[1] 電位 V(r)
クーロンの法則から出る点電荷の電位 Q/(4πϵ0R)(R は電荷から観測点までの距離)は、真空中で電荷が静止している静電場の式である。複数の電荷には線形性により各電位の和が成り立つ。問題では真空の誘電率 ϵ0 が与えられているので、この式をそのまま使う。モーメントの定義「負電荷から正電荷へ向かう」は、+q を z=+d/2 に置くことと対応する。したがって p は +z 向きである。
数値で確かめると、d=1(単位は任意)として z 軸上の z=10 では V=4πϵ0q(9.51−10.51)=0.010034πϵ0q で、[2] の近似式の値 qd/(4πϵ0z2)=0.01q/(4πϵ0) とほぼ等しい。
確かめを3つ行う。(i)z=0 の面上では2つの電荷までの距離が等しく、V=0 である。(ii)z→−z で V の符号が変わる。(iii)d→0 で V→0、r→∞ で V→0 である。さらに +q に近い z>0 の側で V>0 になり、電荷の配置と合う。
誤りは、+q と −q の位置を取り違えて符号を逆にすることである。そうすると [2] で得る式が p⋅r の符号と合わず、p が負電荷から正電荷へ向かうという定義に反する。また、距離を x2+y2+z2∓d/2 と書く誤りもある。これは軸上でしか正しくない。
[2] d≪r での電位
展開に使うのは、∣ε∣<1 で成り立つ二項展開 (1+ε)−1/2=1−21ε+83ε2−⋯ である。d≪r のとき ∣u∣≪1 となり、この条件が成立する。問題文の「d/r の2次以上の項を無視する」は、上の展開で d/r の1次の項だけを残す指示である。
2次の項が消えるのは偶然でなく、d→−d(2つの電荷を入れ替える)で V が符号を変えるからである。奇数次の項だけが残り、最初に切り捨てられる項は3次になる。符号つきの3次の項を計算すると −32πϵ0r7qz(3x2+3y2−2z2)d3 である。軸上(x=y=0)で厳密な式を整理すると V=4πϵ0qr2−d2/4d=4πϵ0r2qd[1+4r2d2+⋯] なので、相対誤差は (d/2r)2 である。d/r=0.1 なら 0.25% にすぎない。
電位が 1/r でなく 1/r2 に比例する理由は、全電荷が零で、1/r の項(単極子)が消えるためである。p⋅r=prcosΘ(Θ は p と r のなす角)なので、V=pcosΘ/(4πϵ0r2) となり、Θ=π/2 の面で V=0 になる。これは [1] の確かめ(i)と一致する。
誤りの例は、展開の係数 −u/2 の 1/2 を落とすことである。そのとき V=qdz/(2πϵ0r3) と2倍の大きさになり、p⋅r/(4πϵ0r3) とは一致しない。軸上の厳密式 d/(r2−d2/4)≃d/r2 とも合わないので、検算で気づける。
[3] 電場 E(r)
静電場が保存場で、電位の勾配の符号を反転したものが電場になる E=−∇V を使う。∇(p⋅r)=p は成分で書くと ∂i(pjxj)=pi という確認ができる。r の関数の勾配は ∇f(r)=f′(r)r/r で、f=r−3 なら f′=−3r−4 から上の式になる。この式は原点を除いて成り立つ。
確かめは3つある。まず p=pz^ で、z 軸上(r=zz^)の電場は (3−1)p/(4πϵ0∣z∣3)=2p/(4πϵ0∣z∣3) で p と同じ向き、赤道面(xy 平面)では p⋅r=0 より E=−p/(4πϵ0r3) で p と逆向きである。2つの点電荷から直接求めても、軸上の電場は 4πϵ0q[(z−d/2)21−(z+d/2)21]≃4πϵ0z32qd となり、一致する。次に、r=0 で ∇⋅E=0(電荷がない)を成分で計算して確かめた。最後に次元で、p/(ϵ0r3) は Cm/(CV−1m−1⋅m3)=V/m である。
成分で書くと、p=pz^ のとき Ez=4πϵ0pr53z2−r2、Ex=4πϵ0pr53xz である。r と z 軸のなす角 Θ を使った球座標では、動径成分が Er=4πϵ0r32pcosΘ、角度方向の成分が EΘ=4πϵ0r3psinΘ となり、Θ=0 で軸方向、Θ=π/2 で逆向きの大きさ p/(4πϵ0r3) の電場になる。
誤りは、∇r−3 の係数 3 を落として E=4πϵ01[r5(p⋅r)r−r3p] と書くことである。z 軸上で2つの項が打ち消し合って E=0 となり、電荷の近くの軸上に電場がないという矛盾が生じる。また ∇r−3 の結果からベクトル r を落として −3r−4 と書く誤りは、次元が合わないので検算で見つかる。
[4] 2つの電気双極子の相互作用エネルギー
点電荷系の静電エネルギーは、全対の和 W=∑i<jqiqj/(4πϵ0rij) である。この和は、原点の双極子の内部の対、P1 の内部の対、2つの双極子の間の対の3種類に分けられる。P1 を置く前後で変わるのは後ろ2種類で、P1 の内部の対は r によらない定数である。したがって位置と向きの依存性を持つのは、2つの双極子の間の4つの対だけで、そのエネルギーが q1V(r+d1/2)−q1V(r−d1/2) に等しい。問題文の仮定(電荷間距離が r より十分小さい、電場は式 (1) で書ける)は、この差をテイラー展開の1次で打ち切るところで使う。
確かめとして、p と p1 を入れ替えても式が変わらない対称性がある。これは、2つの双極子の役割が対等であることに対応する。4つの点電荷の厳密なクーロンエネルギーと比べると、d、d1 が r の約 1/120 のときの相対誤差は 8×10−5、約 1/1200 のときは 8×10−7 で、(d/r)2 に比例して小さくなる。次元は、pp1/(ϵ0r3) が (Cm)2/(CV−1m−1⋅m3)=CV=J でエネルギーになる。
向きの例を挙げる。2つとも z 軸に平行で、r が z 軸上にある(頭と尾がつながる)ときは U=−2pp1/(4πϵ0r3)<0 となり、引き合う。r が xy 平面内にある(横に並ぶ)ときは U=+pp1/(4πϵ0r3)>0 で、反発する。電荷の配置から直感する、+ と − が近いほどエネルギーが低いという結果と合う。
誤りは、符号を取り違えて U=+p1⋅E とすることである。頭と尾がつながる配置で U>0 となり、引き合う配置で正のエネルギーになる矛盾が生じる。r±d1/2 での電位の差を q1V(r−d1/2)−q1V(r+d1/2) と書く誤りも、同じ符号の逆転を引き起こす。
[5] 相互作用が最小となる p1 の向き
[4] の U=−p1⋅E は、p1 が P1 の位置の電場 E に平行なとき最小になることを意味する。大きさ p1 が与えられているので、p1 の向きだけを動かす。(a) の位置では [3] の確かめのとおり E は p と同じ向きなので p1∥p になる。(b) の位置では E が p と逆向きなので p1∥−p になる。2つの答えが逆向きになる理由は、電場の向きが位置で逆転することである。
2つの双極子がともに z 軸に平行(同じ向き)な場合は、r と z 軸のなす角を Θ として U=4πϵ0r3pp1(1−3cos2Θ) とまとめられる。Θ=0 の係数は −2 で (a) の最小値に一致し、Θ=π/2 の係数は +1 で、(b) の最小値 −1 は p1 を反転して符号を変えた値に当たる。また cosΘ=1/3(Θ≃54.7∘)で U=0 となり、縦に並べると引き合い、横に並べると反発するという関係が角度で滑らかにつながる。
条件の使い方は、(a) で p1⋅r が p1 の z 成分だけで決まるので p1 の横成分が U に寄与せず、α=0 がただ1つの最小になる点である。(b) では p⋅r=0 が合図になり、式が1項に簡単になる。
誤りは、(b) でも (a) と同じ向き(p1∥p)と答えることである。そのとき U=+pp1/(4πϵ0r3) は最大値で、最小値 −pp1/(4πϵ0r3) との差は 2pp1/(4πϵ0r3) になる。(a) の式で第2項 p⋅p1/r3 を落とすと最小値が −3pp1/(4πϵ0r3) となり、正しい値 −2pp1/(4πϵ0r3) の1.5倍に見積もる。
[6] 誘起双極子による相互作用エネルギー
無極性分子は電場がないと双極子を持たないが、電場 E があると電荷分布が偏り、p=αE の双極子が誘起される。比例定数 α が分極率で、単位は Cm2/V である。ここで、誘起双極子は電場に平行に向く。Aのゆらぎの向きが ±z のどちらでも、Bの双極子はそれと同じ向きに生じ、pB⋅EA=αEA2>0 となる。この結果、U は pA の符号によらず必ず負(引力的)になる。pA の平均値が零でも、pA2 の平均は零にならず、ファンデルワールス=ロンドン力が残る理由はここにある。
R−6 の由来は、電場の距離依存性 R−3 が2回現れることである。1回目はAの電場 EA∝R−3、2回目は誘起双極子 pB∝EA が EA と相互作用するときに、U∝pBEA∝EA2 となる。距離が2倍になると U は 1/64 になる。
確かめとして、次元を調べる。αpA2/(ϵ02R6) は (Cm2V−1)(Cm)2/[(CV−1m−1)2m6]=CV=J でエネルギーの次元になる。また、R が分子の大きさより十分大きいという条件が、問 [2]〜[4] の近似(点双極子、式 (1))の使用を保証する。
ここでの U は[4]の定義 −pB⋅EA である。分極に要する仕事 21αEA2 まで含めた全エネルギーは −21αEA2=−2αpA2/((4πϵ0)2R6) で、係数が2倍違う。教科書のロンドン力の式はこちらの形で書かれることが多く、[7]の力はこの全エネルギーを R で微分した値に一致する。
誤りの例は、軸上の電場で (3−1)=2 を忘れて EA=pA/(4πϵ0R3) とすることである。EA が半分になり、U は 1/4 の −αpA2/((4πϵ0)2R6) になる。もう1つは、U に pB を入れる際に pB=αpA と書き、α を無次元と取り違えることで、U∝R−3 となり、R−6 にならない。
[7] AがBに及ぼす力
一様でない電場の中にある双極子に働く力は F=(p⋅∇)E で、静電場(∇×E=0)では p を固定して ∇(p⋅E) と書ける。電場が一様なら正負の電荷に働く力が打ち消し合い、力は零である。この式は、pB を固定して EA の位置依存性だけを微分するという意味を持つ。実際、pB を固定した U=−2pApB/(4πϵ0R3) から Fz=−∂U/∂R=−6pApB/(4πϵ0R4) を作り、その後に pB=2αpA/(4πϵ0R3) を入れても、上と同じ −12αpA2/((4πϵ0)2R7) が得られる。
[6] で求めた U(R)=−4αpA2/((4πϵ0)2R6) をそのまま R で微分すると −24αpA2/((4πϵ0)2R7) となり、係数が2倍になる。これは pB が R とともに変わる分まで微分に含めた結果で、Bに働く力としては過大である。電荷分布を偏らせて双極子を誘起するには、仕事 21αEA2 が必要で、これを含めた系全体のエネルギーは W(R)=−αEA2+21αEA2=−21αEA2 になる。−dW/dR は上の −12 を与える。まとめると、力は F=3U/R(負)であり、−dU/dR=6U/R とは異なる。
点電荷で直接計算して確かめた。Aを ±q(間隔 d)、Bを ±qB とし、間隔 δ を qBδ=αEA を満たすようにとって、4つの対のクーロン力を合計した。d=10−3R では、予測値 −12αpA2/((4πϵ0)2R7) との相対差が 10−6 以下であった。
力は R−7 に比例し、U∝R−6 より1次だけ急に減る。距離を2倍にすると力は 1/128 になる。力の向きは、pA の向きによらず常にAへ向かう引力である。誘起双極子は電場に平行に生じ、電場が強い側(Aに近い側)へ引かれるからである。
U(R) を機械的に微分すると係数が 24 になるが、これは pB の R 依存まで微分した値で、Bに働く力ではない(出題者が −dU/dR を想定している場合は 24 が書かれうるので、両者の違いを答案で示せるようにしておく)。もう1つは、dEA/dR の R−3 の微分で係数 3 を落とすことで、係数が 12 から 4 に変わる。向きの誤りもあり、Fz の符号を逆にすると斥力という結論になるが、∣EA∣ が R とともに減ることから dEA/dR<0 なので、負の力(引力)が正しい。
解答
[1] 電位 V(r)
点電荷 Q が位置 r′ に作る電位は、無限遠を基準として 4πϵ0∣r−r′∣Q である。電位は重ね合わせられるので、+q(z=d/2)と −q(z=−d/2)の寄与を足す。
[2] d≪r での電位
r=x2+y2+z2 とおく。+q までの距離の2乗は x2+y2+(z−d/2)2=r2−zd+d2/4、−q までは r2+zd+d2/4 である。u=∓zd/r2+d2/(4r2) とおいて (1+u)−1/2=1−2u+83u2−⋯ で展開する。
r2−zd+d2/41r2+zd+d2/41=r1[1+2r2zd−8r2d2+8r43z2d2+O((d/r)3)],=r1[1−2r2zd−8r2d2+8r43z2d2+O((d/r)3)].
差をとると d2 の項は等しく、d の1次の項だけが残る。
V=4πϵ0q⋅r1⋅r2zd=4πϵ0r3qdz=4πϵ01r3p⋅r,
ここで p⋅r=(0,0,qd)⋅(x,y,z)=qdz を使った。右辺はスカラーで書かれているので、座標軸を回して p を任意の向きにしても同じ形になる。
[3] 電場 E(r)
静電場は E=−∇V である。V=4πϵ01(p⋅r)r−3 で、p は定ベクトルなので
∇(p⋅r)=p,∇r−3=−3r−4∇r=−3r−5r(∇r=r/r).
積の微分で
∇V=4πϵ01[r3p−r53(p⋅r)r],
符号を反転して
E=−∇V=4πϵ01[r53(p⋅r)r−r3p].
[4] 2つの電気双極子の相互作用エネルギー
P1 を、位置 r+d1/2 の電荷 +q1 と、r−d1/2 の電荷 −q1 で表す(p1=q1d1)。P1 を置いたことによる静電エネルギーの変化は、P1 内部の電荷間のエネルギー(r によらない定数)と、P1 の電荷が原点の双極子の電位 V から受けるエネルギーの和である。前者は P1 の自己エネルギーであり、r と原点の双極子 p に依存しないので、相互作用エネルギー U(r) には含まれない。後者は
U(r)=q1V(r+21d1)−q1V(r−21d1)≃q1(d1⋅∇)V=p1⋅∇V=−p1⋅E(r).
1つめの近似は、d1≪r のテイラー展開の1次までである。式 (1) を E に入れて
U(r)=−4πϵ01[r53(p⋅r)(p1⋅r)−r3p⋅p1]
を得る。
[5] 相互作用が最小となる p1 の向き
p=pz^ で、p1 の大きさ p1 と、+z 軸からの角 α を決める。
(a) r=(0,0,z):p⋅r=pz、p1⋅r=p1zcosα、r=∣z∣ なので
U=−4πϵ01[∣z∣53pp1z2cosα−∣z∣3pp1cosα]=−4πϵ0r32pp1cosα.
cosα=1 で最小となり、p1 は +z 方向(p と同じ向き)である。z>0 でも z<0 でも同じである。最小値は −2pp1/(4πϵ0r3) である。
(b) r が xy 平面内:p⋅r=0 なので第1項が消え、
U=+4πϵ0r3p⋅p1=4πϵ0r3pp1cosα.
cosα=−1 で最小となり、p1 は −z 方向(p と逆向き)である。最小値は −pp1/(4πϵ0r3) である。
[6] 誘起双極子による相互作用エネルギー
分子Aを原点、Bを R=Rz^ に置く。Aの双極子モーメント pA=pAzz^ が R に作る電場は、式 (1) で p→pA、r→R とおく。pA⋅R=pAzR なので
EA=4πϵ01[R53pAzR⋅Rz^−R3pAzz^]=4πϵ0R32pA.
分子Bには pB=αEA=4πϵ0R32αpA が生じ、これも z 方向である。[4] の式で p→pA、p1→pB とすると、U=−pB⋅EA で
U(R)=−αEA2=−α(4πϵ0R32pA)2=−(4πϵ0)2R64αpA2=−4π2ϵ02R6αpA2.
[7] AがBに及ぼす力
B の電荷 ±qB を R±δ/2 に置き(pB=qBδ)、Aの電場 EA から受ける力を足し合わせる。
F=qB[EA(R+21δ)−EA(R−21δ)]≃(pB⋅∇)EA.
z 成分は Fz=pBdRdEA(pB=αEA、EA=4πϵ0R32pA)である。
Fz=αEAdRdEA=α⋅4πϵ0R32pA⋅(−4πϵ0R46pA)=−(4πϵ0)2R712αpA2.
負の符号は、R が小さくなる向き、つまりAへ引かれる向き(引力)を表す。
最終答
[1] 電位 V(r)
V(r)=4πϵ0q[x2+y2+(z−d/2)21−x2+y2+(z+d/2)21]
[2] d≪r での電位
V(r)≃4πϵ01r3p⋅r(1次までで一致し、最初に切り捨てる項は O((d/r)3))
[3] 電場 E(r)
E(r)=4πϵ01[r53(p⋅r)r−r3p](式 (1) が得られた)
[4] 2つの電気双極子の相互作用エネルギー
U(r)=−p1⋅E(r)=−4πϵ01[r53(p⋅r)(p1⋅r)−r3p⋅p1]
[5] 相互作用が最小となる p1 の向き
(a) P1 が z 軸上:p1 は +z 方向(p と同じ向き)。(b) P1 が xy 平面内:p1 は −z 方向(p と逆向き)。
[6] 誘起双極子による相互作用エネルギー
U(R)=−(4πϵ0)2R64αpA2=−4π2ϵ02R6αpA2(pA2 に比例し、R−6 に比例する。負)
[7] AがBに及ぼす力
F=−(4πϵ0)2R712αpA2z^=−4π2ϵ02R73αpA2z^(Aへ向かう引力で、大きさは R−7 に比例する)