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京大 経営管理教育部(専門職学位課程) 会計学 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(全2問)

全2問の分野は会計2問です。解説はすべて公開し、途中式と最終答は解答PDFに収録しています。問題本文は含みません。

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第1問 — 財務会計:経営者による利益マネジメント

答案の構成

「下記用語をすべて用いて」という形式なので,語句を散りばめるだけでは足りない。(i) 定義を1文で与える,(ii) 手段を会計上の裁量と実体的行動の2経路に分け,前者をさらに会計方針と会計上の見積りに分ける,(iii) 2経路の違いを反転の有無で述べる,という三段で書くと,4語すべてに論理的な位置が与えられる。分量は解答用紙の3分の1から半ページが目安である。

語句どうしの関係を示す

4語は並列ではない。会計数値は操作の対象であり,会計方針と会計上の見積りは会計上の裁量という一つの経路の2つの入口,実体的行動はそれと並ぶもう一つの経路である。この階層を書き分けないと,指定語句を機械的に埋めただけの答案に見える。指定語句がある論述では,語句の定義を書くことよりも語句どうしを因果や対比でつなぐことが得点になる。

粉飾との境界

利益マネジメントは基準の枠内の裁量行使であり,架空売上や簿外債務のような基準違反とは区別される。ただし裁量的発生高は必ず反転するので,同じ方向のマネジメントを続けるには毎期より大きな操作が必要になり,裁量の余地を使い切ると基準違反に踏み込みやすい。この連続性に一言触れておくと,設問3の「悪い面」に自然につながる。

この設問が試していること

会計基準は経済事象の多様性に対応するため,測定に一定の裁量を残さざるをえない。裁量の存在そのものは制度の欠陥ではなく必然であり,論点はその使われ方である,という理解を示せるかどうかが問われている。定義を暗記した答案と,制度の性質から説明した答案の差はここに出る。

設問2 4つのパターンと経営者の動機

答案の骨組み

4つを独立に説明すると重複が多くなる。報酬契約・負債契約・政治的コストという実証会計理論の3つの仮説に,資本市場でのベンチマーク達成という軸を加えた4本の柱を先に立て,各パターンをその上に配置すると,短い分量で網羅できる。1パターンあたり3〜5行を目安に,動機を2つずつ挙げれば十分である。

図の使い方

①②③はいずれも同じ区分線形の報酬関数から導ける。LL と UU の間では利益最大化,UU を超えると圧縮と繰延べ,LL に届かないとビッグ・バス,という3つの向きを1枚の図で示せるので,答案の冒頭に置くと以降の説明が短くて済む。④だけは1期の利得ではなく複数期にわたる利益の分散に関わるので,同じ図では説明できない点に注意する。

②と③の書き分け

どちらも当期の利益を下げる行動だが,目的が違う。②は当期の利益水準そのものが税・規制・交渉のコストを生むから下げる。③は当期がどうせ評価されないから,将来の利益を買うために下げる。答案でこの違いを1文で明示しないと,2つが同じ説明になってしまう。同様に②の「上限を超えた分の繰延べ」と④の「平準化」も似ているが,②は当期の水準に対する反応,④は期間をまたぐ分散の縮小である。

失点しやすい点

④を「利益を一定に見せかける操作」とだけ書くと,設問3で良い面を論じるときに,平準化が情報伝達の手段にもなりうる理由を説明できなくなる。また①で資本市場の動機(上場・増資・ベンチマーク達成)を落とすと,報酬契約だけの狭い説明になる。③を「単なる赤字の年の損失計上」と書くのも不十分で,将来の負担を前倒しするという時間をまたぐ性質を明示する必要がある。

設問3 利益マネジメントの良い面と悪い面

論述の型

「良い面と悪い面」を問われたとき,思いつく利点と欠点を交互に並べると評価軸が見えない。先に判断基準を宣言し,その基準に沿って両面を配置し,最後に基準に照らした結論を置く。設問1で立てた会計上の裁量と実体的行動の区別が,そのまま「反転する害」と「反転しない害」の区別として使えるので,第1問全体で一本の筋が通る。

2つの見方の対立

会計研究では,裁量を経営者の私的情報の伝達手段とみる効率的契約の見方と,私的便益の追求手段とみる機会主義の見方が長く対立してきた。答案でこの対立を名指しし,実際にはどちらか一方ではなく動機と手段によって決まる,と述べるのが安全であり,実証結果とも整合する。どちらか一方に断定する答案は,反対の証拠を説明できない。

ガバナンスに触れる

悪い面を列挙して終えると,対策の視点が欠ける。監査の品質,社外取締役や監査委員会の独立性,報酬設計(長期インセンティブやクローバック条項),注記による見積りの前提と感応度の開示など,裁量を規律する制度に一言触れると論述が締まる。「裁量をなくす」ではなく「裁量を規律する」という方向を示せる点が,設問1で述べた制度の必然性と整合する。

分量の配分

第1問全体で解答用紙の見開き程度を想定すると,設問1と設問2に厚く配分し,設問3は良い面2〜3点・悪い面3点程度に絞るのが現実的である。設問3は自由度が高いぶん書き過ぎやすく,他の設問の時間を失う原因になりやすい。箇条書きで骨を示し,各項目を2〜3行で埋める形にすると分量を制御できる。

財務会計:経営者による利益マネジメントの途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 管理会計:原価企画

答案の書き方

「それぞれの原価概念とその関係について」と問われているので,定義を3つ並べるだけでは半分しか答えたことにならない。(i) 3つの定義,(ii) 算定の方向が控除法と積上法で逆であること,(iii) 差額 Δ\Delta が原価低減目標になり,目標原価はその間に置かれること,の3点を書く。CA=P−πC_A=P-\pi の1本の式と,3本の水準を並べた図があれば説明は短くて済む。

目標原価の水準にはトレードオフがある

CT=CAC_T=C_A とすると市場の要求がそのまま目標になるが,技術的に到達不能な水準であれば目標は形骸化し,サプライヤーへの過度な値下げ要求や品質の切下げを招きやすい。逆に CTC_T を成行原価の近くに置けば達成は容易だが,目標利益が確保できず原価企画の意味が失われる。答案でこの緊張関係に一言触れると,3つの概念が単なる用語ではなく管理の道具であることを示せる。

失点しやすい点

許容原価と目標原価を同じものとして書く答案が多い。両者を区別する意味は,市場の要求(許容原価)と実際に管理される目標(目標原価)が一致するとは限らない点にある。また,目標原価を標準原価と取り違えないこと。標準原価は製造段階で能率を測る尺度,目標原価は開発段階で到達すべき水準であり,適用される段階も機能も異なる。予定売価を「自社が決める価格」と書くのも誤りで,市場が決める与件である点が原価企画の出発点になる。

この設問が試していること

原価を「集計して計算する対象」から「設計して作り込む対象」へと捉え直せているかどうか。CA=P−πC_A=P-\pi という式は,価格を所与として原価を従属変数に置く逆転を一行で表しており,設問3の市場志向の議論に直接つながる。

設問2 VE(バリュー・エンジニアリング)

語句を式で結ぶ

価値・効用・コスト・機能の4語は,V=F/CV=F/C という1本の式に同時に位置づけられる。すなわち FF が機能,CC がコスト,VV が価値であり,効用は FF が顧客にとって意味をもつ理由を与える。この式を最初に書いてしまえば,4語を無理なく,かつ相互の関係を示しながら使える。残る3語(ゼロルック・ファーストルック・セカンドルック)は適用段階という別の軸なので,段階を横に並べて説明する。指定語句が2つの軸に分かれていることを見抜けるかが,構成の分かれ目になる。

VEはコストダウンではない

「VEとは原価を下げることである」と書くと,機能を落として原価を下げる行為と区別できなくなる。定義の中心は「必要な機能を確実に達成したうえで」という制約にあり,価値は比であって差ではない。5つの型のうち,機能を高めながらコストも下げる型と,機能の向上がコストの増加を上回る型を挙げておくと,比の改善という理解が伝わる。

ゼロルックとファーストルックの区別

両者を「どちらも設計段階のVE」とまとめると差が出ない。ゼロルックは「何を作るか」,すなわち提供すべき機能そのものを問う段階であり,製品企画そのものが対象になる。ファーストルックは「その機能をどう実現するか」,すなわち構造や方式の選択を問う段階である。前者では製品コンセプトが,後者では設計方式が意思決定の変数になる,と書き分ける。

図の読み方

図3の2本の曲線の縦方向の隔たりが,原価企画が働く余地の大きさを示す。企画段階では発生額はほぼ0だが決定額はすでに大きく,量産段階では決定はほぼ終わっているのに支出だけが続く。セカンドルックVEの効果が限られるのは,その時点で決定曲線がすでに上限に近いからである。この図は設問3の「上流段階」の議論でもそのまま使える。

関連する概念

既存製品を対象に生産段階で行う分析をVA(バリュー・アナリシス)と呼んで,開発段階のVEと区別することがある。セカンドルックVEはVAに近い。答案で必須ではないが,触れておくと段階による性格の違いが際立つ。

設問3 原価企画と標準原価計算の比較

指定語句を比較の軸に割り当てる

5つの語句を,上流段階=対象とする段階,市場志向=出発点,部門間協力=組織,経営計画=計画との連結,戦略=位置づけ,というように1語1軸で割り当てると,語句を全部使うという制約が構成の骨組みに変わる。この設問のように語句が多い論述では,語句を先に並べ替えて軸を決めてから書き始める方が速い。

優劣ではなく役割の違いで書く

「標準原価計算は時代遅れで原価企画が優れている」と書くと,補完関係を見落とした答案になる。標準原価計算は量産段階の能率を測る尺度として今も必要であり,原価企画が作り込んだ水準を維持する役割を担う。比較を問われたときは,どちらが優れているかではなく,どの段階のどの意思決定を支えるかで整理する。

薄くなりやすい語句

市場志向を「顧客のニーズを重視する」程度に書くと,価格が競争によって決まる与件であるという制約構造が伝わらない。部門間協力も「協力が大切」で終えず,原価の決定要因が部門をまたぐから協力が必要になる,という因果を書く。戦略は最も抽象に流れやすいので,コストリーダーシップや差別化といった具体的な競争戦略の型に結びつけて書く。

失点しやすい点

目標原価と標準原価の混同が最も多い。標準原価は製造条件を所与として能率を測る尺度,目標原価は製造条件そのものを設計するための到達目標であり,設定の主体も時点も異なる。また,標準原価計算の説明を差異分析の計算式だけで済ませると,それが製造段階の責任会計であるという性格が示せない。

この設問が試していること

管理会計の手法を,その手法が前提とする競争環境と意思決定の段階に結びつけて理解しているかどうか。価格を自ら決められる市場では標準原価計算とコストプラスで足りるが,価格が市場に与えられ,かつ原価が上流で決まる製品では原価企画が要る。この条件の違いを述べられれば,単なる用語の対比を超えた答案になる。

管理会計:原価企画の途中式・最終答をPDFで見る

年度別の解答例(4年度)

  • 2026年度(全2問)

    財務会計・ガバナンス:役員報酬と業績連動型報酬 / 管理会計:事業部制組織の業績評価

  • 2025年度(全2問)

    財務会計:資産評価の基準と時価の算定 / 管理会計:結果コントロールと行動コントロール

  • 2024年度(このページ・全2問)

    財務会計:経営者による利益マネジメント / 管理会計:原価企画

  • 2023年度(全2問)

    国際会計:会計基準の国際的統合と IFRS の選択 / 管理会計:品質コストマネジメント

2024年度の出題内容

全2問

この2問の分野は会計2問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問会計経営者による利益マネジメント答案の構成 / 語句どうしの関係を示す—
第2問会計原価企画目標原価の水準にはトレードオフがある / この設問が試していること—

2024年度の解説には失点しやすい点2件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 2問 → 2024年度 2問
2023年度の解答例

京都大学の公式過去問

公開年度範囲
2023〜2026(直近4年)
公式の解答例
非公開(問題冊子のみ)
英語の扱い
一般選抜は英語外部試験のスコア提出。学内での英語筆記試験はない。
院試hubの最終確認
2026-09-26
京都大学の公式過去問PDF