を変えることが確かめられる。投資額2億円・利益0.2億円(利回り10\%)の案件を考える。資本コスト8\%を上回るので全社にとっては採るべき案件だが,採用後の事業部の は となり従来の12\%を下回るため,ROIで評価される事業部長は拒否する誘因をもつ。一方 は 億円と現行の0.4億円より大きくなるので,RIで評価すれば採用される。結果コントロールでは,指標が目標整合性をもつように設計されているかどうかが決定的である。
失点しやすい点
「成果主義の人事制度」とだけ書くと,報酬制度の話に矮小化されてしまう。結果コントロールは指標の定義・測定・目標設定・帰結の4段階からなる仕組みであり,報酬はその最後の一段にすぎない。また,管理可能性の条件を落とすと,設問3で「不確実性が高い状況では結果コントロールが機能しにくい」という議論につなげられなくなる。
設問2 行動コントロールの概念と具体例
答案の書き方
定義を1文で述べたうえで,4類型のうち少なくとも3つを名前とともに挙げると,概念の内包が正確に伝わる。具体例は現金管理か製造現場の作業標準のどちらかに絞り,「どの類型にあたるか」を対応づけて書くと,例を挙げただけの答案と差がつく。
結果コントロールとの対比を一言入れる
設問2の段階で「結果コントロールが結果だけを問い手段を委ねるのに対し,行動コントロールは手段そのものを指定する」と一言添えておくと,設問3の比較が滑らかに始められる。両設問を独立に書くより,設問2の末尾で対比を予告しておく方が全体の構成が締まる。
見落とされやすい類型
重複((4))は日本語の教科書でも扱いが薄く,答案にも出にくい。二重チェックや予備要員の配置は,コストと引き換えに確実性を買う行動コントロールであり,安全性が最優先される業務で用いられる。1行でも触れると,分類を体系として理解していることが示せる。
この設問が試していること
問われているのは「行動を管理すること」という常識的な理解ではなく,行動コントロールが成立するための情報上の前提,すなわち組織が因果関係を知り,行動を観察できるという条件を意識しているかである。この条件は設問3の状況適合の議論に直結するので,ここで明示しておくと後が書きやすい。
設問3 両者の比較と適合する状況
答案の構成
「比較しつつ」と指示されているので,(i) 比較の軸を立てて対照させる,(ii) 軸のうち選択を決める2条件を取り出す,(iii) 条件の組合せごとに望ましいコントロールと理由を述べる,(iv) 併用に触れて締める,という順で書くと論旨が一本になる。表2のように軸を並べた比較表を書けば,文章での対比を短くできる。理由を「〜だから望ましい」と一文ずつ明示することが,設問文の「その理由について説明しなさい」に直接答えることになる。
背景
図2の枠組みは,組織の統制手段の選択が「変換過程についての知識」と「産出の測定可能性」という2つの情報条件で決まるとする Ouchi (1979) の議論に基づく。2条件がともに満たされない場合に人的・文化コントロール(クラン・コントロール)が残るという含意まで含めて,管理会計・組織論の標準的な整理である。答案で理論名を挙げる必要はないが,2軸で場合分けするという形を借りると,網羅性のある議論になる。
リスク配分の観点
経済学的には,結果コントロールは業績連動報酬と同じ構造をもち,管理不能な外生的要因の変動リスクを従業員に負わせる。リスク回避的な従業員はその分だけ高い報酬を要求するため,不確実性が大きい環境ほど結果コントロールのコストは高くなる。管理可能性原則(評価は管理可能な要素に限るべきだという原則)は,このリスク負担を抑えるための修正である。一方,行動コントロールは組織がリスクを負う代わりに,監視と規程整備の費用を負担する。「どちらが望ましいか」は,測定可能性だけでなく,このリスクと費用の配分の問題でもある,と一言添えると議論の厚みが増す。
失点しやすい点
第一に,行動コントロールを「性悪説」,結果コントロールを「性善説」と対比する説明は不正確である。両者を分けるのは人間観ではなく,組織がもつ情報(因果関係の知識と結果の測定可能性)である。第二に,結果コントロールの副作用を「短期志向」だけで済ませると弱い。指標の操作,指標に載らない業務の軽視,過度なリスクテイクなど,複数挙げると理解の広さが示せる。第三に,「望ましい状況」を業種名の列挙で終えると理由が抜ける。業種は例にすぎず,答えるべきは条件(測定可能性と因果関係の知識)であることを外さない。
年度別の解答例(4年度)
財務会計・ガバナンス:役員報酬と業績連動型報酬 / 管理会計:事業部制組織の業績評価
2025年度(このページ・全2問)
財務会計:資産評価の基準と時価の算定 / 管理会計:結果コントロールと行動コントロール
財務会計:経営者による利益マネジメント / 管理会計:原価企画
国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択 / 管理会計:品質コストマネジメント
2025年度の出題内容
全2問
前年度(2024年度)との違い
- 大問数
- 2024年度 2問 → 2025年度 2問
京都大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 2023〜2026(直近4年)
- 公式の解答例
- 非公開(問題冊子のみ)
- 英語の扱い
- 一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
- 院試hubの最終確認
- 2026-09-26