阪大 基礎工学研究科 物質創成専攻 物性物理科学I 2022年度 院試 過去問 解答例・解説(解説4項目)
解説4項目の分野は電磁気学・回路1項目、熱・統計力学1項目、量子力学1項目です。解説は1問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 力学:バネでつながれた2質点(重心座標・相対座標)と重力
[1] で表したラグランジアン
ラグランジアンは運動エネルギーからポテンシャルエネルギーを引いた である。バネの弾性エネルギーは、伸び(長さと自然長の差)の2乗に を掛けたもので、フックの法則 が成り立つ範囲で使える。質量の無視できるバネは自分の運動エネルギーをもたないので、 には2つの質点の項だけが入る。「滑らかで水平な床」「水平運動のみ」という条件が、重力と垂直抗力を考えなくてよいという合図になる。
確かめとして、オイラー・ラグランジュ方程式を立てると 、 となる。伸びが正のとき、バネは質点1を 向きに、質点2を 向きに同じ大きさで引き、作用・反作用の法則に合う。次元は、 の に長さの2乗を掛けて となり、エネルギーに一致する。
誤りは、自然長 を落として と書くことである。、、質点間の距離が の例では、正しい弾性エネルギーは だが、誤った式では になる。釣り合いの位置も から へずれてしまう。
[2] 重心座標・相対座標で表したラグランジアン
重心座標は質量で重みを付けた平均位置で、 は系の全運動量にあたる。座標の組 は1次の変換で、ヤコビ行列式の絶対値は1、逆変換も一意に定まる。ラグランジュの運動方程式は座標の選び方に依らず同じ形をとる(点変換に対する共変性)ので、 に上の関係を代入するだけでよい。
運動エネルギーの交差項が消えるのは、 が質量で重みを付けた平均だからである。単純平均 を使うと が残り、 のとき2つの座標が分離しない。 は換算質量で、 と書ける。
極限で確かめる。 では 、 となる。 では 、 で、重い質点が止まったまま軽い質点だけが動く1個のバネ振り子になる。
誤りは、 を と逆さに書くことである。、 で正しい は だが、逆さにした式は となり、質量の次元に合わない。この値を [4] の に入れると で となり、正しい から外れる。
[3] 重心座標と相対座標の運動方程式
が に陽に依らないので、 に共役な運動量 は保存する。外力が働かず、バネの力が内力であることの現れで、解は等速運動 である。相対座標のほうは、質量 の1個の質点が自然長からの変位 に比例する復元力を受ける単振動になり、解は である。2体問題が「重心の等速運動」と「1体問題」に分かれるのが、座標を移す目的である。
確かめは、[1] の運動方程式から作れる。 となり一致する。 も同じ式から出る。
誤りは、相対座標の式で自然長を落として と書くことである。、、 のとき、復元力は正しくは だが、誤った式では になり、振動の中心が でなく になってしまう。
[4] 相対運動の角振動数
単振動の方程式 の一般解は で、周期は である。 は運動方程式の係数 の平方根として決まり、振幅 と位相 には依らない。
次元は で、 の次元 に合う。極限では、 で 、すなわち片側を固定した通常のバネ振り子に一致する。 では となり、片側固定の場合の 倍である。両方の質点が動いて、バネが実質的に半分の長さのバネ2本として働くことに対応する。
数値は 、、 で確かめる。、、周期は である。元の運動方程式を4次のルンゲ・クッタ法で数値積分し、相対座標の周期を測ると で、公式の と一致した。
誤りは、全質量 を使った (上の数値で )や、片方の質点だけが動くとした ()を答えることである。どちらも換算質量でなく単独の質量を使っており、正しい より小さい。
[5] 鉛直方向の相対運動の方程式と角振動数
一様な重力のもとでは、質点にかかる重力 が質量に比例するので、2つの質点の加速度への寄与は共通の になる。相対加速度 を作ると、この共通の が引き算で消える。ラグランジアンでは、 という関係が同じことを表している。重心だけが重力を感じ、相対運動は無重力のときと変わらない。問題文の「重力加速度は一定」が、この打ち消しを使う合図である。
別の導き方として、力から直接 、 を作る。両辺を質量で割って引くと となる。
数値でも確かめた。、、、 の2質点を、自然長から 縮めて静止の状態から放し、運動方程式を数値積分した。 と のどちらでも、 の周期は 、振動の中心は になった。自由に落下する系の釣り合いの長さは、重力があってもバネの自然長のままである。
誤りの一つは、重力を片方の質点にしか入れず とすることである。この式の釣り合いは で、上の数値では になり、 の前提と矛盾する。もう一つは、重力でバネが伸びたまま釣り合うと考えることである。バネの上端を固定して吊るす場合は静的な伸びが生じるが、固定点のない系では両方の質点が同じ加速度で落ちるので、バネは伸びない。
[6] 水素原子のエネルギー準位と重力
一様な重力場では、各粒子の重力ポテンシャルが で、総和は重心の高さだけで決まる。2体系の運動が重心と相対座標に分かれることは、[5] の古典の議論をそのまま量子力学に移したものである。粒子間の相互作用が相対座標だけに依ること、外場のポテンシャルが粒子の位置の1次式であることの2つが、変数分離できる条件になる。問題文は相対論効果の無視を指定しているので、重力はニュートン力学の一様な重力ポテンシャルとして扱ってよい。
エネルギー準位は相対運動の固有値で、水素原子の値 に等しい。無限に重い陽子として計算した値は 、換算質量 を入れると基底準位は で、励起エネルギー()は である。全体のエネルギーは相対運動の に重心の運動のエネルギーを加えたものだが、重心の部分は自由落下の連続的なエネルギーで、原子の内部状態の準位には関わらない。
重力の影響を見積もるときの誤りは、電子だけに重力ポテンシャル を加え、摂動として準位が動くと考えることである。ボーア半径 を使うと、その大きさは で、結合エネルギーの 倍にすぎない。そもそも陽子にも同じ加速度で重力が働くので、相対座標には効かず、この摂動項は存在しない。厳密に残る効果は、重力場が一様でないことによる補正だけで、その大きさは ( は地球の半径)と、さらに桁違いに小さい。
解答
[1] で表したラグランジアン
水平面は滑らかで質点は水平方向にしか動かないので、重力は垂直抗力と打ち消し合い、運動には関わらない。運動エネルギーは バネの長さは ()なので、伸びは 、弾性エネルギーは より次を得る。
[2] 重心座標・相対座標で表したラグランジアン
、 を について解く。 に を入れると なので 時間で微分して 、。運動エネルギーに代入すると の係数は零になる。バネの伸びは である。
[3] 重心座標と相対座標の運動方程式
[2] のラグランジアンに、オイラー・ラグランジュ方程式 を使う。
:、 は を含まないので 。よって 。
:、。よって 。
[4] 相対運動の角振動数
[3] の を と書き直す。 とおくと で、角振動数 の単振動 と同じ形である。
[5] 鉛直方向の相対運動の方程式と角振動数
鉛直上向きに座標をとり、重力ポテンシャルは である。ラグランジアンは 、 に移す。運動エネルギーとバネの項は [2] と同じ計算で となる。重力の項は と重心座標だけの関数になる。したがって オイラー・ラグランジュ方程式から、重心は (加速度 の自由落下)、相対座標は となり、重力 は現れない。これは [3] の相対運動と同じ式なので、角振動数は [4] と同じ値をとる。
[6] 水素原子のエネルギー準位と重力
電子(質量 、位置 )と陽子(質量 、位置 )が、重力のもとでクーロン力により束縛されている。電気素量を として、ハミルトニアンは である。重心 の高さを 、相対座標を とすると、[5] と同じく重力の項は になる。 として と、重心だけの部分と相対座標だけの部分の和に分かれる。波動関数は積 の形にでき、束縛状態の準位を決める相対運動の方程式に は入らない。準位は で、無重力のときと同じである。
最終答
[1] で表したラグランジアン
[2] 重心座標・相対座標で表したラグランジアン
[3] 重心座標と相対座標の運動方程式
、
[4] 相対運動の角振動数
[5] 鉛直方向の相対運動の方程式と角振動数
、([4] と同じ)。理由は、重力ポテンシャルが重心座標 だけの関数で、相対座標に現れないためである。
[6] 水素原子のエネルギー準位と重力
変化しない。重力ポテンシャルは重心座標だけで書け、クーロン力による相対運動のハミルトニアンに現れないので、(換算質量を入れると で )は重力の有無で同じである。重力は重心の運動(自由落下)だけを変える。
第2問 — 電磁気学:同軸ケーブルの容量・インダクタンスと信号の伝搬速度
電磁気学:同軸ケーブルの容量・インダクタンスと信号の伝搬速度の途中式・最終答をPDFで見る第3問 — 量子力学:2準位系のハミルトニアン・密度演算子・ブロッホ方程式
量子力学:2準位系のハミルトニアン・密度演算子・ブロッホ方程式の途中式・最終答をPDFで見る第4問 — 統計力学:スピン1の独立スピン系の磁化・分配関数・エントロピー
統計力学:スピン1の独立スピン系の磁化・分配関数・エントロピーの途中式・最終答をPDFで見る年度別の解答例(5年度)
力学:回転円盤上の振り子と有効ポテンシャル / 電磁気学:導波管の遮断周波数と空洞共振器 / 量子力学:1次元調和振動子と消滅演算子の固有状態
力学:穴を通るひもでつながれた2質点の運動とパラメトリック共鳴 / 電磁気学:電気双極子の電位・電場と、分子間のファンデルワールス引力 / 量子力学:2次元の自由粒子・正方形の井戸型ポテンシャルと縮退のある摂動論
力学:引力と斥力をもつポテンシャルの極小点と微小振動 / 電磁気学:同軸円筒コンデンサと液体の電荷緩和 / 量子力学:調和振動子の基底状態と運動量表示
剛体の力学:2本の糸で吊るした直方体のねじれ振動 / 電磁気学:トロイダルコイルの磁束とインダクタンス、空隙のある鉄心の磁気回路 / 量子力学:結合した2つの調和振動子と外場による遷移
2022年度(このページ・解説4項目)
力学:バネでつながれた2質点(重心座標・相対座標)と重力 / 電磁気学:同軸ケーブルの容量・インダクタンスと信号の伝搬速度 / 量子力学:2準位系のハミルトニアン・密度演算子・ブロッホ方程式
2022年度の出題内容
解説4項目
大阪大学の公式過去問
- 公開年度範囲
- 領域別。電子光・物性物理・化学・化学工学・数理科学は2022〜2026年度など
- 公式の解答例
- 解答例の掲載なし
- 英語の扱い
- 受験する年度・専攻の募集要項で確認してください。
- 院試hubの最終確認
- 2026-10-26